公開日:2018年02月18日

ACPのプロセスにおける医師の果たす役割について:病院の医師は変化する時代の要請に対応できるのか?

こんにちは、札幌の在宅緩和ケア診療所の医師@今井です

前回の記事で高齢者の終末期医療についてACPは必要ですよね、ってこと簡単に書きましたが、今後実際の高齢者の終末期医療において最善のACPをとるためにはどの職種が一番最適になるのでしょうか?そして医師はどのように関わるべきでしょうか?特に自分は人数的、機能的に考えても診療所の医師より病院の医師がどのように関わっていくべきなのかを考えることがとても大切だと感じています。

ただこのままでは本当に大丈夫?と心配な点も少々あるので今日は病院の医師を中心にして少し書いてみたいと思います。

ACPについて

これまでの医療においては

体調変化時に対応や医師からの病状説明がされる→それを聞いてから今後の治療や療養方針を考えていく

というプロセスが主流でしたが、これからは

病状変化前から受けたい医療について繰り返し考え、キーパーソンに相談、伝えておく→実際の病状変化時に対応する

という医療の流れになることが確実です。

この医療の流れの変化に大きく寄与しているのは言うまでもなく人口の高齢化ですので、これからしばらくの間日本の人口減少局面の時代においてはこれが変わることは早々ないでしょう。

医師はどうかかわるべきか

当然このACPのプロセスには医師は積極的に関わるべきですよね。在宅医や看取りをしている外来の診療所医師に関してはACPへの取り組みは大丈夫だと思いますが、一方で専門外来に特化した診療所や病院の医師はどうでしょうか?特に自分は病院の専門診療をしている医師が高齢者の終末期医療の意思決定のプロセス、ACPにどう取り組むかは早急に考えなければいけない課題ではないかと考えています。

なぜか?現状の体制ではやっぱり病院の医師がACPに責任をもって取り組むことがかなりハードルが高く、このままではACPのプロセスにおける医師の存在感が希薄になってしまうのではないかと感じるからです。以下に理由を書き出してみます。

高齢者の終末期医療におけるACPにおいて、病院勤務の医師が積極的に関わるのが難しい理由

①普段の生活状況や顏を知らないから

ACPのプロセスにおいてはやはり本人の意思や価値観を尊重し決定していくのが重要ですが、高齢者では病院で見せる顔と自宅で見せる顔はしばし全く違う事があります。病院の外来や病室では言えないこと、自宅での何気ない会話の中から本人の意思をくみ取ることは在宅の医療者なら可能ですが、病院での診察からの説明であれば本人の真意を汲み取ることを結構難しいのではないでしょうか。また家族との関係や生活背景などの状況も病院にいる限りは把握するのが難しいですよね。

②多職種との連携のハードルが高いから

訪問看護やケアマネ、ヘルパーさんなどもACPには重要な役割を果たしますが彼らがどんな行動原理で動いているのか、何を基準に医療や介護を提供しているのかって病院で勤務していると正直理解することはできないかと思います。ACPを多職種で行うためにはやっぱり相互理解が根本になければいけませんが病院内のみで活動している限りこのハードルも中々高いと言わざるをえません。

③責任のある診療をどの科が行っていくのかぎりぎりまで明確でないから

総合診療をしている内科であればいいですが、それ以外の専門外来に特化しているところであれば複数科受診しているような高齢者のACPにどの科がメインに関わるべきか悩むところでしょう。というかおそらく現在もこの問題は顕在化しているとは思いますが、結局はどの科も自分の科の診療のみで病状変化前からのACPは自分の科の仕事の範疇ではない、というような態度となるのではないかと危惧しています。病状的にいよいよのところまできたらその診療科の医師がメインの科となると思いますが、それまではACPをどこがやっていくの?って現在の体制では明確にならないような気がします・・・

少なくとも自分がいた脳神経外科のDrであれば「基本は仕事は手術、ACPは内科の仕事だから範疇外」と考えているはずです。外科系の医師はそう考える医師が多いのではないでしょうか?(まぁそれは本来の役割分担的には正しいっちゃ正しいのですが・・・)

④地域の医療、介護資源について知らないから

ACPを正しく行うためには各医療職や介護職がある程度地域の利用できる医療や介護資源について知らないとできません。だって地域になければないものは利用できないですよね??

しばし病院の医師は専門医療に特化することに価値を見出しているため、医療外の仕事は他職種の仕事と考えます。これまではそれでよかったのだと思いますが、これからのACPの時代ではその考えではやっていけなくなりつつあります。地域の資源についてどれだけ知ることができるのか・・・・これも病院内だけの活動ではちょっと解決は難しいような気がします・・・

病院の医師がACPに関わるためにするべきこと

ということで病院の医師がACPに関わることは結構ハードルが高いのではないかと書きましたが、以下に病院の医師が高齢者のACPに関わる時にすべきことを簡単に書いてみました。

①在宅にでる

週1コマでもいいですし在宅の現場にでるのはいかがでしょうか?ただこれは本当に多忙な専門診療している先生には難しいですよね。

②多職種や医療介護資源についても積極的に情報収集し連携を自らとる

これも中々難しいですが普段の診療から気をつけていくべきですね

③専門診療していてもかかりつけ医として複数科受診をまとめていく

これも書いてて思いましたがハードルが高いです・・というか実臨床で多忙の中でやるのは実質厳しいですよね~

 

解決策の①~③まで、どれも難しいものばかりですね・・・・・でもその難しいことをしていかないと病院に勤務しながらではACPのプロセスで役に立つ意見は言えないようになるでしょう。これができないのであれば、本当に専門診療に特化してダブル主治医制にしてかかりつけ医に全部任す、ACPに全く関わらないという選択もあるでしょうがどれだけの専門科の医師がそれができるのか・・・・

 

高齢化が進行し時代が変わる中で、医師に求められる仕事内容も変わりつつあります。このまま専門科診療や病院内での診療のみで変化しないままだと医療や人生の意思決定のプロセスにおいて医師のプレゼンスが低下するのではないかと危惧しています。そうなると最終的には不利益になるのは患者さんですよね・・・・でもこのままでは本当にACPプロセスにおいて医師は不在になり訪問看護や病棟看護師さんが主導する形になるような気もしています。

 

病院の医師がACPにどう取り組むのか、この問題は現在の医療制度も絡めて考えると根が深い問題になりそうですね。皆さんはこの問題どう考えますか?よければご意見くださいね~

 

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