「生産性向上」は誰のため??【令和8年版厚生労働白書を1医療者の目線で読む】
こんにちは、札幌のかかりつけ医&病棟医&在宅医@今井です
先日、令和8年版の厚生労働白書が公表されました。今年の第1部のテーマは「これからの医療・介護・福祉の現場で働くことを考える」です。本体は440ページもあるのですが(さすがに全部は熟読できていません・・・)、概要版は13ページほどでまとまっているので、医療・介護に関わる方はぜひ一度目を通してみてください。資料はこちらです↓
全体版
概要版

ざっくり内容をまとめると、こんな感じです。
①2040年に向けて高齢者人口はピークを迎え、医療・介護の需要は量的に増え、質的にも複雑になる
②急性期医療の需要は減り、在宅医療・高齢者救急・認知症対応の需要が増える
③一方で生産年齢人口は約1,100万人減り、担い手不足はさらに深刻になる
④だからこそ、ICT・AI・ロボットなどのテクノロジーを活用した「生産性向上」が重要になる
まぁ、ここまでは「そうですよね」という内容です(^^♪ただ今井が一番おもしろいなと思ったのは、第2章の冒頭に書かれている「生産性向上の基本的な考え方」の部分でした。
白書では、医療・介護・福祉分野の生産性向上は、
単なる効率化・省力化が目的ではない
、とはっきり書いています。
業務の進め方や役割分担を見直して負担を減らし、そこで生まれた時間や人手を直接的なケアに再配分して、サービスの質や安全性を高める。そして働きやすい職場をつくり、人材の確保や定着につなげる。これが白書の考える生産性向上です。
いやぁ、本当にその通りだと思います。
でも、同じページの「期待される効果」の例をよく見ると、職員の残業削減や休暇の取得と並んで「職員1人が対応できる患者・利用者の増加」も挙げられているんですよね・・・
浮いた時間を「患者さんに返す」のか、「患者数を増やす」のに使うのか?
ここが分かれ道だと今井は思っています。
前回のブログで、「経験不要、週5勤務、担当患者250名~」という施設専門在宅医の求人の話を書きました。
ああいう働き方も、ある意味では「生産性向上」なんです(かね???(^^♪)。1人の医師がたくさんの患者さんを診れば、数字の上では効率は上がります。でもそこで削られているのは、一人ひとりの患者さんの医療・介護・生活・家族背景・ACPを考える時間、そのものです。
もちろん、量が増えること自体が悪いわけではありません。白書で紹介されている介護の先進事例(社会福祉法人善光会)では、テクノロジーの導入で職員一人当たりの利用者数が全国平均の約2.0人に対して約2.8人になり、その分職員の給与も全国平均より高い水準になっているそうです。質を落とさずに量をこなせるなら、それは本当の意味での生産性向上だと思います。
また医療現場の事例(HITO病院→当院でも昨年見学に行きましたが)では、看護師さんのケア時間が1日100分生まれ、残業が年間6,000時間減ったとのこと。こちらは「浮いた時間を患者さんと職員に返した」わかりやすい例ですよね(^^♪
つまり問題は、テクノロジーそのものではなく、それを使う側の考え方なんです。
変わらないといけないのは、実は医療者自身のマインドかもしれない!
白書のまとめには、テクノロジーは導入するだけでは成果は出ず、現場の主体的な業務改革と一体になって初めて効果を発揮する、と書かれています。さらに、既存業務への「追加」ではなく、業務そのものの「再設計」が必要だ、とも。
これ、耳が痛い医療者も多いんじゃないでしょうか??(今井も含めて、です(^^♪)
医療の世界には、まだまだこんな感覚が根強く残っているように思います。
①「医師が全部やらないと安心できない」という抱え込み
②「昔からこうやってきたから」という慣習へのこだわり
③「忙しい=頑張っている」という美学
④新しいツールを「また仕事が増える」と感じてしまう心理的ハードル
音声入力やAI問診を入れても、結局それを紙に書き写していたら意味がありません(あるあるですよね・・・)。タスク・シフト/シェアも、看護師さんや事務さん、MSWさんに「任せる勇気」がなければ進みません。医療者が自分の役割を手放すことに不安を感じているうちは、どんなに良いテクノロジーを入れても、業務は再設計されないんです。
そしてもう一つ。効率化で時間が生まれたとき、それを「もっと稼ぐため」に使うのか、「もっと患者さんに向き合うため」に使うのか。これは制度が決めることではなく、医療者一人ひとり、そして経営者の価値観が決めることだと思います。
患者さんやご家族の側も、見る目を持つべきか??
白書の調査では、医療現場へのテクノロジー導入について7割以上の方が肯定的で、特に「医療従事者の負担軽減」への期待が大きかったそうです。これはとてもありがたいことです。
ただ、テクノロジーが入ったことで「診察があっという間に終わるようになった」「話を聞いてもらえなくなった」と感じたら、それは本来の生産性向上ではありません。そのときは遠慮なく、主治医に伝えていいと思いますよ!
2040年に向けて、担い手が減るのは避けられない現実です。だからこそ、テクノロジーを「量」のためだけに使うのか、「質」のためにも使うのか。今、医療者自身の姿勢が問われているのだと思います。
皆さんの職場では、効率化で生まれた時間、何に使っていますか??そして何に使うべきだと思いますか??よければ教えてくださいね!
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