公開日:2023年11月09日

資料提供:【欧州医療調査報告書 概要版】英・独・仏の“かかりつけ医”制度 ―平時の医療提供体制、新興感染症へのレスポンス―

こんにちは、札幌のかかりつけ医&在宅医@今井です。

 

かかりつけ医とはどうあるべきなのか、そしてその制度化の是非は??コロナ禍を経て今改めて社会的な課題としてクローズアップされてきている”かかりつけ医”ですが、それを考えるのに面白い資料を見つけましたのでご紹介したいと思います。医師会関係の機構が作った資料ですが、極めて客観的に述べられる資料だと思いますよ。

日本医師会総合政策研究機構さんから↓

【欧州医療調査報告書 概要版】英・独・仏の“かかりつけ医”制度―平時の医療提供体制、新興感染症へのレスポンス―

是非読んでもらいたいので要旨のスライドを1,2枚、そして最後の”おわりに”の結語の部分の文章を引用させて頂きたいと思います。(気になる文言は赤字にさせてもらいます)

おわりに

登録制を見送った先のかかりつけ医機能制度整備に対する不満論の 1 つは、従来からのフリーアクセスのままではコロナのような感染症有事に対応できない、というものである。フリーアクセスの代替制度としてかかりつけ医制度を論じるこの議論は、経済学者や民間シンクタンク及び一部大手メディアを中心に根強い。この類型の不満論は、「かかりつけ医の登録制を導入して医療の重複を減らす」ことで、「社会保障のスリム化」を実現するべき 168 という財政再建目的も見え隠れする。財政再建の必要性やその手段としてかかりつけ医の制度化が有益か否かについて 169 は本稿の射程を外れるものであるが、かかりつけ医制度があればコロナの医療アクセスがもっと良かったはずだというのは、根拠がない。むしろ登録制と人頭払いに支えられたかかりつけ医制度を持つイギリスでの極めて困難なコロナ状況は、その逆であることを示唆している。また、GP と acute trust の間の機能分断がコロナ後のイギリスの医療提供をも困難なものとし、backlog として 5650 万人の England で 750 万人の入院待機患者を出していることは、医療提供体制には一定程度の機能重複がむしろ必要であり、単純にスリム化すればいいというものでないことも示唆している。またフランスでは、受診医療機関をかかりつけ医に限定した平時の医療提供体制をコロナの間は停止し、フリーアクセスにすることで状況を改善した。

確かに、コロナ状況における医療アクセス、特に発熱患者をはじめとするコロナに感染している可能性のあった患者の医療アクセスが悪かったことは、日本のコロナ対応の中で最も反省すべき課題である。しかし、この課題をフリーアクセスに原因帰属させるのは、欧州3か国での経験を詳細に見れば間違いであることが分かる。問題の本質は、一般医療として扱うべき状況に対してまで「特別扱い」し続けたことであり、それを基礎づけてしまった「危機対応」の在り方にある。

また、かかりつけ医の登録制を主張するもう 1 つの類型は、総合医(あるいはプライマリ・ケア)の社会的機能、つまり患者を疾患の観点のみから診察するのではなく、その患者を取り巻く住居、雇用、人間関係を含めたより広範な視点を持って問題解決を図る機能、を制度的に保障すべきとするものだ。これは、プライマリ・ケアや総合診療医を自認する医師らから主張されることが多い。確かに、地域の総合医は、患者の疾患だけでなくその患者を包摂する家族、近所づきあい、コミュニティを踏まえて患者に対応することが理想的である。実際、かつての実地医家は、患者の社会的背景を熟知した上で患者と向き合ってきた。このような医師像は、“medicine beyond pills and procedures” ( 薬 と 手 技 を 超 え た 医 療 ) と い う イ ギ リ ス の social prescribing(社会的処方)のスローガン 170 とも親和性があるように見える。しかし、分厚い地域コミュニティ自体が相当程度失われた今日の日本では診療自体が一期一会となることも珍しくなく、その前提条件が崩れている。地域コミュニティの弱体化はイギリスでも大差がないと考えられるが 171 、そのような中で GP が公共サービスの無料相談窓口となり、本来果たすべき医療機能を圧排してしまっていることが深刻な問題となっている。social prescribing は、このような社会的役割を GP 以外の職種に効率的に担当させるための手段であり、“medicine beyond pills and procedures”の重要性が強調されているからと言ってそれを医師の役割としている訳ではない。

むしろ、イギリスの social prescribing という取組の存在が示しているのは、登録制という形で医師患者関係を制度的に規定してしまったことの失敗であるというべきだ。医師患者関係もそれを強制や義務によって実現しようとすれば、無機質な契約関係に陥ってしまう。そうすると、どうしても互いが自己利益の最大化のためにその関係を利用しようとすることになる。市場でトマトやキュウリを売り買いするのであれば、このような自己利益の最大化という行動原理が、そこで取引される財やサービスの質を向上させ、社会全体により大きな効用をもたらすことにもなるのかもしれない。
しかし、トマトやキュウリとは違い、医療を継続的な信頼関係に基づくものでなければならないと考えるのであれば、このような無機質な(相手方の個性に着目しない、あるいは選択肢が極端に少ない)契約関係は医療にはむしろ不向きなものと言わざるを得ない。その点で、医師、とりわけ総合医の社会的機能を如何に担保するのかは重要な課題である。

社会的機能の重要性は、医師が患者を思いやるという側面だけでなく、実は患者が医療提供者を大事にするという点にこそある。継続的な信頼関係がなければ、NHS や保険によって医療アクセスが制度的に確保されている医療というサービスは、どうしても過剰に、無駄に、不必要に消費されることになる。イギリスの場合、無機質な医師患者関係を帰結するおそれのある登録制に、窓口払いがないというもう 1 つの制度的特徴が加わって、非医療的理由による GP サービスの過剰消費がもたらされている。
“medicine beyond pills and procedures”という social prescribing のスローガンは美しいが、これが提唱されているイギリスの文脈を丁寧に見れば、GP というイギリス型かかりつけ医制度がモラル・ハザードによって苦しんでいることの現れであることが分かる。

医師患者関係も人間と人間の結びつきの 1 つである以上、その関係自体は自生的であるべきだ。それを支える制度はあるべきだが、ドイツでのコロナ状況における開業医への経済的保障がそうであったように、あくまで環境を整備するものでなければならない。制度そのもので、医師患者関係まで直接規定してしまおうとするのは、医師患者関係とは何かを見失った政策論である。

地域コミュニティが失われた中で、患者の社会的背景にまで目を配れる医師をどのように作っていくのか。そのような医師の素養を基礎づける医師患者関係をどうすれば効率的に形成することができるか。それを支える環境としての制度はどうあるべきか。例えば地域包括ケアは、疑似的なコミュニティとして、かつての地域コミュニティに代替しうるか。これらは、今回の訪問調査を終えた段階においても、十分に答えの出せない問いである。しかし、ひとまずは、かかりつけ医の制度化がその答えではないことを確認しつつ、心構えの問題として医師自身が社会的機能を自覚して研鑽を続けるしかない。これは地道な努力ではあるが、価値のある努力である。医師の職能団体である日本医師会にはその先頭に立つ責務がある。

 

 

 

個人的には上記結論については医師会の主張を補強する形になっているので好きではないですが!(^^)!(今井はかかりつけ医推進論者です)、それでも資料に示された個々の内容については理解しておくべきかと思いますよ。

資料の一部がダメだからといって全てを否定するのはナンセンス・・・批判的吟味をしながらも学びがある箇所からは素直に学ぶべきだと思いませんか?

 

ドイツ、イギリス、フランスの各国の事情は理解できました。翻って日本はどうあるべきだと皆さんは思いますか?

 

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