公開日:2016年04月04日

医師の偏在とキャリアについて

前回の記事でも触れましたがこれから医師の需要と供給が均衡するにつれ、地域による偏在をどう解決していくかはかなり重要な問題ですね。医師側の地域(僻地)へ行くのを渋る要因としては家族のこと、子供の教育環境のことなども多々ありますが、やはり地方に行くことが自分の医師のキャリアにどう影響するか、との視点が最も大きなキャパを占めているのではないかと思います。

そこで問題提起ですが、医師のキャリアに大きな影響を及ぼすのは間違いない新専門医制度、このまま国の言うとおりに進めていいのでしょうか。自分はとてもそうは思えないです。おそらく多くの医師もそう感じていると思います。このままいけば一番困るのは医師ではなく地方在住の住民となるのは確実です。問題点を簡潔に提示している以下の記事は是非確認してみてください。医師の仕事や生き方は制度に振り回されるべきではないと思いますが、それが一因となるのもまた事実です。であるならば少しで医師にとっても、また医療を受ける地域住民にとってもベネフィットがある制度ができればいいですよね。皆さんはどう考えますか?

MRICより http://medg.jp/mt/?p=6623

Vol.082 日本神経学会に対して新専門医制度の開始延期の緊急提案をしました

安城更生病院 神経内科部長
安藤哲朗

2016年4月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2017年4月から開始が予定されている新専門医制度の内容が明らかになってくるにつれて、この制度がこのまま始まると日本の医療に百年の憂いを残すと考えるようになりました。地域医療の崩壊が加速し、専門医教育も劣化すると考えます。そこで、思いを同じくする神経内科の医師が共同で神経学会への緊急提案をしました。
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新専門医制度研修開始延期に関する緊急提案
2016年3月7日 

安城更生病院神経内科 部長 安藤 哲朗
帝京大学神経内科 教授 園生 雅弘
亀田総合病院神経内科 部長 福武 敏夫
熊本市民病院神経内科 部長 橋本洋一郎

2017年4月から開始が予定されている新専門医制度の内容が明らかになってくるにつれ、この制度の負の側面が明らかになってきました。この制度はいまだ制度設計が不十分であり、当初の理念に反して専門医教育の脆弱化と地域医療の崩壊を起こす危険性が高いと考えられます。よい神経内科専門医を教育するためにこれまで努力を続けてきた立場として、新専門医制度では専門医教育の質が低下する可能性が高いと考えます。
2016年2月18日に開催された厚労省の社会保障審議会医療部会で、新専門医制度開始時期の延期を強く求める意見が、医師会、知事会の代表などから出され、専門医制度専門委員会(仮)を設置して継続討議することが決まり、新制度の先行きが不透明となっています。一般社団法人全国公私病院連盟も新専門医制度の研修開始の延期を要望する声明を出しました。
このような時下の状況に鑑み、日本神経学会としても新たな対応が必要となる可能性があるかと思います。我々は、新専門医制度の開始の延期を要望することを日本神経学会専門医制度検討会で議論いただくことを提案します。

新専門医制度の開始を延期して、制度設計をゼロベースで議論した方がよいと考える主な理由は以下のものです。

1.専攻医は、研修期間中に複数の施設で研修することが義務づけられているが、その間の給与や健康保険などの身分保障が十分に設計されていない。これは専攻医の研修への専念を妨げると考えられる。

2.基幹病院が、大学病院や都市部の大病院に限られるため、専攻医がそれらの基幹病院に集中して、中小病院は息の根を止められる。地方で地域医療を担ってきた病院が機能を果たせなくなり、地域医療の崩壊を加速させる。

3.新専門医制度は事務作業が膨大であり、認定試験や更新を学会と機構で二重に行うことが想定されるなど無駄も多い。指導医、専攻医、管理者それぞれ、これらの膨大な事務に時間をとられて、本来の研修・教育がおろそかになる可能性が高い。

4.従来多くの大学等では卒後3年目から神経内科専門研修を開始していたが、3年間の内科専門研修が義務づけられるために、subspecialty専門研修に入る時期も完了する時期も遅れる。これは特に、女性や大学院研究希望者において、キャリア形成上多くの問題を生じる。また、このために、内科全体、神経内科への入局希望者が減少することが予想される。この問題は内科特有であり、検査手技などで専門性の高い循環器内科や消化器内科と並んで、診察手技に熟練を要し守備範囲の広い神経内科において、最も歪みが大きく現れると推定される。従って神経内科こそがこの制度に対して率先して声をあげるべきと考えるものである。