公開日:2015年12月05日

2016年診療報酬改定議論の最終的な論点です

中医協からの資料が再度でています。診療報酬改定に関する基本的な見解について、診療側と支払い基金側との意見が真っ向から対立しています。ある意味それがなければ議論がうまれないですし、利益が相反する組織同士の主張ですので至極当然といえば当然だと思います。以下に支払側委員と医療者側からの意見を全文引用し提示します。皆さんはどちらの意見にコミットできますか?自分は色々思うところはありますがここでの見解発表は控えておきたいと思います。

中央社会保険医療協議会総会(第316回)http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000105567.html より

1号側委員提出資料 http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000105861.pdf

平成 28 年度診療報酬改定に関する 1 号側(支払側)の基本的考え方
○  わが国は、急速な高齢化の進展に伴い、医療費は増加の一途を辿り、25 年度にはついに国民医療費が 40 兆円を超えた。今後、一段と高齢化が加速する中にあっては、さらなる増加は避けられない状況にある。
○  国内経済は、足もとでは緩やかな回復基調が続いているものの、政府の掲げる強い経済の実現には未だ道半ばである。医療費を含めた国民の社会保障費負担の増加を抑制しなければ、労働者の手取賃金の伸びが抑えられ、消費の下押し要因となるほか、企業においても事業コストの増大に直結することから、国内外からの投資が減退し、経済成長が大きく鈍化するのではないかと懸念される。
○  このような背景から、政府はいわゆる「骨太方針 2015」において、社会保険料を含む国民の負担増は極力抑制するとの方向性の中で「社会保障関係費の伸びを、高齢化による増加分と消費税率引き上げとあわせ行う充実等に相当する水準におさめること」を目指すこととしている。
○  医療保険者の財政は、保険料収入の伸びを上回る医療費の伸びに加え、高齢者医療制度に対する支援金・納付金の増大などにより深刻な状況に陥っている。被用者保険では、20 年度の現行制度創設以降、大幅な保険料率の引き上げを余儀なくされ、被保険者に重い負担を求めることで、財政危機をしのいでいるが、今後さらなる引き上げも懸念される。また、国民健康保険においても、依然として財政状況は窮迫しており、今次法改正により財政運営主体等の見直しとともに消費税財源を用いて財政支援の拡大措置がとられた。
○  一方、先日公表された医療経済実態調査結果では、一部の病院の経営状況にやや悪化の傾向は見られるものの、医療機関等の経営は全体としては中期的におおむね堅調に推移していると見られる。足もとで賃金・物価に改善傾向が見られるとしても、長年に亘り賃金・物価の伸びを上回る診療報酬改定が行われてきていることを考慮すれば、次期改定において患者負担や保険料負担の増加につながる診療報酬の引き上げを行うことは、到底、国民の理解と納得が得られないものと考える。
○  このため、28 年度改定において診療報酬はマイナス改定とすべきである。併せて、26 年度改定と同様に薬価・特定保険医療材料改定分(引き下げ分)を診療報酬本体に充当せず、国民に還元する必要がある。
○  28 年度改定にあたっては、医療機能に応じた入院医療の評価として急性期をはじめ患者の状態像に応じた適切な評価や在宅医療の充実を図るほか、医薬品等への費用対効果評価の導入、いわゆる「かかりつけ薬剤師」の機能の発揮などによる残薬解消や多剤投与の是正、調剤報酬の適正化、新たな目標を踏まえた後発医薬品の使用促進など、全体として効率的で質の高い医療提供体制の構築と医療費の適正化を図っていくことを基本方針とすべきである。また、その中で前回改定において重点的に取り組んだ入院および外来医療の機能分化・強化、連携の推進、長期入院の適正化、主治医機能の強化などの効果を検証し、さらに促進するための施策を講じるべきである。
○  なお、患者の視点に立った報酬体系を目指し、限られた財源を効率的かつ効果的に配分する必要があることから、個別項目については、今後の審議の進捗状況も踏まえ、改めて意見を提示することとしたい。

 

2号委員提出資料 http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000105862.pdf

平成28年度診療報酬改定に対する二号(診療側)委員の意見

◇  実調の結果を見ると医療機関等の経営は悪化傾向
今回の医療経済実態調査の結果等から、医療機関等は総じて経営悪化となったことが示された。前回診療報酬改定が実質▲1.26%のマイナス改定であったことや、消費税率引き上げに伴う補填も同時に行われたため、多額の設備投資等があり、控除対象外消費税負担が大きい医療機関では、補填が十分ではなく、経営悪化に繋がったと見られる。
◇  超高齢社会に対応するため、地域包括ケアシステムの確立を含め、国民の安心・安全の基盤のためには過不足ない財源投入が必要 団塊の世代が 75 歳以上の後期高齢者となる 2025 年に、持続可能な社会保障制度を実現するためには、かかりつけ医を中心とした切れ目のない医療・介護を提供できるよう地域包括ケアシステムの確立も重要である。
あと 10 年という短期間の中で、地域における医療資源を有効活用しながら、超高齢社会にふさわしい医療機能の分化・連携体制をさらに推進するためには、継続して改革を進めなければならない。国民の安心・安全の基盤のためには、過不足ない財源投入が必要である。
◇  医療には経済波及効果、雇用創出効果もあり、アベノミクスによる賃金上昇の方向性と整合性を取るべき
国民が適切な医療を受けるためには、過不足のない診療報酬の確保が重要である。また、診療報酬は国民皆保険体制の中で、実質的に医業経営の原資を司るものであり、医業の再生産の可能性を左右し、ひいては医療提供体制の存続に直結する。 医療用消耗品や医療機器などの価格は、技術料から包括して償還されており、価格が上昇したことにより、結果として人件費が圧迫された。医療機関の費用構造における人件費の割合は、2000 年の 50.2%から、2012 年は 46.4%へと大きく減少している。   アベノミクスの成果により、1 人平均月間現金給与総額は 2009 年を 100 とすると、2014
年は製造業が 109.3、全産業で 100.4 であるのに対し、医療は 98.0 に落ち込んでいる。また、2010 年と比べて 2014 年は、物価は消費税率の引き上げも含めて 2.8%、賃金は 2.4%と大きく上昇している。 11 月 24 日に開催された経済財政諮問会議では甘利経済財政政策担当大臣から「希望を生み出す強い経済実現に向けた緊急対策(案)」が出され、「賃金・最低賃金引き上げを通じた消費の喚起」が提案された。 医療には全国で約 300 万人以上が従事しており、特に地方において雇用誘発効果が高くなっている。医療機関が経営的にも安定し、給与等の形で医療従事者に還元されれば、特に地方の経済も活性化し、地方創生への多大な貢献につながるものと期待できる。したがって、医療において適切な財源を確保することにより、甘利大臣が提案するように賃金引き上げを通じて消費の喚起が期待できる。
◇  薬価等引き下げ分は本体改定財源に充当すること
薬価差は、制度発足時に十分な技術評価ができなかったことから生じたものであり、その不足分に相当する潜在的技術料である。薬価改定財源は、1972 年の中医協の「建議」以来、診療報酬へ充当されてきた経緯があり、歴代の厚生大臣や総理も薬価改定財源を技術料に充当されるべきと述べている。また、健康保険法では、診察、薬剤の支給、処置など
の療養の給付を受けることができるとされており、健康保険法において薬剤は診察等と不可分一体である。その財源を切り分けることは不適当である。
◇  医療界も改革すべき点は改革しながら
社会保障費は医療、介護等を中心に今後も増加することが見込まれるため、時代に即した改革が必要である。未曾有の少子高齢社会が進展し、人口が減少していく中で国民皆保険を堅持し、持続可能な社会保障を実現するためには、我々医療側から、財政主導ではなく、過不足ない医療提供ができる適切な医療環境の整備を提言していかなければならない
と考えている。
診療報酬は、医療機関等にとって経営の原資であることはもとより、国民に適切な医療を提供するためには医療機関等の経営が健全であることが重要である。さらに、そこから国民に医療提供するために不可欠な医療の進歩に伴う設備投資等のコストを賄っている。 診療報酬改定は2年毎に改定されることから、その間の物価・賃金の動向や医療の高度化
を反映するものであり、いわば地域医療を確保していくための経費であると言える。 医療機関等は国民生活のセーフティネット機能を果たしていることから、医療現場ではその社会的使命感によって、国民が求める質の高い医療に応えている。 診療報酬を増やすと、国庫負担増、国民負担増に直結するという考え方ではなく、国が国民にどのようなレベルの医療を提供するのかという国民との約束や責任・使命を果たすための費用であると、本来、考えるべきである。
今回、マイナス改定を行うことになれば医療崩壊の再来を招くことになる。政府は必要財源を確保し、診療報酬本体はプラス改定とするべきである。