東京女子医大「2歳児死亡事件」無罪確定——1医療者として正直に思うこと
こんにちは、札幌のかかりつけ医&病棟医&在宅医@今井です
今回は最近ニュースで報じられた、東京女子医大病院の医療事故裁判の話ですが皆さんの感想はいかがでしょうか?
2014年に2歳の男の子が麻酔薬「プロポフォール」の大量投与により亡くなった事件・・・当時研修医だった医師が業務上過失致死罪で起訴され、10年以上にわたって争われてきた裁判が、検察側の控訴断念により元研修医の無罪として正式に確定しました。
まず、亡くなった男の子とご家族のことを
裁判の話をする前に、まず先に。2歳で亡くなった男の子のこと、そしてその後10年以上を悲しみと法廷の中で過ごされてきたご家族のことを思うと・・・・言葉がありません。どんな結論であれ、その子の命が戻ることはない。その事実の重さは、裁判の結果とは全く別の次元にあります。
研修医に責を求めるのは、正直酷だと思います
本事案に戻ると、今井の率直な感想を言わせてもらうと「研修医に刑事責任を問うことには、最初からずっと違和感がある」が本音です。
研修医というのは、まだ医師としての経験を積んでいる段階・・・すべての判断を独立して下せる立場には当然ありません。プロポフォールという薬剤の使用判断、投与量の管理、患者の状態変化へのリスク評価・・・・これらを研修医一人に委ねていたとしたら、そもそもその体制がおかしいしそんなことはないはずです。(今井も研修医時代を振り返ると、指導医の指示のもとで動いていた場面が無数にあります。もし何か起きたとき自分一人が刑事責任を問われる可能性があると思ったら・・・・正直背筋が凍りますし医療なんてできないかなと)
責められるべきは、その研修医を適切に指導・監督できていなかった指導医であり、そういう体制を放置していた組織ではないでしょうか。無罪確定は1医療者としては当然の結果ではないかなと考えています。
東京女子医大の組織ガバナンス、本当に改善されているのか
ただもう一つ気になっているのは、元研修医の無罪が確定して「終わり」になってしまっていないか、ということです。
この事件で本当に問われるべきだったのは、組織としての東京女子医大のガバナンスだったはずです。なぜ研修医が適切な指導なしにあの状況に置かれたのか。指導医は何をしていたのか。病院の管理体制はどうだったのか。そして研修医個人を切り捨てる形になっていないか、ということ。
10年以上経った今、東京女子医大の組織としての体制は本当に変わったのでしょうか??正直、そこへの検証と説明責任がきちんとなされているのかどうか、今井には見えていません。無罪確定で個人の話が終わっても、組織の話が終わってはいけないのではないでしょうか。もっとフォーカスされるべきでは??
医療の過失=刑事責任、という流れになってほしくない
もう一つ、今回の件で強く感じていること、それは「医療事故=刑事事件」という流れが一律になってしまうことへの懸念です。
医療は不確実性との戦いです。最善を尽くしても、予期しない結果が出ることがある。それは医療の本質的な限界でもあります。その「結果が悪かった」という事実だけをもって刑事責任を問う流れになってしまったら・・・・誰も難しい症例に手を出さなくなる。高リスクの手術を引き受ける医師がいなくなる。それは結局、患者さんが一番困る事態ですよね。
医療の過失に対する責任の取り方は、刑事罰ではなく民事・行政的な対応と、組織としての再発防止の徹底で対処していくべき、というのが今井の考えです。もちろんケースバイケースで悪意や重大な過失が明確な場合は別ですが、一律に「医療事故=刑事責任」という流れにだけはなってほしくないなと。
10年以上かかった裁判がようやく終わりました。でも本当の意味での「終わり」は、同じことが二度と起きない医療体制が作られたときだと思っています。皆さんはこの事件と裁判についてどう考えますか??
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