公開日:2023年06月09日

地域枠医師をめぐる問題は社会全体の問題として考えてもらいたいと思います~<MRIC Vol.23096 「人の道」を外れた医学部地域枠制度>より~

こんにちは、札幌のかかりつけ医&在宅医@今井です。

MRICさんの記事はちょくちょく目を通していますが、今回の記事については是非皆さんにも一読してもらいたい、いい問題提起の記事だと思われたのでご紹介させて頂きたいと思います。

自治体、厚生省、日本専門医機構、大学とそれぞれが地域枠の医学生を自分達の好きなように扱っている現状、絶対におかしいと今井は思います。是非皆さんも読んで感想を聞かせてください。そして問題意識をもったなら積極的に関わっていってあげてください。以下どうぞ↓

MRIC6月6日の記事より

MRIC Vol.23096 「人の道」を外れた医学部地域枠制度

地域枠医学生・医師を支援する会
代表 坂根みち子

2023年6月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

医学部地域枠が大変なことになっている。私はかねてから、医学部地域枠の問題を指摘し、地域枠医学生や医師からの相談に個人的に乗ってきた一開業医である。
同じような意見を持つ仲間と2022年11月に「地域枠医学生・医師を支援する会」を立ち上げたところ https://www.m3.com/news/iryoishin/1097586 相談が殺到している。今順番に相談に乗っているところだが、初期研修が出来なくなった人、専門医コースに申し込めずに宙ぶらりんになっている人、うつ状態で医師自体やめてしまった人まで、様々な実害が発生しているのである。これはもう個人の不利益のみならず国の損失と言っていいだろう。制度の趣旨からして本末転倒だ。医学部の地域枠は2007年には183名(2.4%)しかいなかったが、医師不足を背景に2008年から臨時増員が許され、2020年には1679名(18.2%)と6人に1人が地域枠生になるまで増やされていた。ところが文科省も厚労省も実態把握もせずに、大学や自治体のフリーハンドに任せていた。
地域枠制度では、「自治体から6年間で1200万円程度の奨学金を貸与する代わりに、卒後9年間指定の医療機関で働けば返済しなくていい」とするパターンを中心に様々なタイプが乱立したが、誰しも不要なお金を借りて9年間も拘束されたくはないので、地域枠は不人気で定員割れが続出し、大学はそれを一般枠として流用していた。その問題が公になり、文部科学省の西田医学教育課長(当時)が「これまで私どもはフォローアップをちゃんとやっておりませ んでした。」と謝罪したのが、2018年11月28日である(厚労省医師受給分科会議事録)
https://www.mhlw.go.jp/content/000464939.pdf
ここから、制度の改善ではなく、厚労省・文科省・大学・自治体による地域枠生に対する締め付けという改悪が始まった。
厚労省によると「地域枠履行状況等調査」では、2008年度以降に地域枠として入学した学生は9707人。うち離脱者は総計450人(4.6%)だったが、「地域枠離脱が一定数生じている。医学部の受験倍率が1を超えていることを踏まえると、地域枠離脱者は、入試の時点で確実に当該都道府県内で医師になるはずだった者の医師になる機会を奪うという「道義的責任」が残る」ということで法的な問題ではなく道義的責任が問題にされた。 https://www.m3.com/news/iryoishin/739137
実は、2019年度の地域枠生879人中地域枠離脱者はたったの9名(1.0%)、2018年度も805名中離脱者はたったの9名(1.1%)だったのだが、一人の離脱者も許さないという方向に舵を切ったのである。厚労省は地域枠生の名簿を作成し、都道府県の同意を得ずして離脱者を採用した医療機関を呼び出し補助金の削減を決定(厚生労働省医道審議会医師分科会医師臨床研修部会 2019年7月3日)した。併せて臨床研修病院の指定の取消しを示唆した。これにより、都道府県や大学の不同意となった研修医の研修先が消滅した。
以後都道府県と大学の「不同意」は絶対的な力を持つようになった。当会に相談のあった地域枠医師は、これが言い出された2019年の夏に離脱を願い出たために、奨学金を10%という高利な利息付きで一括返還したにも関わらず「不同意離脱」とされ、初期研修は地域枠の縛りのある地域で行わざるを得ず、さらに専門医取得の道に進むも日本専門医機構では、「不同意離脱は原則不認定」という方針を、2021年12月に突如としてHPに掲げたために(現在は一旦これを取り下げ、ワーキンググループで検討中)身動きが取れなくなってしまった。同様に入学時には全く説明されていなかった後付けの制度をその時の地域枠生に適応させるという暴挙に出た大学と自治体が多発したために、様々な事情で離脱が必要であった地域枠生達が大混乱に陥ったのである。

翌2020年厚労省は次なる手を打った。各自治体に入学時に離脱を認める事由の明示をするよう求め、離脱事由の例として次の10項目を挙げた(2020年8月31日 医療従事者の需給に関する検討会医師需給分科会)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000665193.pdf
(1)家族の介護 (2)体調不良 (3)結婚 (4)他の都道府県での就労希望 (5)指定された診療科以外の診療科への変更 (6)留年 (7)国家試験不合格 (8)退学 (9)死亡 (10)国家試験不合格後に医師になることをあきらめる場合 https://www.m3.com/news/iryoishin/817538

ところが、今度は、上記のうち(6)留年 (7)国家試験不合格 (8)退学 (9)死亡 (10)国家試験不合格、以外一切離脱は認めない自治体が多発した。しかもそれを2020年度以前に入学した人にも当てはめたのである。どの法律家に聞いても呆れられたが、医療界は「無法地帯」と化したのである。

厚労省と専門医機構は問い合わせに対し「具体的な事例が届いていないのでわからない」という態度だが、実際には窓口でのたらい回しにあっている。また医学生のうちの離脱表明は、現在では激しいパワハラ、かつ進級・卒業に不利益となるため、地域枠医学生が声を上げられないというのが実態である。当会でも医学生からの相談に対しては現時点では離脱表明を急がないように勧めている。すでに何人もの医学生がこの問題をきっかけにハラスメントにあい鬱状態になっているからである。

これに関しては、すでに2015年の日本プライマリ・ケア連合会誌に地域枠制度の問題点として「大学当局のみならず直接指導にあたる教員がアカハラ加害者に陥る危険性があり、教員の安全性を担保できない」https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/38/1/38_31/_article/-char/ja/
と、教員側が加害者となってしまう可能性が高いことを指摘した論文が発表されていたが、まさにそれが現実のものとなっている。慧眼である。

現在日々の診療を終えるとZoomでの面談に追われている。カメラを通して泣いている地域枠生を見るのは切ない。
ライフイベントを考えない制度設計。結婚しても夫婦一緒に住めない、子育ても一緒にできない。離脱するなら医師にはなれないとか、専門医にはなれないとか、地域枠生に問題があるのではなく、制度設計と運用に問題があるのだ。システムの問題を放置し地域枠生個人の問題にされ、教授のパワハラ・マタハラ・モラハラを誘発している。そして入学時の募集要項に沿って奨学金を返還しても「同意離脱」を認めず、「道義的責任」を盾に地域への貢献をごり押ししてくる担当者たち。皆加害者になっているという自覚さえない。
そういえば、地方自治体の担当者に、子育ては一人でもできるでしょと言い放った厚労省からの医系技官もいた。すでに相談者の中には、医師を続けることさえ辞めてしまった人も出ている。重大な人権侵害である。

さてそれでは2022年度以降は、入学時の誓約書に書いてあるからいいのか、
筆者に住む茨城県の本年度の奨学金貸与ガイドブックには「本制度から正当なく離脱し、県が本制度の離脱に同意していない場合(不同意離脱)は、不同意離脱を採用した病院は厚労省からの補助金が減額される場合があります。また。不同意離脱となった場合は、日本専門医機構の専門医の認定がなされないことになります」と記載されている。さらに県に提出する誓約書には「離脱の理由が、退学、国家試験不合格、死亡などの理由により医師として勤務することが不可能である場合を除き、本制度に定められた従事要件を満たさずして離脱した場合には、新専門医制度における専門医の認定にあたって、県が国及び日本専門医機構に対し、個人情報の提供及び県の同意を得ずに離脱した者(不同意離脱者)であると回答することに同意すること」とまで書かれている。
茨城県の顧問弁護士は、これに先立って、本人が了承していたとしても提訴された場合、敗訴する可能性が高いと述べていたはずだが、茨城県はなぜこれを強行したのだろうか。 https://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/jinzai/ishikakuho/documents/02_shiryo2.pdf(茨城県地域医療対策協議会2021年3月22日開催)
当院には、せっかく医学部に入り希望に燃え喜んでいた本人・家族が、ここまで厳しい縛りを課せられた文書を読んで愕然とし、この誓約書を出すべきか1年浪人して一般枠の医学部を目指すべきかで悩み不眠となり患者として訪れたという嘘のようなホントの事例が出た。

さて、無法地帯と化した地域枠界隈だが、現状の改善がないのであれば裁判を起こしてもいいという人たちが出始めている。裁判は時間もお金もかかる。良い環境で研修に集中してほしい大切な時期でもあるが、国と地方自治体、大学の対応がいつまで経っても変わらないのであれば、もはや、やむを得ないのかもしれない。

人生を制度で締め付けて生殺し状態で働かせるのと、「やってみなはれ」とその人の持つ能力を最大限活かせるようにサポートするのでは、どちらがいいか自明であろう。人の命を助ける仕事をする人たちが「道義的責任」を盾に人の道に外れたことをしている。こんなことをやっている国はない。目の前の医師の確保しか考えない近視眼的なリーダーは結局この国を滅ぼす。
参考
医学部地域枠は無法地帯〜コロナのパンデミック下で進む人権侵害〜(坂根みち子)http://medg.jp/mt/?p=10465
医学部地域枠は医療の未来を潰す ~医学部地域枠の選択は勧めません~(坂根みち子):http://medg.jp/mt/?p=9847
医療界と厚労省は若手医師を解放せよ ~医学部地域枠から専門医制度まで、ここまでくるともはや人権侵害~(坂根みち子):https://ibiken.net/jouhou-hasshin/post-13319/

 

 

どうですか。見て見ぬふりをして20代の若者の、医師になりたいという希望がある人の道を犠牲にしますか?もっといい制度設計があると思いませんか?皆さんのご意見聞かせてください。

 

 

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