公開日:2022年07月17日

医療における”予見可能義務””回避可能義務”はどのレベルまで求められるべきなのでしょうか~高知医療センター転落事故裁判~

こんにちは、札幌のかかりつけ医&在宅医@今井です。

 

高知医療センターで2015年に起きた転落事故のことを皆さんご存じでしょうか?ICU入院中の患者さんがベット柵を乗り越え転落、その後亡くなったという事件です。病院の過失を巡り裁判となっていたようですが、地裁では病院が勝訴したのですが、高裁では逆転敗訴となったようですね。

高知の病院側に賠償命令 入院患者がベッドから転落

「高知医療センター(高知市)で2015年、入院していた男性患者=当時(26)=がベッドから転落し、その後死亡したのは、防止措置を怠ったのが原因として遺族が、センターを運営する高知県・高知市病院企業団に約8200万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で高松高裁は3日までに、約6600万円の賠償を命じた。2日付。  請求を棄却した一審高知地裁判決(20年6月)を取り消した。医師や看護師の対応に過失があり、男性の転落や死亡との因果関係を認めた。  病院企業団は「納得しがたい。事故の予見は困難だと考える。判決(の内容)を精査して対応する」とコメントした。」

 

もう少し詳しい記事がm3にでていましたので少しだけ引用させて頂きます。

「ICU臨床への影響大、不当判決で看過できず」高知医療Cが上告

「高知医療センター(高知県高知市)で2015年、入院していた20代の男性患者がベッドから転落し、その後死亡した件で、防止措置を怠ったのが原因として損害賠償を請求された高知県・高知市病院企業団は、請求を棄却した1審高知地裁判決を破棄し、約6600万円の賠償を命じた2審高松高裁判決を不服として、最高裁に上告受理申し立てをした。同病院企業団は「我が国のICU臨床に大きな影響がある極めて不当な判決で看過できない」と争う姿勢だ。

上告受理申立書は6月13日付で高松高裁に送付、6月16日付で上告受理申立て通知書が届いた。

同病院企業団によると、事故は救急搬送された20代男性の重症ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の患者が、ICUに入院中に発生した。人工呼吸器を装着し、身体抑制を行っていたが、看護師がベッドから離れた8分後に、安全ベルトを外し、人工呼吸と中心静脈カテーテル等を自ら引き抜き、30cmのベッド柵を飛び越えて後頭部から転落。脳死状態となり、3カ月後に亡くなった。

1審「予見し得たとは認められない」「非常に稀な事故」

男性が死亡したのは病院が防止措置を怠ったのが原因として、遺族は約8200万円の損害賠償を求めた。1審の高知地裁は「呼吸苦、もしくはせん妄またはその両方により不穏状態に陥り、これによりベッドから転落する危険があることを予見し得たとは認められない」として請求を棄却した。

1審判決によると、「転落する19時間前には不穏行動があったが、鎮静を継続することで概ね傾眠ないし軽い鎮静状態(RASS-1~-2)にあった。転倒転落アセスメントやせん妄評価を実施しており、転落6時間前には転倒・転落のリスクは相当低下、27分前には爪切りを行える程度に落ち着いていた」と評価。「ICUに入院していた患者がベッドから転落するという事故は被告病院でも皆無。ICU臨床ガイドラインにも転落に関する記載はなく、非常に稀な類型の事故。そもそも発生を予見することが著しく困難」と結論づけた。

2審「予見可能性がなかったとは認めがたい」

一方、2審高松高裁判決では「気管内挿管を受けた状態では、浅い鎮静化にある患者が突発的に危険行動を取ることは珍しくない。転落19時間前に暴れる、5時間前に気管チューブを握るなど2度に渡り不穏行動があり、不穏の程度が大きかったことから予見可能性があった」と、一審判決を覆し、予見可能性を認めた。転倒転落アセスメント評価については「被控訴人病院の内部評価にすぎず、この評価が存在することで予見可能性がなかったとは認めがたい」と判断した。

さらに、「通常はICU全体を見渡せる人員を常時1人確保すべきところを確保しておらず、結果回避義務違反に当たる」「浅い鎮静に留まっていた以上、ナースコールの設置義務があった」「転落を予見できたのだから、離床センサーを設置すべきだった」ことなどを病院の過失として指摘した。・・・・」

 

結局この裁判は医療における予見可能性、回避可能性があったのかどうか、注意義務違反があったのか、というのが争点だと思います。

 

正直臨床現場の、特に救急中心の診療科で病院勤務歴がある程度ある自分からすると、この判例がでてしまうと医療が萎縮するし助けたい患者さんも助けられなくなるな、というのが本音です。

ある一定レベルの医療を提供しているにも関わらず、亡くなったという結果をもって「予見可能性があった、注意義務違反だ」と事後に断定されてしまうのが頻発するようであれば、正直全員身体拘束するか家族につきっきりで看てもらうしか病院としては対応策がなくなります。せん妄なんてどんなに頭がクリアな方でも高齢者であれば手術や検査前後で一定数おきますし、体調不良時の意識障害なんて本当に誰でも十分に起きうる話です。

ICU入室するなら必ず身体抑制必須にするの?と言われれば臨床的な感覚としてはその必要性はないですが、本件の結果を鑑みて予見可能義務の見地から考えると今後は現実的にはほぼ完全抑制しなきゃいけなくなるのではないでしょうか?・・・・あと高齢者でもそうですよね。

結果として誤嚥リスクが高くなろうが獅子筋力低下が顕著に進み廃用リスクが高くなろうが、判例で出てしまった異常は病院や現場は対策しなきゃいけないですから大多数の国民や患者さんにとっては不利益をもたらす形になると思います。

 

弁護士の先生は本裁判の結果が医療全体、社会全体に及ぼす影響も考えて判決を下しているのでしょうか?医療における予見可能性、回避可能性などの注意義務はどのレベルまで医療者が責を負うべきなのでしょうか?

これから社会で働き手がさらに少なくなる中、医療現場はさらに過酷な人手不足、介護士不足、看護師不足とも戦わなければいけません。病院の注意義務違反、予見可能性、回避可能性違反の裁判が頻回に起こるようであればますます医療提供体制が貧弱化し現場が悪循環に陥ると思います。

医療者からの見方、弁護士からの見方、一般の方からの見方、もちろん全然違うと思います。が、社会全体の最適化を考えるという点からは同じ日本人として同じだと思っています。今後は社会全体のコンセンサスが必須ですね。

 

皆さんはどこまで医療機関の責任が問われるべきだと思いますか?よければご意見くださいね。

 

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