公開日:2021年06月23日

2040年の社会状況、医療提供体制はどうなっている??~病院のあり方に関する報告書2021年~

こんにちは、札幌のかかりつけ医&在宅医@今井です。

 

公益社団法人全日本病院協会から今月「病院のあり方に関する報告書 2021年版」が発表されました。2040年の社会状況がどうなっているのか、その中で医療はどうなるのか、医療を提供する病院はどうなるのか、とても興味深い内容の資料として読ませて頂きました。

未来は確実に今から変化していきますが、どのように変化していくのかを予測して、準備することは誰にでも可能です。将来を見据えて行動するためにも、有識者がまとめた資料を一気読みさせて頂くことは、自分で色々考えたり調べたりするよりも短時間でよりいい情報を得ることが可能です。いわゆる「コスパがいい」ってやつです。

社会や社会保障体制がどうなるのか興味ある人は是非一読してみてください。以下資料の中から気になった部分を少しだけ引用します。

病院のあり方に関する報告書 2021年版

 

第2章 「想定される 2040 年の世界」
本報告書は、主に政府・公的機関や研究者ならびに信頼性の高いシンクタンクなどから出されている情報をもとに、2040 年の世界を以下のように想定し、これを前提として医療・介護・福祉の提供がどうあるべきか議論した結果をまとめている。
1)人口・社会構造
1.人口
人口統計は比較的信頼性が高いとされる。不確定要素としては外国人の受け入れに対する政策、体制の整備により、外国人の流入が影響を
受ける。外国人は若年者の割合が多いこと、また定住した場合には出生率が高いことが想定されることから人数に比較して、社会に与える影響が大きい。
2040 年まで総人口は減少傾向が続く。年少人口、生産年齢人口は減少する(図2-1)。老年人口は全体とすると増加するが、これは後期高齢者(75 歳以上)の増加によるものであり、前期高齢者(65 ~ 74 歳)はむしろ減少する。年少人口は、これまでも減少傾向が続いていたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)世界的大流行により出生が大きく落ち込み、日本を含めて各国が少子化対策のために社会保障費の配分の見直しを行う可能性が高い。その効果については、現時点では予測が困難であるが、少子化対策の結果生じる年少人口増加は 2040年においては医療・介護・福祉の主要な利用者ではないため、医療・介護・福祉提供のあり方を議論する際には大きな影響をもたらさないと考えられる。
世界人口も高齢化が進むが、特に東アジア(台湾、韓国)において顕著である。かつて日本は高齢化において世界のトップといわれたが、現在では高齢化は東アジア諸国に共通した問題となっており、東アジア諸国がむしろ1つのトップグループを形成していると考えた方がよい。トップグループ諸国は世界に向けた情報発信の役割が期待されており、相互の情報共有
の必要性が増している。また、東南アジアにおいて、フィリピン、インドネシア、ベトナムなど、外国に労働力を供給する余力を有する国も限られてきている。
2.高齢者の雇用継続
教育期間の長期化、栄養状態の向上、体力的な負担の軽いサービス産業の占める割合の増加により、かつての 15-64 歳を生産年齢人口とする人口統計の意味は薄れてきている。むしろ20-74 歳、あるいは、多様な働き方の選択肢が増えることを考慮して 65-74 歳においては 20-64歳の 1/2 として生産年齢人口を推計することが実際的であろう(表2-1)。
65-74 歳の就業を可能とすることは、(1)熟練労働力の絶対数の確保、(2)年金受給年齢の繰り下げ、の観点から重要である。そのため、同一労働同一賃金の推進、多様な働き方を可能とする働き方改革、テレワークの推進が必要である。
医療・介護の現場では、専門家によるコンサルテーションなどの遠隔療、患者の居宅における生体機能のモニタリング、画像診断における AI(ArtificialIntelligence, 人工知能)の導入などが推進されると予想されるが、これらは、医療・介護人材の効率的な配置の観点からも必要である。
3.経済成長率と経済規模
OECD の推計では 2040 年の日本の GDP は2020 年に比較して 24.7%増加にとどまり、低成長が続く見通しである。一般に、国の成熟化とともに経済成長率は低下することが多い。1人当たり GDP では、OECD 諸国の中での中位を維持する見込みである。人口規模の大きな中国、インドなどの LMIC(LowandMiddleIncomeCountries)では日本に比較して経済成長率は高いことから、日本の相対的な経済規模は低下し、これは国際的な発言力にマイナスの影響を与えることが危惧される。従来、日本のプレゼンスが大きかった、国際連合(UN)、世界保健機関(WHO)、アジア開発銀行(ADB)などの国際機関、ISO などの標準化・認証において、発言力を維持するためにこれまでに増して大きな努力を強いられるようになる。
4.医療・介護従事者の確保
医療・介護は労働集約的な面があり、業務量の増加は必要人員数の増加に直結する。全産業労働人口は減少するにもかかわらず、医療・介護に従事する者は増加する。また、医療・介護従事者においても専門分化の進展、高学歴化、高齢化が見られる。医療・介護に必要な人員をいかに確保するかは重要な課題である。働き方改革により過重な業務負荷を避け、多様な働き方を可能にすることが推進される必要がある。
地域によっては、特定の職種を確保することが困難になることも予想される。医療・介護職従事者の需要にあわせた配置の工夫、遠隔診療の推進、医療施設などにおける人員基準の弾力的な運用などが検討される必要がある。
以下は、主要な検討課題である。
・医療・介護従事者の教育研修、専門資格の取得にあたって、不足地域での一定期間以上の経験を要件とすること
・医療・介護従事者に地域毎に(何らかの形での)定員を設け、あるいは報酬を増やすなど経済的誘導を図ること
・遠隔診療、人員基準について地域ごとに運用ルールを設定すること

4)医療イノベーション
官・民を含めて多くの組織が将来予測を行っている。2020 年2月、(公)未来工学研究所は「国・機関が実施している科学技術による将来
予測に関する報告書」で、各分野の将来予測について紹介しているが 9、このうち医療イノベーションに焦点を当てたものとして「未来イノベーションワーキンググループ」報告がある(図2-2)。
未来投資会議において厚労大臣から「2040 年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現を目指し、①雇用・年金制度改革等、②健康寿命の延伸プラン、③医療・福祉サービス改革プラン(生産性向上に向けて、ロボット・AI・ICT 等の実用化推進)」が提示されたが、③に関して 2040 年頃における人と先端技術が共生する未来の医療福祉分野の在り方の検討内容を中間報告として示している 10。中間報告では、2040 年にかけて見込まれる基盤技術の個々の進化、ならびにその組み合わせにより以下の変化が社会にもたらされると想定している。
①通信技術向上によるデータ収集の粒度、解析ロジック(AI 等)、マシンパワーが向上し、シミュレーションおよび最適化が加速して、需給の最適化など、社会現象のコントロールが一定程度可能になる。
②個々のデータが大量に取得可能になり、ニーズへのマッチングが進み、新たな製品・サー ビスの創出が可能になる。
③ロボット技術が進化し、自動化・省力化が進む。
とし、
・交通渋滞の解消や自動運転の普及により移動が容易となり、自由に使える時間が増加し、虚弱な身体でも移動が比較的容易になる。
・個々人の行動やタイミングに特化した広告がうまれる。
・ロボットが人間の行動範囲をほとんどカバーするようになり、多くの業務を代替し、効率的業務分担が可能となる。
・超大容量の情報伝達が双方向で可能になり、高精細画像伝送の時間ずれがなくなり、多くの端末との接続も可能となる。
等の具体例も示されている。
健康・医療・介護に関しては、技術の拡がりから、これまでのイノベーションでは医師の診断・治療をより行いやすくするものが主であったが、今後は予兆の検知や予防など、介入の場所やタイミングを広げるものが増加すると変化を指摘している。現在のイノベーションは、医師の診療行為をより見えやすく、行いやすくするもの(Angio-CT、SPECT-CT、da Vinciなど)であるが、医師が従来の診療プロセスでは気づかない兆候を把握しアラートを与える(センサーからの生体情報を基にしたリアルタイム予知など)、患者自身の行動変容、社会生活の質の向上を支援する(持続血糖測定を通じた行動変容支援など)システム導入を予測している。
また、「人と先端技術が共生し、一人ひとりの生き方を共に支える次世代ケア」として以下の8つの視点での取り組みが示されており(図2-3)、医療提供者としても前向きにとらえて具現化できるよう努力すべきであろう。
・住む場所やライフスタイルに関わらず、必要十分な医療・介護にアクセスできる。誰もが役割を担うことができる。

・医療・介護者のスキルの多寡に関わらず、誰もが不安無く質の高い医療・介護を提供できる。
・医療・介護リソースの多寡に関わらず、専門職が人と向き合う仕事に集中し、価値を届ける事に専念できる。
・自分の状態に合った、最適な医療・介護にアクセスできる。
・働き方や働く場所に関わらず、一人ひとりの将来の健康状態が予測でき、納得したうえで、自分の意志で選択できる。
・日々の生活のあらゆる導線に、無意識に健康に導くような仕掛けが埋め込まれている。
・ライフステージにおける様々な変化に直面しても、「うーん」とならなくてすむ。
・心身機能が衰えても、技術やコミュニティーによりエンパワーされ、一人ひとりの「できる」が引き出される。
医学研究に関しては、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、第 11 回科学技術予測調査 S&TForesight2019 総合報告書において将来見通しを示している 11。専門家を対象にした Delphi 法による調査では、健康・医療・生命科学分野、ICT・アナリティクス・サービス分野は重要度が高いにもかかわらず、我が国の国際競争力は低いと評価された。個別には、分野横断・融合によるポテンシャルが高い領域の一つとして、「プレシジョン医療 12 をめざした次世代バイオモニタリングとバイオエンジニアリング」13 があげられている。特定分野に軸足を置く領域として、ライフコース・ヘルスケアに向けた疾病予防・治療法をあげられている。
人の胎児期から高齢期までを連続的にとらえた生涯保健に関する科学技術トピックとして、
①血液による、がんや認知症の早期診断・病態モニタリング。
②がん、自⼰免疫疾患、アレルギー疾患に対する免疫系を基盤とした治療およびその効果予測。
③非感染性疾患に対する、統合的オミックス解析による病因・病態分類に基づく治療法。
④老化に伴う運動機能低下の予防・治療法。
⑤元気な高齢者の遺伝子解析と環境要因の分析による、疾患抑制機構・老化機構の解明。
⑥代謝臓器連関を標的とした、生活習慣病、神経変性疾患の予防・治療法。
⑦自閉スペクトラム症の脳病態に基づく、自律的な社会生活を可能とする治療・介入法。
⑧アルツハイマー病等の神経変性疾患の発症前バイオマーカーに基づく、発症予防および治療に有効な疾患修飾療法。
⑨Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD)の解明などに基づく、ライフコース・ヘルスケアの視点からの各年齢ステージでの適切な予防・治療。
⑩予防医療・先制医療に資する、動的ネットワークバイオマーカーを用いた疾病発症・病態悪化の予兆検出技術。

をあげ、さらにより具体的な想定される取り組みにも触れている。臨床現場にいるものとして実現を望むのは、安全かつ遅滞のない救急搬送システムの構築、手術や画像診断・在宅医療などの遠隔診療システム、AI による個別性の高い予防・診断・治療方針の決定と住民・患者の行動変容への応用、ロボットによる手術支援・患者見守り/搬送などである。
既に、スマホ利用による業務改革(石川記念会 HITO 病院)や要介護者の健康状態を可視化し(介護天気予報図)、関係者間での共同利用
をすすめている医療機関(東京さくら病院)「MBC(MedicalBaseCamp)14」の活用(織田病院)、「電子カルテクラウド化 15」(恵寿総合病院)などの実践があるが、同様な取り組みの実態を広く把握しそれぞれの長所を確認し、統一したシステムを構築し、効率化やデータの利活用ができるよう、国はこの分野において先頭に立った取り組みをすべきである。

6)社会保障制度
1.年金
社会保障制度には、社会保険、社会福祉、公的扶助、保健医療・公衆衛生の4本柱 49 があるが、普段、我々が最も馴染んでいるのが社会保険、年金、医療・介護保険等である。社会保険には、年金、医療保険、介護保険、労働保険(労災保険、失業保険)等がある。年金は、「世代間での支え合い」の原則にのっとり、現役世代が保険料を納め、高齢者の年金給付財源にあてられている。
公的年金制度は、20 歳以上で国民年金に加入義務があるが、2階建てと言われ、1階が国民全員が加入する「国民年金」、2階が会社員や公務員の加入する「厚生年金」である。厚生年金加入者は、国民年金と厚生年金の保険料を支払っているため、給付もその分多くなる。さらに、3階に任意加入の国民年金基金や確定拠出年金があり、納めた分本人に還元されるが、掛け金や運用によって大きく結果が変わるのが特徴である。給付は原則 65 歳からで、開始を遅らせることで受取金額を増やすことも可能であ
る。
各国の年金制度のベンチマークとして使われるグローバル年金指数 50 で3年連続1位となったオランダは、日本(32 位/39 か国)と同様に3階建ての制度 51 である。オランダは総合指数値 82.6、日本は 48.5 という評価で、日本は、3つの大きな指標のうち特に低評価だったのが、「持続性」で 35.9 であった。「持続性」では2004 年導入のマクロ経済スライド制の導入と支給開始年齢引き上げで年金財政に関しては一定程度将来見通しが立ったと言われている一方、かねてから指摘されている制度設計の問題、すなわち、自営業者とサラリーマン、正規労働者と非正規労働者、専業主婦と働く女性、単身世帯と夫婦世帯など、同じ世代内での公平感の問
題や、少子高齢化で現在と将来の年金受給者とで給付額に差が出る世代間バランスの問題は残ったままである。
2040 年には日本の高齢者人口(65 歳以上)がピークとなる。団塊ジュニア世代(1971 ~74 年生まれ)が高齢者となり、65 歳以上が約4000 万人となる一方、現役世代は約 6000 万人と推定され、現役世代の負担が大きくなる。世代間のバランスが大きく崩れることによって招来する主要な課題は、医療提供者にとっては医療・介護の働き手不足だが、高齢者にとっては年金が最大の問題となる。
これまでの少子高齢化問題の中心だった団塊の世代は日本の高度成長期を支えた豊かな世代で、正規雇用者が多く、したがって年金受給額も高く、貯蓄額も比較的多いが、団塊ジュニア世代は、就職氷河期世代やロスジェネといわれる世代で、非正規雇用者が多いため貯蓄額も少なく、年金受給額も低いことが想定され、貧しい高齢者の比率が増えることが危惧される。
2015 年懸案だった厚生年金と共済年金の統合が図られた現状では、年金制度に手を加えることは適当ではないと考える。当面は、支払った分が戻る仕組みでないことに不満を持つ者もいるので、基本となる国民保険は全員加入とし、その他は確定拠出年金のような自⼰責任で老後を考える仕組みも選択できるような改変にとどめるべきである。

2.医療制度(医療提供体制は別議論)
世界保健機関(WHO)の “WorldHealthReport2000” では、医療制度の目標は「高い健康水準」、「市民の期待への対応」、「公平な財政負担」の3つであり、その評価には「達成度」と「達成に要した医療資源の効率性」が必要とされている。日本においてもこれらについての定期的な
検証を行うべきである。
日本の医療制度の特徴は、①国民皆保険、②フリーアクセス、③開業の自由、④民間中心の提供体制、であるとされる。医療費の増大に歯止めがかからず、②③に関して、種々の見直しの議論が始まってきているものの、全日病としては、現時点でこれらの維持に賛成である。
3.医療保険
医療保険には、被用者保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度があるが、簡素化、一本化すべきである。2018 年財政基盤の安定化を最大の売りにして国民健康保険の都道府県移管が行われたが、市町村別保険料の統一化が容易ではないことや医療費が増大した際の保険料への影響の問題などに関して、十分な対応はなされていない。目的が果たされているのかどうかを検証し、成果が上がっていない場合は早急に対策を打つなどの取り組みが必要である。
後期高齢者医療制度については、増大する医療費に伴う国・自治体の財政負担増、現役世代からの支援金の増加の一方で、自⼰負担率の低さの問題が指摘され続けてきた。このような状況下、高齢者の自⼰負担料率が変更されたが、レセプト審査の自動化、ポリファーマシーの改善、品質管理の厳重化を条件にしたジェネリック薬品使用の義務化、超高額薬剤の保険収載への対応の見直し等による財源確保を常に考え、今後の高齢者の自⼰負担増は最小限とすべきである。
各国の医療保険制度の概略を以下に示すが、夫々に成立までの歴史背景があり、日本の国民皆保険制度は維持されるべきである。現役世代と高齢者の人口比率問題が解消される 2040 年以降には現在抱えている格差は縮小することが期待される。

4.海外の医療保険制度の概要
⑴社会保険システム(ビスマルク・モデル)ドイツ・フランス・オランダなどヨーロッパ諸国の多くは、日本と同じ社会保険方式である国民皆保険制度が基本である。
ドイツ:世界で最も早く公的医療保険制度を導入。現在国民の約9割が公的医療保険に加入。「地区疾病金庫」と「企業疾病金庫」が加入先。基本的に税金での補填なし。医療費の自⼰負担率は、医療形態により異なる。かかりつけ医の紹介状なしで大学病院などの専門医を受診した場合、10 ユーロを負担。ほとんどの国民はかかりつけ医を持ち、事実上のホームドクター制である。
フランス:100%に近い公的医療保険加入率。日本と同じサラリーマン・公務員・自営業で区別される3種類の加入団体。ドイツと同様、医療費の自⼰負担率は医療形態により異なり、フランスでは基本的に自⼰負担なしで外来診療受診が可能。ホームドクター制は義務ではないが、かかりつけ医紹介なしだと二次診療5割負担として、実質的なかかりつけ医制度を確立している。
⑵国営システム(ビバレッジ・モデル)
イギリス、スウェーデン、カナダ、ニュージーランドなどでは、国民から徴収した税を財源として、国が全面的に医療サービスを提供する保険制度となっており、全ての国民が基本的に無料で診療を受けられる。
イギリス:国営の NHS が多くの病院を運営し、病院で働く専門医も全て公務員。外来/入院診療、調剤・歯科診療・予防医療・リハビリ・地域保健などが保健サービスの対象。ホームドクター制がしっかりと運営され、かかりつけ医の紹介がなければ二次診療を受けられない。
スウェーデン:自⼰負担があるものの、年間一人あたり約1万円強の上限額があり、それ以外は原則として公費でまかなわれる。医薬品の上限もあり。病気や怪我で仕事を休む場合は、会社員・自営業者などにかかわず、国や会社から手厚い補償もある。
⑶民間保険が主体のシステム
米国は、医療費が高く保険未加入者も多い。高齢者を対象とするメディケアと低所得者が加入できるメディケイドなど、公的医療制度は限られ、その他の現役世代は対象外である。原則として全額自⼰負担。多くの現役世代は民間の医療保険に加入する以外には、医療保障を受ける手段なし。約 5000 万人は保険未加入者、他国と比べ医療費が飛び抜けて高額であり、レベルの高いサービスを高額で提供するシステム。世界トップレベルの医学や医療現場を実現しているものの、独特の保険制度や高額な医療費により、満足な医療サービスを受けられない国民が一定数存在することは、長い間米国にとっての課題である。オバマケアは、民間保険プランへ強制加入させるものだが、保険会社の負担増、保険料上昇、個人情報流出の可能性、年一回検診義務の受診期間が短い等の問題点があげられている。
5.介護保険
欧州各国に続いて 2000 年に成立した介護保険 52 は、高齢化の進展に伴う要介護者への対応に保険制度を導入したもので、20 年を経て、介護費用の増大とその負担、深刻な人手不足への対応、増える介護離職に対して介護と仕事の両立について検討すべき時期に来ている。
制度開始当時、政策の立案者が最も懸念していたのが「保険あってサービスなし」の状態だったため、民間事業者に広く門戸を開き、介護の必要度が比較的軽い人もサービスが使える仕組みにした。
この結果、介護費用は増え続け 11 兆円と当初の3倍以上になり、2040 年には 25 兆円を超えると推計されている。当面、医療よりも介護費用の伸びが大きいので、費用増加にあわせ保険料も上昇する。65 歳以上保険料の全国平均は約 5800 円/月と開始時の2倍に上り、2040 年には 9200 円に達すると推計されている。

高齢者であっても負担能力に応じた負担を導入すべしとの議論があって、2015 年より一定以上の収入で自⼰負担割合は2割になり、2018 年からさらに高収入では3割になった。負担増によるサービス利用の減少・中止は、いずれも1%余りにとどまり対象者拡大の議論もある。今後も、サービス利用控えによる身体機能悪化や、家族の介護負担増を注意深く見守る必要がある。
深刻な人員不足が続く中、団塊世代が 75 歳以上になる 2025 年にはさらに 55 万人の介護職員が必要となる。消費税引き上げ後、介護職員の処遇改善が行われたが、他産業の人手不足もあり人員確保の競合状態が持続している。急速に高齢者が増える首都圏大都市での懸念は大きく、東南アジアを中心とした外国人に期待が集まるものの自国の高齢化の進展もあるため、先の見通しは不安定である。
介護現場では、センサーやリフトの使用、介護ロボットの利用など新しい技術の導入による職場環境の改善が行われつつあるが、国はより積極的な支援を行うべきである。また、成功先行事例としての健康高齢者の介護助手としての登用も、拡大の望まれる施策である。
介護離職が拡大している問題も大変重要な課題である。介護と仕事の両立をいかに図るかが議論されてきたが、コロナ禍におけるテレワークの推進の経験から、新たな展開がうまれる可能性が高いので、よりフレキシブルな仕事ができるよう政府のみならず官民が広く知恵を出し合う必要がある。
6.生活保護
日本国憲法第 25 条の「全ての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という精神に基づいた社会のセーフティーネットとしての公的扶助制度である。必要最低限の生活費を保障し、自立の助けをするもので、8つの扶助 53 よりなり、資産調査や能力等の要件に応じ支給額は地域や世帯状況によって決められている。
最低賃金層よりも高い給付が行われているとの指摘や、労働力不足の現状から基準を厳しくすべき、アルバイトなどを認めて総給付額の削減を図るべきという点に関しても議論が進められるべきである。
7.保健医療・公衆衛生
各地域の保健所 54 や保健センターが中心となり、健康診断の実施や感染症の予防、対策等を行う。1994 年に保健所法が改正され地域保健法になるとともに、対人サービスが市町村の設置する保健センターに移行し、保健所の現在の役割は、地域の医療機関や保健センター等の活動の調整や、健康危機管理 55 の拠点となることとされている。保健所においては近年人員削減が行われてきたことが今回のコロナ禍での不十分な対応につながったので、早急に事業内容の総点検と組織の再構築が行われるべきである。
8.規制改革
2020 年7月 17 日、規制改革実施計画が閣議決定された。医療・介護分野の重点項目として、医療・介護関連職のタスクシフト、介護サービスの生産性向上(①介護事業者の行政対応・間接業務に係る負担軽減、② ICT・ロボット・AI等の導入推進、③介護アウトカムを活用した科学的介護の推進、④介護事業経営の効率化に向けた大規模化・効率化、一般用医薬品(スイッチ OTC))選択肢の拡大、医療等分野におけるデータ利活用の促進、社会保険診療報酬支払基金に関する見直しがあげられた。
限られた人材で介護サービス提供を維持するには、事業所や施設の集約化・大規模化を図って生産性を向上させる必要がある。地域に点在する様々な介護事業所を集約化することにより(大規模多機能施設)、介護人材の有効活用が可能となり、利用者は複数サービスの利用が可能となる。地域密着型サービス等は小規模で家庭的な介護を目指して創設されたが、介護保険開始から 20 年が経ち、その制度の安定性・持続可能性を維持するには発想の転換を図る時期に来ている。
行政関連の業務負担軽減については、書類自体の簡素化や標準化等すぐにできることに取り組むとともに、ICT 化を進めることが重要である。ICT 化で半歩先を行く医療分野で、電子カルテのベンダー各社がそれぞれ独自規格で開発を行った結果、異なるシステム間の連携が困難になるという状況が発生した。介護分野の ICT化では、国の強い指導のもと規格の標準化が必須であり、その際あわせて医療・介護情報の共有化のために電子カルテ側の見直しを図るよう全日病は強く主張すべきである。
医療・介護分野におけるデータ利活用の促進全般に関しても、医療・介護提供者が常に感じている問題点に関して経産省からの強いメッセージ 56 が出されており、全日病も共に行動すべきである。
現在、内閣府規制改革推進会議を中心に広範な分野で検討が行われている。6つの WG に分かれて(成長戦略、雇用・人づくり、投資等、医療・介護、農林水産、デジタルガバメント)さらに細分化された議題について検討されているが、以下医療・介護 WG における議題を列挙する。
第1回:医療・介護ワーキング・グループの当面の審議事項について/新規領域における医療機器・医薬品の開発・導入の促進
第2回:オンライン診療・オンライン服薬指導の普及促進/医薬品提供方法の柔軟化・多様化
第3回:専属産業医の常駐及び兼務要件の緩和/一般用医薬品(スイッチ OTC)選択肢の拡大/規制改革ホットライン処理方針
第4回:医薬品提供方法の柔軟化・多様化/最先端の医療機器の開発・導入の促進
第5回:最先端の医療機器の開発・導入の促進
第6回:歯科技工所の共同利用・リモートワークの解禁/介護サービスの生産性向上
第7回:中古医療機器売買の円滑化/単回医療機器再製造品の普及/一般用医薬品(スイッチ OTC)選択肢の拡大
第8回:医療分野における電子認証手段の見直し、治験の仕組みの円滑化、外部ネットワーク利用
第9回:患者の医療情報アクセス円滑化/医療分野における電子認証手段の見直し
第9回規制改革推進会議では、医療・介護関連事項に関して、行政書類の提出見直しとオンライン化、テレワーク普及促進、産業医常駐見直し、最新医療機器開発導入促進が議論となっている。
前規制改革推進会議議長の大田弘子氏(政策研究大学院大学特別教授)は、「官製市場とデジタル化:2つの課題」にて、個々の規制改革に時間がかかり過ぎること、いったん得た既得権を守る習慣があることを問題点としてあげている。官製市場と呼ばれる「医療、介護サービス、保育サービス等」の分野では、高齢化や共働き世帯の増加で今後さらに需要が拡大すると予想され、適切な規制改革がなされれば、成長産業にもなり得ることを鑑みて、経営の自由度を高めることで経営体質を強化し、従業員の待
遇を改善していく方向性をとるよう提言している。
全日病は、後述するように「地域包括ヘルスケアシステム」の必要性を提言しているが、その際に株式会社の参加も可能な「地域医療・介護・福祉連携推進法人」の創設や、広範に進むデジタル化に対しても速やかな推進を妨げるあらゆる規制撤廃の必要性も主張している。オンライン診療に関して首相が推進を約束しても関係官庁が後ろ向きという例にみるように、種々の許認可に関してある意味規制をかけることで仕事をしてきた官僚の文化を変えるべく、新しい仕組みの構築が検討されるべきである。

 

 

 

 

まあこんな感じで文章は続いていますがこれらをうけて第3章では「2040 年における理想的な医療介護提供体制」が議論されています。面白いのでこちらもお読みください。

 

どうでしょうか2040年の国の形が見えてきていないでしょうか?砂漠の中で進むときの遠くの蜃気楼のように、未来は現在でも朧気ながら見ることは可能です。予測して、準備する・・・皆さんも自分の立場で考えてみてくださいね。

 

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