公開日:2018年03月22日

WHO方式のがん疼痛治療、除痛ラダーは絶対か??在宅緩和ケアの立場から from 札幌

こんにちは、札幌の在宅緩和ケア医@今井です。

WHO方式のがん疼痛治療、非常に使い勝手いいですし理解しやすいですよね。除痛ラダーも実践的ですし鎮痛薬使用の5原則も目安としてよく使いますよ。

ちなみに確認しますが除痛ラダーはこちら↓

 

鎮痛薬使用の5原則はこちら↓

1.経口的に(by mouth)
2.時刻を決めて規則正しく(by the clock)
3.除痛ラダーにそって効力の順に(by the ladder)
4.患者ごとの個別的な量で(for the individual)
5.その上で細かい配慮を(with attention to detail)

うーん、すっきりしていていいですね。

ただこのWHO方式の治療法、もちろんですが全能ではないです。というか在宅医療が普及し高齢者が多数となり、多くのがん患者さんが認知症を合併している現状ではむしろ現実との溝が広がりつつあるのではないかと思います。

以下にWHOのがん疼痛治療法と実際の緩和ケアの現場でのギャップを挙げていきます。

①1日4回の服薬は病院外では困難

病院では服薬コンプライアンスは問題ないでしょうが、自宅に帰った途端その薬の管理を高齢者同士であれば家族が、独居の認知症患者さんであれば訪問看護師がすることになります。

1日4回のトラマールやカロナール、正直服薬はセットしたとしてもきちんとしてもらうことはかなりハードル高いです

ということで大抵1日4回服薬し手いる患者さんは1日1回もしくは2回に在宅復帰後に調整することになります。

②薬の併用も厳しい!

除痛ラダーにそって1段階→2段階→・・・・とあげていく際に通常なら併用して薬増やしていくことが多いですよね。ただ実際の現場では高齢者や認知症患者さんに多くの薬を服薬させるのってかなり厳しいです。使用薬を厳選して工夫しながら、場合によっては強オピオイドのみの投与っていうことも十分ありえます。除痛ラダーの下層の薬は絶対視しないこと、これも重要です。

③経口的に(by mouth)も結構厳しい!

麻薬って病院では経口薬→貼付薬→注射薬、の順番で使用していくことが多いですが、在宅では経口投与をきちんと管理することが難しいこと、結構あります。なのでそういう場合は諸々理由つけて貼付薬使用していくことが多々ありますね。

また独居の認知症患者さんで訪問自体を拒否する人もいます。そういう場合は経口薬なんか正直無理ですので3日に1回の貼付ですむデュロテップを使用したりもします。経口=first choice、っていう考えは実際の緩和ケアでは通用しなくなりつつあります。

④時刻を決めて規則正しく(by the clock)もムリ!

同じ理由で時刻を決めて、も結構ハードル高いです。8時20時とかきちんと12時間おきに飲みましょうねっていうのも患者さんによっては難しいですしそういう患者さんが地域には増えてきている印象です。

1日1回の服薬管理ですめばそれが一番です。

⑤その上で細かい配慮を(with attention to detail)とありますが、これは鎮痛効果や眠気や嘔気などの薬の副作用だけをみるのではなく、生活やその人のACP自体を考慮した上での配慮が望まれる

病院での薬の調整ってどうみても鎮痛のための鎮痛薬調整であったり、嘔気や眠気をださないための配慮になってしまいがちですが、在宅医療サイドとしてはその人がどうよりよい時間、生活を自宅で過ごすかを考えて薬の調整をしていきます。

例えばレスキュー全く使えない認知症独居の患者さんがいた場合、多少眠気が強くても、もしかしたら少し強めにオピオイド使ってあげて痛みがない状態を優先することが生活自体をきちんと送るためには重要になることもあるでしょう。痛みが都度出る度に救急搬送とかされていたら自宅で生活できなくなりますし・・・・

細かな配慮は医療面のみではなく生活やその人全般をみて行う必要がある、これは病院ではあんまり意識しない点ですしWHOラダーにもきちんと記載ないですが重要な視点ですね。ここの調整しないで帰ってくると上記①~④の問題が続々と出現し帰宅後にものすごく在宅医療者が振り回されることになります・・・・・

 

在宅でぎりぎりまでみていて入院になる患者さんもいますが時と場合により「なんでこんな滅茶苦茶な服薬になっているの?」「在宅医って何も知らないんだな」とかって思う病院の先生や看護師さんいるかも知れませんが、実際の在宅医療の現場では限られた訪問回数や資源、時間、家族の支援の中個別に工夫しながらWHOのがん疼痛治療の治療法を越えて在宅で緩和ケアに従事している医療者はたくさんいます。

 

WHOの治療法、ラダーを絶対視しないで入院中からガイドラインを越えた生活視点の緩和ケア治療を望みます。皆さんの周りはいかがでしょうか?よければご意見くださいね。

 

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