公開日:2016年02月16日

ポリファーマシーの問題は難しい!

最近開業してしばらくしてから今まで長い間みていた患者さんの訪問看護から連絡がありました。「・・・さん最近薬飲んでいませんよ」と。おそらく訪問医ならどこかで必ず経験したことがあると思うのですが、服薬コンプライアンスを良好に長期間保ち続けるのは高齢者や認知症の人、癌末期の場合かなり難しいのは現実です。さっそくその患者さんと話をし一番の問題はやはり薬の数が多い(これもこちらとしては少な目にしていたつもりだったんですが)ことと考えました。前医からの処方結構削ったんですが再度今どれを削るか相談している最中です。

国は今回の診療報酬の改定で内服薬削減や服薬整理、残薬確認などを推奨していますが、実際問題在宅医でもこうやってポリファーマシーの問題に悩まされているわけですから通常の外来の先生ではかなり整理は難しいと思います。個人的には正直在宅医がするとしても話し合いや家族、訪問看護師との調整などにかなり時間がかかるため、みている全ての患者さんで時間をかけて確認していくというのはかなり大変です。ここに薬剤師さんが切り込めるかどうか、医師は期待しており手助けをまっています。一緒に在宅医療のフィールドで協力してもらえたらと思っていますので札幌でアクティブに活動してくれる薬局さん、薬剤師さん何か興味あれば是非ご連絡ください。

下の記事にあるように引き算が実臨床で簡単にできたらいいですね。

 

http://site5.mtpro.jp/pt/web/preview/clinical/160106000102/ からの記事引用です

高齢者のポリファーマシーはこうして起こる

わが国でも深刻化する高齢患者のポリファーマシー(5種類以上の多剤処方)について,筑波大学病院水戸地域医療教育センター・水戸協同病院総合診療科部長の金井貴夫氏は,高齢者特有の症状と処方薬による有害事象が混在し,さらにそれに対応する薬剤が増す過程でポリファーマシーが起こると指摘。患者に説明しながら慎重に1剤ずつ減薬していく「引き算の考え方」が求められていることを,第36回日本臨床薬理学会学術総会(2015年12月9~11日,会長=明治薬科大学薬物治療学教授・越前宏俊氏)のシンポジウム「Polypharmacyへの多方面からの関わりと改善について―プライマリケア医と臨床薬理学による改善に向けて―」で訴えた。

入院患者の6割がポリファーマシー

25診療科を標榜する同院を受診中の患者の中には,院内で9診療科を受診している他,複数のクリニックを受診している患者もいるという。このように多施設を受診している患者はポリファーマシーを来しやすく,両者は正の相関にあることが海外で報告されている。

ポリファーマシーによる有害事象として,副作用の発現率,救急外来の受診率,合併症率,医療費などの増加や入院期間の延長が指摘されている。また,服薬数が多くなるにつれて転倒の頻度が上昇し,5剤以上になると急増することが,わが国で示された(Geriatr Gerontol Int 2012; 12: 425-430)。

わが国の高齢入院患者のポリファーマシーに関する報告は少ないが,2011年に同院に入院した65歳以上の高齢患者700例のうち,63%がポリファーマシーであり,4.9%に薬剤による有害事象が認められた。薬剤による有害事象を認めた患者の91%はポリファーマシーであったという(Gen Med 2014; 15: 110-116)。

足し算式から引き算式の考え方へ

金井氏は,ポリファーマシーの症例を提示し,防止のための考え方を示した。

症例は,転倒による打撲と意識障害で同院に救急搬送された80歳代の女性。腹部や下肢には打撲によるとみられる内出血があった。

主な処方薬は,(1)認知症治療薬2剤(2)H2受容体拮抗薬(3)ベンゾジアゼピン系薬(4)抗精神病薬3剤(5)漢方薬(抑肝散)(6)パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)。

同症例は認知症患者であり,まず認知症治療薬が投薬されていた()。消化管機能の不良によりH2受容体拮抗薬が追加されたが,同氏は「高齢者ではファモチジンでせん妄が起こることに注意すべき」と注意を促した。

高齢者,認知症はせん妄の危険因子(準備因子)であり,これらの患者にファモチジンを投与すれば,せん妄が起こりやすくなり,認知症治療薬もせん妄の原因となりうる。同症例ではせん妄を来したため,鎮静化目的でベンゾジアゼピン系薬や抗精神病薬,抑肝散が投与されたと考えられる。

ちなみに,ベンゾジアゼピン系薬はせん妄を増悪させ,抗精神病薬は錐体外路症状(薬剤性パーキンソニズム)を惹起する。そこで,パーキンソン病治療薬の抗コリン薬が投与された。しかし,抗コリン薬によって認知機能症状は増悪し,便秘,口渇,排尿障害,不整脈などを来しうる。このケースでは抗コリン薬がせん妄の増悪にも寄与したと思われる。

また,抑肝散7.5g中に甘草1.5gが含まれるが,甘草は偽アルドステロン症を来す。同症例で見られた低カリウム血症は抑肝散中の甘草が原因と思われた。低カリウム血症は筋力を低下させることから,転倒,打撲につながりやすい。

今の医学教育は薬剤効果を期待した足し算式の考え方が主流であるが,同氏は「離脱症状を来すような薬剤に注意しながら,慎重に減薬する引き算式の教育が求められている」と指摘した。

なお,ポリファーマシーや不適切な処方を防ぐ方策として,欧州で作成され「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」にも取り入れられたSTOPP(Screening Tool of Older person’s Potentially inappropriate Prescriptions)がある。STOPPは,不適切処方の検出に優れることがシステマチックレビューで明らかにされており(J Clin Pharm Ther 2013; 38: 360-372),同氏はこれらを活用し,ポリファーマシーに対応してほしいとした。