公開日:2016年01月21日

診療報酬改定についての基本的な考察

診療報酬改定についての議論が進んでいますが、基本的な考え方はどうあるべきか、一度振り返ってみるのもいいのかもしれません。
MRICの記事ですが一般的な医療者がどう考えているのかよくわかるものがありましたので引用します。皆さんもみてみてください。
(調剤医療費については正直自分は細かい加算などはよくわからないですが、昨年の薬手帳記載不備などの報道もありましたし、今回はかなり厳しくなることが予想されますがどうなるでしょうか・・・・・)
http://medg.jp/mt/?p=6445 より

Vol.020 予算分捕り合戦に突入か?診療報酬がマイナス改定へ ~診療報酬が上がる時代はもう来ない、必要なのは構造改革
医療ガバナンス学会 (2016年1月21日 06:00)
※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45383?page=2

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

2016年1月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

11月24日、財務省の財政制度等審議会は来年度の診療報酬のマイナス改定を提言しました。
吉川洋審議会長は「薬価と診療報酬本体についてはマイナス。(中略)国・経済の状況を見れば財政の論理が働くのは当然。平均価格を上げる時代は終わり、今は配分が問題」と会見で述べました。
これに先立ち日本医師会の横倉義武会長は、マイナス改定濃厚との事前情報に対して「地域では医療機関の経営破たんが現実化する」と会見で述べています。また、日本薬剤師会の山本信夫会長も「この考え方を飲むことはできない」と会見で述べています。
消費税引き上げにともない経営が悪化している病医院をかかえる医師会も、医療費削減となれば、調剤報酬の伸び率と高い利益率が真っ先にターゲットにされる可能性の高い薬剤医師会も「医療費の減額に反対」との立場を取るのは当然なのかもしれません。
しかし、本来の目的に立ち返ってみると、医療に関わる仕事に就く際は誰しもが「病気を治したい」「患者さんの役に立ちたい」という気持ちを持っていたはずです。
医療費削減への反対が悪いこととは思いませんが、現在の医療制度は改革が必要であることも確かです。医療界は構造改革をどれだけやったのか、これ からどのように行うのか。そのビジョンがはっきり見えない中での両者の主張は、次回の診療報酬改定に向けた「単なる医療関係者内での予算の分捕り合い合 戦」のように見えてなりません。
●消費税増税、さらにマイナス改定で医療機関は破綻
2014年4月に消費税が5%から8%に上がったことにより、医療機関の採算は悪化しています。医療費は消費税非課税なのに、医療機器・医療材料・薬剤にはすべて消費税が発生するからです(参考「いつまでこの状態が続くのか、増税分の価格転嫁が許されない医療費」)。
医療費の非課税問題は、消費税分だけ医療費の価格を上げれば解決します。2014年4月に消費税が3%増税された際には、診療報酬は0.73%増額されました。しかし、それでは医療機関が負担する3%の消費税増税分をまかなうには十分ではありません。
日本医師会では、2000年から2012年度にかけて、医療機関が人件費に回す金額の割合が50.2%から46.4%まで低下したというデータを示しています。人件費が医薬品や医療材料代に圧迫されているのです。
元々利益率が4%程度しかなかった病院にとっては、経営がさらに悪化し、人件費を削っているところが多いと推測されます。
ただでさえ消費税増税がもたらす「損税」のダメージがあるのに、さらなるマイナス改定が行われたら、多くの医療機関が窮地に追い込まれ倒産することになるでしょう。それは地方の医療機関にとどまりません。設備投資が大きい首都圏の大病院も同様です。
●医師の診察代金よりも高い調剤薬局技術料
医療費がマイナス改定されるとすると、真っ先にターゲットとなるのは薬剤費でしょう。
40兆円と過去最大となった2014年度の概算医療費の中で、調剤費用(7.2兆円)の増加率が2.3%と、診療費用の増加率1.6%を大きく上回っているからです(「平成26年度 医療費の動向」厚生労働省)。
他職種ではありますが、調剤技術料(薬剤を調合した時に発生する薬剤師の報酬)は処方箋1枚あたり平均2200円となっています(平成25年度の データ)。薬価差益を合わせると粗利益は1枚あたり3000円近くになっているでしょう。医師の診察料よりも高額になっていることについて、私としても思うところはかなりあります(ちなみに再診の場合は、再診料720円+外来管理加算520円+処方箋料680円=1920円)。
どうして、調剤技術料合計が医師の診察代金合計よりも高くなってしまうのでしょうか?
最大の理由は、調剤料は、院内処方では投与日数や剤数にかかわらず1回の処方につき定額(90円)なのに、院外では投与日数や剤数に応じて点数が 高くなるように設定されているからです。具体的には、1剤を1カ月分処方した場合、30日分の点数がつくので、調剤料だけで810円と9倍になってしまう のです。
その他にも、院内処方の際には発生しない「1包化加算」(複数の薬剤を朝昼晩の分に一袋にまとめる作業料)が2900円発生するなど様々な加算が あります(院内処方では作業が機械化されているため作業料が発生しません)。これらが妥当なのかを検討の上、次回に改定する際にはみんなが納得できる価格 に修正するべきだと思います。
とはいえ、医師の診察代金よりも調剤技術料が高いからといって、いきなりその金額を半額にされたら、やはり倒産する薬局が出てくることでしょう。
●医療費改定の本来の目的とは何なのか?
医師会と薬剤師会は「病医院や薬局を倒産させる気か」と診療報酬のマイナス改訂に強く反対しています。
しかし、このままではせっかくの診療報酬改定の議論が「単なる医療関係者内での予算の分捕り合戦」と化すだけです。「国・経済の状況を見れば財政の論理が働くのは当然。平均価格を上げる時代は終わり」という財務省の主張には、それはそれで耳を傾ける必要があります。
「病気を治したい」「患者さんの役に立ちたい」と思う気持ちはどれだけのコストで実現できるのか、その実現のためにどのような構造改革が必要なのか? 今回の診療報酬改定決着まで、そうした議論が活発に行われるようになることを願ってやみません。