経営が悪化している市立札幌病院(関利盛院長、747床)は19日、2017年度決算が10億8千万円の赤字となるという見通しを初めて明らかにした。赤字は4期連続。累積赤字は100億円の大台に限りなく近づくとみられ、抜本的な改革が求められそうだ。
見通しはこの日、経営改善策について話し合う専門家の検討会(第2回)で示された。
市立病院は最近、新たな入院患者を獲得するため、救急の受け入れを増やす取り組みを始めた。市立病院側はこの日の検討会で、重症患者以外の「1次救急」や「2次救急」の受け入れ人数は17年度に2477人に達し、前年度から45%増えたことを明らかにした。
また、市立病院側は経営再建のたたき台となる基本理念について「つねにやさしさをもって診療に専心する」というビジョンを提示。市立病院が担うべき主な役割として(1)地域医療支援病院(2)高度急性期病院(3)(道内の)医療計画を支える(4)人材育成――の四つを挙げた。
検討会では、経営再建のビジョンについて、委員から「市内の医療機関は充実している。公立病院として役割をまずかたるべき」「(市民にとって)『最後のとりで』である点をしっかりと出した方がいい」といった指摘が相次いだ。
検討会は今年秋にも報告書をまとめる。市立病院は年度内に策定する次期中期経営計画(19~24年度)に、これを反映させる。
(戸谷明裕)
■経営再建どうすれば? 新参与・井上貴裕氏に聞く
市立札幌病院の経営を再建するにはどうしたらいいのか。新たに参与として招かれた外部のアドバイザーで、千葉大医学部付属病院の病院長企画室長の井上貴裕氏(43)に病院経営改革の秘訣(ひけつ)を聞いた。
――市立札幌病院はほかの公立病院と比べてどうですか
「利益が出ている病院に私がアドバイザーをしている岐阜県の大垣市民病院があります。補助金を入れずに黒字。大垣の場合は周りにライバルがいませんが、札幌は病院の激戦区です。同じやり方をそのまま持ってきても難しいでしょう」
――札幌圏は病院数が多いのですか
「日本一の激戦区、東京以上かもしれません。病院経営は周囲とつぶし合いをしてはいけません。市立札幌病院がいま行っている病床数削減に合わせたスタッフの適正化を考え、新たな入院患者の獲得にむけて頑張るというところが、まずはスタートラインじゃないかと思います」
――外来をどうしたらいいでしょうか
「市立札幌病院ほどの大病院が『大きなかかりつけ病院』になっているのは問題です。患者が大病院を好むのも事実ですが、診療所や中小病院があるのですから、役割分担が求められます。大病院で治療すべき患者に絞り、救急なり入院治療に注力するというのが基本的な考え方です」
「病院の収支を改善するには、患者の在院日数を短くし、新たな入院患者を受け入れることが大切です。地域と連携して患者の紹介を受けつつ、ずっと市立札幌病院にかかる慢性病の患者の一部を地域の病院にお願いする。役割分担の再構築が必要でしょう」
――病院が患者をえり好みしているように見えてしまえば、かえって信頼を失いませんか
「困ったときには必ず助けてくれるという信頼関係が大事です。軽い疾患は地域にお願いするけども、地域で手に負えない病気のときには、画像診断や検査、入院の受け入れなどをいとわないことです」
「どの医師がどんな治療を得意としているのか。顔の見える連携も大切です。そこが分かれば、地域の医師は患者の適切な振り分けをしてくれます。役割分担がうまくいけば、市立札幌病院の外来患者数は減るかもしれないが、本当に大病院が治療すべき患者はむしろ集まってきます。結果として、経営は改善します」
――病院を変革するコツはなんですか
「きちっとした数値やデータをそろえて、比較することですね。医療関係者は治療においては、検査結果など、日々データをもとに意思決定しているので、客観的な数値や証拠には純粋に反応します」
(聞き手・戸谷明裕、田之畑仁)
<いのうえ・たかひろ> 1974年生まれ。東京医科歯科大学大学院で医学博士。2015年4月、千葉大医学部付属病院病院長補佐、病院長企画室長となり、17年から副病院長もつとめ、経営マネジメントを担う。