色褪せた景色の中にいる人にどう向き合うか~病気と喪失が変えるもの。
こんにちは、札幌のかかりつけ医&病棟医&在宅医@今井です

同じ空が、違って見える日がある
いつも通り歩いている道。見慣れた街並み。毎朝見ている空。
それが、ある日突然、全く違う景色に見える瞬間、経験したことありませんか?
「がんです」と告げられた帰り道。
「治療の効果が出ていません」と言われた後の病院の廊下。
「これ以上できることはありません。緩和ケアに移行しましょう」と聞いた診察室を出た瞬間。
そして——大切な人が亡くなった翌朝、窓から見た空。
同じ景色のはずなのに、全く違って見える。色が失われたように感じる。あんなに賑やかだった街の音が、遠くから聞こえるように感じる。世界はそのまま動き続けているのに、自分だけが取り残されたような感覚。
こういう経験をしたことがある方は、きっと理解してくださると思います。
病気の告知という「境界線」
人の人生には、いくつかの「境界線」があるんじゃないかなと今井は考えています。”それ”を越えた前と後では、世界の見え方が変わってしまう。
がんの告知は、その最も大きな境界線のひとつです。
昨日まで「いつか死ぬ」という漠然とした感覚しかなかった人が、「自分の命には期限がある」という現実を突きつけられる。その瞬間から、病院を出た時に見える空の色が、変わります。
今井が外来や在宅医療の現場で出会ってきた患者さんたちは、みんなその境界線をすでに越えてきた方々です。病院で告知を受け、治療を繰り返し、「在宅で過ごしたい」という選択をしてきた方々。
その方たちの目に映っている景色、告知の前とは違います。
緩和ケアへの移行という「もう一つの境界線」
「治療から緩和ケアへの移行」も、大きな境界線ですよね。
積極的な治療を続けていた間は、「まだ戦っている」という感覚があります。副作用がつらくても、「これが効けば」という希望があった。
でも「緩和ケアに移行しましょう」という言葉は、その希望の形が変わる瞬間です。
「治す」から「楽に生きる」へ・・・
これを「あきらめ」と感じる方もいる。「やっと楽になれる」と感じる方もいる。でもどちらにしても、その言葉を聞いた帰り道の景色は、前とは違って見えます。
大切な人を失った後の景色
そして、家族が亡くなった後。これほど景色が変わる経験は、そう多くありません。
「いつもあの人がいた場所」に、もう誰もいない。
一緒に見ていたはずの景色を、一人で見ている。
季節が変わるたびに「去年の今頃は……」という記憶が重なる。
在宅看取りに立ち会うと、その後のご家族の顔が今井の頭に残ります。看取りの翌日、翌週——どんな景色を見ているだろうか、と。
医療者として、何ができるか
今井がずっと考えていることがあります。
それは医療者として、この「景色が変わる瞬間」を、どれだけ深く理解できているか、ということ。
医師も看護師も、毎日何人もの患者さんと関わります。「がんの告知後の患者さん」「緩和ケアに移行した患者さん」「家族を亡くしたご遺族」——これらが積み重なると、どうしても感覚が鈍くなっていくことがある。
「またこのパターンか」という感覚。「よくあること」という慣れ。
でも患者さんにとっては、「よくあること」では絶対にない。その人の人生で、たった一度の境界線です。
「景色が変わった人」に寄り添うということ
では在宅医療者として何ができるか。答えはシンプルで、でも難しいことです。
その人の景色の変化を、想像し続けること。
「あの人は今、どんな気持ちで空を見ているだろうか」「あの方の今日の一日は、どんな色だったろうか」——この想像力を失わないことが、在宅医療者として一番大事なこと、一番大事にすべきことだと今井は思っていますよ。
処置ができること、薬を調整できること、緊急往診に対応できること——これらはもちろん大切です。でも「景色が変わってしまった人のそばにいる」という、もっと根本的な役割を忘れてはいけない。
患者さんが「この人はわかってくれている」と感じるかどうか——それは、技術よりも人間としての想像力、共感力から生まれることが多いと今井は感じています。
最後に
景色が変わる日を経験した方へ。
今、色褪せて見えている景色も、いつかまた少しずつ色を取り戻していきます。それがいつかは、人それぞれです。実際今井は多くの患者さんからそう聞かせて頂きましたし、学びました。
そしてその時間をひとりで過ごさなくていい。医療者、在宅医療者はそのために、そばにいます(^^♪
景色が変わって見える経験をした人、今現在している人に自分の声、言葉が少しでも届いて励みになればと思います。皆さんもそういう経験をしている人が傍にいたら是非是非支援してあげてくださいね。
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