公開日:2026年08月15日

義務化か、インセンティブか・・・シンガポールに学ぶ医療情報連携のジレンマ【シンガポール健康情報法の制定】

こんにちは、札幌のかかりつけ医&病棟医&在宅医@今井です

今日はちょっと真面目な話・・・・でも今井にとっては結構ワクワクするテーマです。海外の医療状況についての資料をシェアしたいと思います。

先日、国立国会図書館が出している資料を眺めていたら、シンガポールが2026年に「健康情報法」という新しい法律を作った、という記事にぶつかりました(今井、こういう地味な立法情報を読むのが実はけっこう好きです・・・誰得な趣味ですが(^^♪)。

これが日本の電子カルテ共通化やマイナ保険証を使った医療情報統合の話と、驚くほどリンクしているんです。今日はこの話をしたいと思います。

元の資料はこちらです。時間ある方はこちらで一読どうぞ↓

【シンガポール】健康情報法の制定

 

シンガポールは「登録義務化」に踏み切った!!

シンガポールでは2011年から、全国電子健康記録(NEHR)という仕組みが動いていました。病院や診療所の間で、患者さんの基本情報や入院歴、検査結果、薬の履歴などを共有するデータベースです。

考え方としては、日本がこれから本格化させる「電子カルテ情報共有サービス」や「全国医療情報プラットフォーム」とほぼ同じ発想。「どこの医療機関にかかっても、必要な情報が共有されていれば、無駄な検査や処方の重複を防げるし、救急の現場でも役立つ」というものです。

ただ、シンガポールにも大きな悩みがありました。2022年末の時点で、街のクリニック(かかりつけ医)のNEHR利用率はたった3割程度、しかも実際に患者情報を登録していたのはそのうちの1割強・・・。つまり「箱(システム)は用意したけれど、現場の医師がなかなか使ってくれない」という、まさに今の日本と同じ壁にぶつかっていたわけです(今井、これを読んで思わず「わかる・・・」とつぶやいてしまいました)。

そこでシンガポールが取った手段が、けっこう思い切っています。2026年1月に国会で可決された新法では、急性期病院はもちろん、外来クリニックや薬局まで含めて、患者の主要な健康情報をNEHRに登録することを法律で義務付けたんです。しかも、登録やアクセス・開示について「本人の同意は不要」という規定まで置きました。

「同意不要」という踏み込み方!!

ここがちょっと驚いたポイントです。

日本の仕組みは、マイナ保険証を使って本人が「情報提供に同意する」ことが前提になっています。つまり患者さん側の同意がスタートライン。一方でシンガポールの新法は、登録・アクセス・取得・開示そのものには本人の同意を不要とし、その代わりに「目的外利用の禁止」と「本人による事後的なアクセス制限請求権」という形で、患者さんの権利を別の角度から守る設計にしています。

具体的には、

  • 〇雇用・昇進・解雇の判断
  • 〇労務契約の締結
  • 〇保険の加入審査や保険金請求

こういった目的での健康情報へのアクセスは、はっきり禁止されています。そのうえで、患者さん本人は「この情報だけは見せたくない」というアクセス制限を後から請求できる仕組みも用意されている。

つまり「みんな参加が前提、ただし悪用は許さない、嫌なら個別に制限をかけられる」という、オプトインではなくオプトアウト型の設計思想なんですね。

日本はどうなっているか

今井たちの現場に引きつけて考えると、日本は今まさに過渡期です。

2026年6月から、電子カルテ情報共有サービスへの対応状況が診療報酬の算定区分に直結する新しい加算(電子的診療情報連携体制整備加算)に再編されました。以前の「体制整備」を評価する仕組みから、実際に「使っているかどうか」という実績評価にシフトしてきています。つまり日本も、法律による強制ではなく、診療報酬というインセンティブ(アメとムチのアメの方)を使って、じわじわと参加率を上げようとしている段階。

そして基盤になっているのが、マイナ保険証とオンライン資格確認のネットワークです。患者さんがマイナ保険証で受診し、情報提供に同意することで、医師は薬剤情報や特定健診情報、電子カルテの共有情報(いわゆる「3文書6情報」)にアクセスできるようになる。新しい専用回線を引くのではなく、オンライン資格確認のインフラをそのまま拡張して使っている、というのも興味深いところです。

それでも残る「本当に使われるのか」問題

とはいえ、シンガポールの事例が教えてくれるのは、「箱を作っただけでは現場は動かない」という厳しい現実です。制度を作った側は「連携すれば質が上がる」と信じていても、忙しい外来の現場では登録の手間が後回しになる・・・これは日本のクリニック、医療機関にとっても他人事ではありませんよね。

日本が診療報酬というインセンティブでどこまで参加率を引き上げられるか、それともいずれシンガポールのように「義務化」という選択に近づいていくのか。今井、正直まだ答えは見えません。ただ、義務化には義務化なりの副作用(現場の負担、同意の在り方への疑問)があり、インセンティブ型にはインセンティブ型なりの限界(結局は経営判断に委ねられる)がある。どちらが正解というより、患者さんにとって「本当に役立つ情報連携になっているか」という一点を、今井は現場から見続けていきたいと思っています。個人的には・・・・社会保障制度全体を考えるとシンガポール型になるべきかなとは考えていますが。

制度は国境を越えて似てくるものですね。シンガポールという遠い国の法律を読んでいたはずが、気づけば日本の現状を考えるということにつながっている・・・こういう発見があるから、地味な海外の社会保障制度の資料を読みこむことがやめられません(^^♪

みなさんは、自分の医療情報がどこまで医療機関同士で共有されるのが安心だと思いますか?逆に「これだけは知られたくない」と思う情報、ありますか?よければ考えてみてくださいね。

 

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