諸外国における、在宅介護やデジタル技術活用の実態調査~経産省資料から~
こんにちは、札幌のかかりつけ医&在宅医@今井です。
経済産業省の資料を読んでいたら医療のデジタルトランスフォーメーション化についての記事を見つけました。その中で諸外国における在宅介護やデジタル技術活用の実態調査、なる項目がありましたのでご紹介したいと思います。外をみれば内なる課題の先や解決策を知ることができる、自分はそう考えています。
例として挙げられている国はデンマーク、スウェーデン、フィンランド、英国、シンガポール、台湾、韓国でした。
個人的に気になったところは赤くしてみます。
第四次産業革命時代におけるヘルスケアサービス分野のデジタルトランスフォーメーション等に関する調査研究 報告書
P44~
デンマーク
デンマークでは、1982 年に以下に示す「高齢者三原則」が示され、施設介護から在宅介護へ大きく舵が切られた1。これらは、1970 年代以前の施設ケアへの依存とそれに伴う高い社会福祉費用の課題の解決を目指すものと位置づけられた。
⚫ これまで暮らしてきた生活と断絶せず、継続性をもって暮らす(生活の継続性に関する原則)
⚫ 高齢者自身の自己決定を尊重し、周りはこれを支える(自己決定の原則)
⚫ 今ある能力に着目して自立を支援する(残存能力の活性化に関する原則)
デンマークでの在宅介護の財源は税収であり、介護の主体はコムーネ(市)である(医療はレギオナ(広域自治体))。在宅介護では、訪問看護師が重要な役割を担っており、訪問介護士の指導者的な立場であるとともに、ケアプランの内容、回数見直しを行う。また、介護チームとの連携、医療ケア提供のために家庭医との橋渡しを行う。
デジタル技術活用に関する施策として、「Digital health strategy 2018-2022」2が推進され、医療分野では患者参加型医療の実施強化など、重点化領域が掲げられている。具合的施策の一つとして The doctor in the pocket(iPad を使用しての遠隔診療システム)の導入が全国的に進められている。例えば、訪問看護師が患者の状況を iPad に入力して、家庭医(GP)が状況に応じて診察するシステムの実証が進められる。
スウェーデン
スウェーデンでは、1992 年に「エーデル改革」と呼ばれる高齢者福祉制度の改革が行われ、高齢化に伴う高齢者向け医療費の膨張を抑制するとともに、高齢者ケアの質の向上と効率化を目指した3。保健医療に責任を持つランスティング(地方自治体で、日本の県に相当)と、社会福祉に責任を持つコミューン(住民に最も近い基礎自治体で、日本の市町村に相当)間で曖昧となっていた高齢者(および障害者)に対する医療・福祉サービスの責任を、全面的にコミューンに移管した。当時社会的な入院が問題化していたが、退院可能な高齢者がコミューンへと移行しなかった場合、財政的な責任をコミューンが持つとの仕組みに変更され、高齢者向けの病床数が大幅に削減された。
またエーデル改革を受けて、介護は在宅へとシフトした。コミューンが提供する在宅介護サービスは24 時間受けることができるため、介護を必要とする高齢者であっても、自宅での生活を続けることができるようになり、9 割の高齢者が在宅介護を受けている。
在宅介護の財源は、コミューンの税財源と利用者の自己負担で賄われる。利用者負担はコミューンによって異なるが、利用者負担の上限及び利用者の最低所得保障額が設定されている。また、在宅介護の担い手は、家族やデイケアである。家族、デイケアにより行われている。国から家族介護者へは金銭的な補助があり、国からコミューンに交付された補助金から、家族介護者等へ配分されている。
また、スウェーデンでは、デジタルヘルス政策も進められている。医療サービス向上を目的として、2006、2010 年に the National Strategy for eHealth4が採択され、以下を目指している。
⚫ 患者が過去に行われた自身への治療・サービスおよび医療全般に関する信頼性のある情報を容易に入手できる
⚫ 適切な情報サービスを通じて医療参加・自己決定を行える(患者の権利強化)
⚫ 複数の立場の異なる医療従事者が、患者に関するあらゆる医療情報を迅速、安全、かつ容易に共有し、日々の業務や治療の決定に役立てる
⚫ 政策決定者が医療サービスの質と安全性をモニタリングし、適切な情報に基づいた組織運営を行える
さらに、2016 年には Vision for eHealth 20255が採択され、2020 年度までの達成事項の一例として、複数の EHR システムをまとめる HIE システムの導入や、ウェブサイトからの自身の EHR へのアクセス、ケアスタッフが電子ケアプランツールを使用すること、が挙げられる。また、2018 年には「認知症の人の介護のための国家戦略」が策定され、その中でデジタル化への補助金をコミューンに提案している。
スウェーデンの在宅介護においては、図表 67 に示す通り、電子ケアプラン、アラーム・センサー等のデジタル技術活用は 8 割以上普及していると報告されている6。
フィンランド
フィンランドでは、1984 年の VALTAVA 改革により、福祉国家としての基盤を構築し、自治体の保健福祉サービスに関する費用を国が補助する仕組みとなった7。また、高齢者や長期療養者の在宅介護支援が規定され、施設ケアから脱施設ケアへの移行促進を図った。同年の社会福祉法により、子供は親の介護をする義務がなくなり、結果的に自治体が介護の担い手となった。社会福祉上ではケアの大枠の方針が示されるのみで、具体的なサービスの内容は自治体に委ねられていた。
その後、1993 年の税制改正で各自治体のサービス供給のあり方の自由度が大きく増した8。施設ケアの大部分を自治体が負担することになり、「施設ケア」から「在宅ケア」・「住居サービス」へと流れが大きく変化した。施設ケアの実費用の大部分を自治体が負担することになった(従来は国が負担)が、住宅を基盤としたオープンなケア(在宅ケアやサービスハウスでのケア)に移行することで、利用者は国から得る各種手当や年金などを利用することができ、実質的に各自治体自身の負担も軽減された。これまで自治体が公共機関に運営委託をしていた 24 時間体制のサービス付き高齢者住宅は、民間へと運営委託が可能となった。結果的に、自治体の費用負担は削減された。
フィンランドでは、財政面と文化的な理由より、在宅ケアが中心となっている。北欧諸国の中で最も速いスピードで高齢化が進んでおり、若い世代中心に失業率が高いままで財政的にも厳しい状況である。
また、フィンランドの高齢者は自立志向が強く、独居して生活を望む人が多数派である。子供に頼るとの意識は少なく、75 歳以上の 9 割は自宅で独立して生活する。
高齢者の介護義務は自治体が負うことになっており、保健医療資格と社会ケア資格を統合した「ラヒホイタヤ(Lähihoitaja)」が看護の分野から福祉の分野まで幅広いケアを行い、在宅介護で必要な処置を一人で行うことになっている。日本では医師でないと実施できない医療的介入も一部可能である。「ラヒホイタヤ(Lähihoitaja)」創設の背景として、施設収容数を段階的に減らし、在宅ケアへと移行させていくという政策が取られ、マンパワーの総量を変えずに、在宅ケアの担い手の能力向上が必要となっ
た点が挙げられる。家族が介護の担い手となる場合(インフォーマルケア)には、費用がサポートされる。
また、デジタル技術活用については、国主導で推進を行う。2015 年に、医療と社会福祉サービスを統合する改革、Social and healthcare reform(SOTE)9をスタートした。近年、国立技術研究センターVTT はフィンランドの各分野の R&D において、民間企業との共同研究環境を整備し、ヘルスケア分野にも注力している10。さらに、フィンランド技術「Business Finland」は、Well-being とヘルスケアを戦略テーマにデジタル化につながる環境を促進しており、その施策として 2019 年に Smart life finland のプログラム「Health and Wellbeing in a Digital Age – Vision 2025」11を発表している。
英国
英国の介護は Care Act 201412で規定されており、介護者を、(「介護を必要とする」)他の成人に介護を行う、もしくは、行う意思のある者で(10 条 3 項)、契約に基づき介護を行う(もしくは行う意思のある)者、および、ボランティア活動として介護を行う(もしくは行う意思のある)者を除く(同条 9項)と定義される。
英国においても、介護施策は在宅ケアを重視する方向にシフトしており、民間会社が地方自治体から委託されてサービスを提供することによって、多様なサービスの質を高めている。公的な介護保険制度はなく、ソーシャルケアについては、地方自治体が行う社会福祉サービスと英国民保険サービス(NHS)が提供する医療サービスが担う。その他、家族によるインフォーマルケアや、個人や家族が購入するプライベートなケアサービスが存在する。在宅サービスの提供主体には制限が設けられておらず、地方自
治体と民間(営利・非営利)のいずれもが参入することができる。要介護者がサービスを利用する場合、自治体から現物としてサービスを受けるほかに、現金給付を受けて自らサービス提供者と契約する「直接払い(ダイレクトペイメント)」の方式もある。直接払い方式では、個人と雇用契約を結ぶことも可能であり、その場合は、利用者が雇用主として社会保険加入などの義務を負うこととなる。
在宅介護でのデジタル技術活用に関する施策として、「3 million lives プロジェクト」が挙げられる13。
2012 年に産官による遠隔医療(Telehealth)・遠隔介護(Telecare)推進のためのコンソーシアムが組織され、保健省と英国産業界が協力し検討を進めている。2014 年 11 月に国家情報委員会 NIB は、eHealth 戦略となる「Personalised health and care 2020」14を発表した。デジタル技術の革新を通じて、健康に関するアウトカムと患者のケアの質を向上させる 2020 年までの計画であり、地域ベースの統合医療、ICT 活用、データの二次利用についての指針を含んでいる。本プロジェクトでは、遠隔介護
の推進において、利用者宅の機器費用をどこから捻出するかが課題とされ、「Payment by outcomes」という方式を推進する。利用者が機器購入のために 1,000 ポンド支払うが、発生しなかった医療費を、利用者に戻し、機器購入の負担を軽減するという方式(例えば、遠隔医療や遠隔介護のサービスを受けた結果、「前年は 4 回受診したが今年は受診なし」となれば発生しなかった医療費分が返戻される)を採用する。
シンガポール
2002 年 9 月より Elder Shield15と呼ばれる介護保険制度が導入されており、40 歳以上を対象に、加入を辞退しない限り自動的に加入され、保険料は 65 歳まで MSA(Medical Saving Accounts:医療貯蓄口座)より支払うことになる。高齢者は基本的な日常行為(食事・入浴・歩行・着替え・寝起き・トイレ)のうちの 3 項目を補助なしで行うことができなくなった時に、これまで積み立てられてきた介護保険料から月額 400S ドルを受け取ることができる。期間は最長 6 年と定められている。
根底に、老いた親の面倒は国でなく、最終的に子どもが見るという親孝行を徳目とする儒教の考えがあり、また、シンガポールは日本と違い、介護施設に入る高齢者は少数派で、その多くが自身の子どもと暮らす。その背景には、1995 年に制定された両親扶養法で、60 歳以上の自活できない両親の扶養をその子に義務づけていることなどが挙げられる。
健康でいる高齢者に対してはインセンティブを用意しており、介護保険を支払う原資となる MSA には年 2.5~5%の利子がつき、積立金と利子収入はどちらも非課税。加えて、55 歳になれば、年金として引き出せる。積立金は非課税で家族が相続できるので、高齢者本人のみならず、家族にも高齢者の健康をより気遣うインセンティブが生まれる。
その後、介護保険制度は、2020 年にすべての国民に加入を義務付ける CareShield Life16として新たに導入し、国民にさらなる負担を強いて、長期ケアの維持に取り組む。新制度では、これまで日本と同様 40 歳からであった介護保険料の支払い開始時期が、30 歳からに引き下げられる。一方で保険料納付の期間は、65 歳までから 67 歳までに引き上げられる。また、Elder Shield と異なり、加入が義務化され、脱退は認められなくなる。保険料納付は年 1 回で、保険料は年 206S ドル(女性は同 253S ドル)で、物価上昇を想定し最初の 5 年間は毎年 2%増額する。その後の引き上げ幅は改めて決定される。1人当たり家計所得が月 2,600S ドルかそれ以下の国民には保険料 20~30%の納付補助を行う。
要介護と認定された者の受給額は月600Sドルで、この額も最初の5年間は年2%の割合で増額され、生涯にわたり給付される。介護が必要な期間、保険料の納付も継続的に求められる。高齢者が CareShield Life に加入する方法は 2021 年に発表される予定である。
シンガポールでは、自宅での介護が基本となっており、子どもや外国人家事労働者がその担い手となっているが、多くを外国人労働者に在宅介護を依存する状態で、外国人家事労働者補助 (Foreign Domestic Worker Grant) により雇用する家族を支援する制度を設けている。
デジタル技術活用に関する施策としては、2014 年にシンガポール保健省によって策定された「ヘルスIT マスタープラン」17に基づき保健・福祉分野への IT 活用が進められる。また、保健省が 2017 年 11月に公表した計画では、下記 3 つの戦略の実現を見据えている。
⚫ 予防医療へのシフト
糖尿病撲滅キャンペーンや若年層への健康教育を提供することで、国民の健康的な生活を支援する
⚫ 地域医療へのシフト
プライマリ・ケア・ネットワークや新たな施設の設置、地域社会内におけるメンタルヘルスサービスの強化などにより、国民が住み慣れた場所で適切な治療を受けられるようにする
⚫ 価値へのシフト
糖尿病などの適切な対処法や医薬品の使い方を紹介するなどして、国民が医療に関して正しい判断・対処ができるように促す
台湾
儒教思想が根付く台湾では老後は子供が親を扶養することが「孝行」であるとの考えがあった。その結果、社会全体で取り組む介護制度については整備が進まなかったが、少子高齢化が急速に進み介護は社会のサポートなしでは解決できない問題になり、介護制度の整備が始まった。2007 年に長期介護 10年計画が策定され、居住・地域ケア、施設ケア、介護手当の充実を図った。居住・地域ケア、介護手当に関しては利用者・受給者の増大との成果があがった。また、2017 年には長期照顧服務法(介護サービ
ス法)が定められ18、以下を特徴とする。
⚫ 長期介護サービス法の目的と適応範囲:
心身の能力を喪失した状態が 6 カ月以上持続する者は全員介護サービスの対象となる。
⚫ 提供される介護サービスの種類:
介護サービスは提供方式により、(1)居宅型、(2)地域型、(3)施設宿泊型、(4)家庭介護者支援サービス、(5)その他に区分される。
⚫ 家庭での介護労働者に対する訓練:
家庭で介護サービスを提供している外国人労働者への訓練を制度的に実施することが定められた。
⚫ 介護サービス利用者の権利利益保証:
介護施設の介護サービス提供に当たっての書面契約の締結義務、プライバシーの保護、利用者に対する遺棄、虐待、蔑視、違法な身体拘束等の禁止などが定められている。
また、介護保険が導入されていない台湾では、家族と外籍看護工が在宅介護の担い手になっており、特に高齢者家族の介護においては、賃金が安い外籍看護工が重要な担い手とされている。
デジタル技術活用に関する施策として、台湾科技部が 2019 年から推進する「補助科技研究」プロジェクトでは、高齢社会における高齢者介護の技術的なニーズに応えるための研究開発が進められる。また、台湾の科技部は EU の高齢者生活支援を推進する AAL(Active and Assisted Living Program)のメンバーとなり、2020 年 2 月に AAL が推進するプロジェクト「デジタルソリューションを利用した健康的な高齢社会の実現」への参加も決定した19。AAL は、高齢者の QOL 向上を目的に、健康的な高齢
社会実現のための技術発展やイノベーション産業への支援を実施している。各プロジェクトは、中小企業、研究機関、エンドユーザーが提携して組織されたグループによって進められており、デジタル時代
の新潮流、ICT(情報通信技術)を駆使して、慢性疾患管理、社会的包摂サポート、日常生活の管理など高齢化社会が抱える課題の解決を目指している。台湾は、ネットワーキングと情報収集を目的に参画しているものと推測できるが、詳細については不明である。
韓国
急速な人口増加、女性の社会進出、公的医療保険の財政赤字の拡大を背景に、2008 年 7 月より「老人長期療養保険制度」20という介護保険制度を導入した。日本の介護保険制度をモデルとして導入されているが、制度の施行においては被保険者層を拡大し、手続きやサービス内容の簡素化が図られ、国の「財政支出の最小化」が目的とされる。
介護サービスを利用する際の自己負担額もサービス内容によって異なり、在宅 15%、施設 20%の自己負担額がある。「財政支出の最小化」という韓国政府の財政運営方針に基づいている。
在宅介護へのシフトが徐々に進んでおり、「同居家族療養制度」が導入された21。これは、同居家族が療養保護士(日本でいうヘルパーに相当)の資格を取得後に家族を介護すると報酬として一日あたり 2時間分の現金が得られる仕組みである。
デジタル技術活用に関する施策としては、2007 年に「ロボット試験普及事業」を開始し、介護分野においては、高齢化社会に役立つ生活支援ロボット(認知能力補助、運動補助、室外移動ロボットなど)開発の実証実験を行ってきた。2008 年には「知能型ロボット開発及び普及促進法」を制定し、知能型ロボットの品質保証機関の設置、ベンチャーなどに投資するロボットファンドの創設、ロボットランド(特区)への助成などを行っている22。
これだけ各国の情報を網羅して確認してみると、医療と在宅介護の提供方法や状況は国によって全く異なることがよく理解できますね。個人的には今後の社会保障制度の議論の方向性は
⓵全国一律のPHRシステムの導入
②医療や介護におけるデジタルツールの導入
③アウトプット重視
④インセンティブを組み込んだ制度設計
は避けられないかなとこの記事を読んで考えましたよ。
自分が引用した部分以外でも面白い情報載っていますので興味ある方は是非全文をお読みくださいね。
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