慢性期医療の基本的な考え方を身につけるのに最適のテキスト
本日2回目の更新です。
こんにちは、時間が少しあいたので本日2回目の更新です。と言っても今回は記事の紹介のみです・・・・
日本慢性期医療協会の会見内容の文章ですが、現状の医療体制の問題点、今後の医療の長期展望や慢性期医療の基本的な考え方を身につけるのに最適のテキストだと感じました。是非皆さんも一読してみてください。勉強になるかと思います。
日慢協BLOGより
日本慢性期医療協会は9月14日の定例記者会見で、一般病床と療養病床の区分廃止を提言しました。会見で武久洋三会長は、一般病床にも多くの慢性期患者がいる一方で、療養病床でも救急患者を受け入れるなど急性期的な機能を有することを指摘。「一般病床と療養病床の区分はもうすでに必要がなくなって存在価値がなく、むしろ弊害のほうが多い」と主張しました。
武久会長はまた、現在の「高度急性期」「急性期」の機能区分にも疑問を呈し、「広域急性期」「地域急性期」などの区分を改めて主張。「慢性期」については、「25対1がやがて廃止されて15対1、20対1の療養病床」とした上で、「慢性期で必要な病床は、きちんと治療できる病床、すなわち『慢性期治療病棟』である」との考えを示しました。
この日の会見には、池端幸彦副会長が同席。10月から光熱水費の負担が変わる改定に反対する意向を示した上で、一般病床と療養病床の差別が存在することを指摘。「一般病床に入院している患者さんについては負担がなく、これに対して面積も広く居住環境も良い療養病床については(保険診療分を減額して)1日370円を求め、月に約1万円を支払うようにという。こんな不当な差別があるだろうか」と怒りをあらわにしました。
続けて武久会長も、「一般病床が良くて療養病床のレベルが低いというイメージにつながっているとしたら、とんでもない話」と改善を訴え、「皆さま方に公平な医療を提供できるようにしたい」と述べました。
以下、この日の会見の要旨をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2017/chairman170914.html)に掲載していますので、ご参照ください。
■ 誠実に慢性期医療に取り組むことは変わらない
[武久洋三会長]
いよいよ来年4月の改定の足音が聞こえるようになってきた。当会はこれまでも、慢性期医療を地道にきちんとやっていくという方針を踏まえ頑張ってきた。
われわれの現場で試しにいろいろやってみたことについては、厚労省にも報告している。誠実に慢性期医療に取り組むことはこれからも変わらないので、今後ともよろしくお願いしたい。
早速だが、本日の記者会見の内容は「一般病床と療養病床の病床区分の廃止を」ということで、われわれの考えをご説明したい。
■ リハビリのアウトカム重視を徹底し、完全包括化を
現在、一般病床と療養病床に分かれている。ご承知のように後期高齢者が入院患者総数の8割近くになるという近未来においては、これからの医療提供体制や医療保険制度は現状と全く異なる新しい体制に転換しなければならない。よって、今回の6年に一度の診療報酬および介護報酬同時改定では、このような超高齢社会に適切に対応できるものでないといけない。これが日慢協の基本的なスタンスである。
現在、後期高齢者のうち約70万人が入院している。厚労省の調査によると、75歳以上の入院受療率は「4,205/人口10万対」なので、75歳以上の人口数の4.2%が入院すると仮定すると、2055年には100万人以上もの後期高齢者が入院する計算となる。今後も急速に後期高齢者が増加する。
このため、日常生活をより長く過ごすことができるように、リハビリのアウトカム重視を徹底して、完全包括化をするべきであると主張したい。2025年の出生数は78万人と予測されており、物理的にも経済的にも超高齢者を支えきれないことは確実である。
■ 後期高齢者の治療に習熟した総合診療医の大量養成を
後期高齢者は身体のいろんな臓器に障害が起こっている。入院患者の8割近くが後期高齢者ということは、入院患者のうちの8割近くが単一の臓器ではなく複数の臓器に同時に障害が起こっているということが明らかである。それなのに政府は、新しく臓器別専門医制度を開始しようとしている。
これから必要なのは、いくつもの臓器の変化に対応できる後期高齢者の治療に習熟した総合診療医の大量養成である。少なくとも、総合診療専門医は専門医の最低でも30%以上は必要であると主張したい。
■ 削減できた医療費は高度医療に、手術料は2倍以上に
患者や疾病の変化に対応できる医療提供体制に変革しなければならない。病床の機能別体制を徹底し、効率的でアウトカムの良い日本の新しい医療を創り上げなければならない。
今ばらばらであるターミナルの定義を統一して、ターミナルの患者を看取る場所は療養病床たる慢性期治療病棟ではなく介護医療院が主体となる。すなわち、慢性期治療病棟は日常生活機能を回復させるために一生懸命治療をする場である。
そのような改革によって削減できた医療費は、高度医療に対してより高い評価をすべきである。いま高度医療に対して高い評価ができていないために、新しい治療法でアメリカや欧米諸国に先を越されているような現状である。手術料はむしろ2倍以上に高く評価すべきである。
■ 一般病床と療養病床の病床区分の廃止を求める
こうした考え方などを踏まえ、一般病床と療養病床の病床区分の廃止を求める。これまでの経緯を振り返ると、実は14年前の2005年8月31日を期日として、それまでに結核および精神病棟以外の「その他病床」ということで全部病床が統一されていたが、それを2005年の8月31日までに6.4㎡の4人部屋のようにハードが改善されたところは療養病床として届けてもいいということに決まった。
このため、一般病床の中でも、療養病床と同じ6.4㎡の4人部屋になっていない4.3㎡の8人部屋の所はたとえ慢性期の患者がたくさんいても、療養病床としては届けることができなかった。すなわち、4.3㎡の6人部屋でも、実際のところ慢性期医療を提供している病院はそのまま一般病床に残ったということである。
そして、療養環境が整備できなかった一般病床、慢性期の患者がいっぱいいる一般病床の病院は、特定除外という特殊な制度により、そうした慢性期の患者を一般病床で継続して受け入れてきた。これが2012年度と2014年度の改定で一応廃止された。
しかし、この一般病床と療養病床の違いが今も厳然と残っている。一般病床に非常に長期にわたり入院しているお年寄りをすべて平均在院日数のカウントに入れなくていいし、その場合には医療区分3で請求すればいいということになっている。医療区分2・3が8割以上という基準は全くなく、どんな元気な医療区分1の人でも3で請求できるという非常に偏った制度となっている。これはいかにも偏向した考えであり、何人にも公平であるべき診療報酬に反している。
■ 地域包括ケア病棟入院料では月15万円の格差
現在では、療養病床も一般病床も全部6.4㎡の4人部屋というのが一般的であり、例外として、一般病床の中に4.3㎡の6人部屋以上がまだ残っている状況である。
ところが、地域包括ケア病棟入院料では差を付けた。6.4㎡の部屋と比べて、4.3㎡の6人部屋以上の所は1日5,000円のマイナスで、月15万円のマイナスという差が付いている。すなわち、4.3㎡の5人部屋以上の病室に入院した場合は「地域包括ケア病棟1」は算定できず、6.4㎡の4人部屋と比べて1日5,000円、月15万円の差が付いて、これらの病棟は「地域包括ケア病棟2」となった。
現在、一般病床が約90万床、療養病床が約35万床あり、平均在院日数の短い一般病床が平均在院日数の長い療養病床の3倍近く存在するのは異常事態である。「一般病床は急性期病床」、「療養病床は慢性期病床」と言われながら、現実には一般病床に数多くの慢性期患者が入院していることは周知の事実である。
■ 介護医療院は30対1、40対1にすることを提案
療養病床には、「救急・在宅等支援療養病床初期加算」のような設定があり、慢性期の急変患者が多く入院している。療養病床でも救急患者を受け入れれば評価する。ハードの条件は双方とも1部屋6.4㎡の4人部屋と決まっている。病床はすでに機能別に定められており、これからもさらに機能別は進むであろう。あえて一般病床と療養病床の分類を残しておく必要はなくなった。
介護医療院に転換したい病床を持つ病院が数多くある。それは療養病床だけではない。一般病床の中には、寝たきりの慢性期患者が実質上、莫大な数がひそかに入院しているのが事実である。医療費の総額を削減しなければならない現在、一般病床を介護医療院に転換することによる医療費総額の減額は、日本にとっては願ってもないチャンスである。
実は昨日の介護給付費分科会でのヒアリングでも、一般病床を代表する先生が「一般病床から病床転換して介護医療院に転換させてほしい」という熱い思いを述べていた。介護医療院に入所すべき状態の患者さんが、1日5万円もするような7対1や10対1の病床に入院していることは異常事態である。そうした認識が厚労省にあるのだろうか。
従って、病院病床は統一して、看護師の数により5対1、7対1、10対1、13対1、15対1、20対1に分類し、介護医療院は30対1、40対1にすることを提案する。
■ 今後の病床分類は「広域急性期」「地域急性期」などに
13ページの「病床別分類案」をご覧いただきたい。
現在、病床機能報告での機能区分は「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」となっている。しかし、「急性期」といっても基準がはっきりしない。そこで、広い地域から来る患者がそこへ集中してくるような病院を「広域急性期」として、ここは高度急性期の機能を持つと認めてもいいのではないか。
これに対し、例えば中学校区域の範囲の患者さんを対象とするような病院は「地域急性期」である。このように、患者の地域分布を調べれば一目瞭然で「広域急性期」と「地域急性期」を分けることができる。そして、「地域急性期」は地域包括ケア病棟。病床機能報告の「回復期」には、ほぼ同じ基準である地域包括ケア病棟と回復期リハ病棟が対応する。
「慢性期」については、25対1がやがて廃止されて15対1、20対1の療養病床となる。医療区分がはっきりしていないような、すなわち軽い人がいっぱい入っているような療養病床はもう要らないのだという方向性を厚労省はすでに示している。ということは、慢性期で必要な病床は、ちゃんと治療できる病床、すなわち「慢性期治療病棟」である。われわれ慢性期医療の現場では、中心静脈栄養などいろいろと高度な医療テクニックを使い、病状を治して日常に帰すように努力をしている。
「介護期」には、介護医療院1-1(重症・看取り機能)と、介護医療院1-2 (住宅型)がここに入る。そして、この下に老健や特養が入ってくる。
■ 一般病床と療養病床の区分は存在価値がなく、むしろ弊害
では、厚労省が発表している「1つの病棟で複数の医療機能を果たす場合」をどのように考えるべきか。14ページをご覧いただきたい。
例えば、「急性期機能」を果たすことがあっても、「回復期機能」を必要とする入院患者の割合が最も高ければ「回復期機能」を選ぶのが基本となる。1つの機能が70%以上のところはその機能としてはどうか。はじめのうちは段階的に60%、50%、70%というように診療報酬の報酬を決めるというのも一つの方法だと思う。
以上のように、2005年に決めた一般病床と療養病床との病床区分はもうすでに必要がなくなって、存在価値がなく、むしろ弊害のほうが多いということを主張したいと思う。
続いて、光熱水費の負担について、池端先生からご報告する。
■ 一般病床と療養病床、光熱水費の負担でも差別
[池端幸彦副会長]
いま会長からお話があったように、私たちの一番の願いは「一般病床」「療養病床」の差別をそろそろやめてほしい。同じような医療機能を担う病院については、段階的な医療機能として認めてほしいと考えている。
こうした中で、この10月からまたとんでもない改定が実施される。別紙をご覧いただきたい。「医療療養病床に入院している65歳以上の皆さまへ」「平成29年10月から光熱水費の負担が変わります」とある。
※ 左の画像をクリックすると拡大表示されます。
現在、医療区分1の患者さんは、1日当たりの光熱水費として320円を負担しているが、10月以降は医療区分2・3という病状の重い方に関しても一律に200円、そして来年4月から医療区分1と同じ370円と、段階的に負担が上がる。
下のほうの菱形の所をご覧いただきたい。「この見直しは、介護保険施設に入所する方には、現在すでに1日370円の光熱水費をご負担いただいていることを踏まえたものです。そのため、上表のように段階的に変更し、1日370円の光熱水費のご負担をお願いすることとなります」とある。
すなわち、今回の見直しは介護保険施設に入所している方と、療養病床に入院している患者さんも同じであろうというスタンスである。しかも、一番下をご覧いただくと、赤字で「65歳未満の方や、一般病床・精神病棟に入院されている方は対象外です」とある。
先ほどの会長のお話にもあったように、急性期と言われる一般病床にも慢性期の患者さんが多く入院しているという現状がある。それなのに、一般病床に入院している患者さんについては、こうした負担がなく、これに対して面積も広く居住環境も良い療養病床については(保険診療分を減額して)1日370円を求める。月に約1万円を支払うようにという。こんな不当な差別があるだろうか。 何の根拠で決められたのか。そして、これがさらっと通ってしまっている。私は大きな怒りを持っている。
しかも、医療区分2・3が200円。2・3の患者さんの状態は日々動いている。今日は200円、明日は370円、明後日はまた200円と、これをどうやって計算し、患者さんに説明するのだろうか。こんな制度がまかり通ってよいのか、皆さんにもいろいろご意見を頂きながら、私たちは強く訴えていきたいと思っている。
■ 公平な医療を提供できるようにしたい
[武久会長]
それともう一つ。10月からどういうことになるかというと、例えば一般病床から届出した地域包括ケア病棟と、療養病床から届出た地域包括ケア病棟があるが、この光熱水費に関しては、療養病床から届出たところは1万円以上支払わなければいけない。ところが、一般病床から地域包括ケア病棟に届出たところは1円も払わなくていい。
回復期リハビリ病棟は、療養病床から回リハ病棟に届出ても、一般病床から届出ても1円も支払わなくていい。なぜ、こんな変な差別をするのか、全く分からない。
しかも、医療区分2と3は重症だということは分かっているはずである。酸素をしなくてはいけなかったり、気管切開したりしていることが分かっているにもかかわらず、このような改定をする。医療区分2・3の患者さんは、どうしても入院しなくてならない理由がある。地域包括ケア病棟も回リハ病棟も、同じような状態の患者さんであるのに、負担に差がある。こんなことを誰が決めて、どういう差別をして厚生行政を行っているのか、説明していただきたい。それを皆さんに訴えたい。
これを見ると、「65歳未満の方、一般病床・精神病床等に入院されている方は対象外」とある。療養病床は入院が長いから支払うというならまだ分かるが、それならば精神病床も長いはずである。だから、さっぱり分からない。
こういったことが、「一般病床が良くて療養病床のレベルが低い」というイメージにつながっているとしたら、とんでもない話である。急性期病院で回復でききれず良くなっていない患者を受け入れて、一生懸命に良くしてさしあげて、非常にまじめにコツコツと日常にお戻ししている慢性期医療の現場の職員の皆さんに大変申し訳ない。日本慢性期医療協会の会長として大いに謝罪して、こういうことを積極的に改善し、皆さま方に公平な医療を提供できるようにしたいと思う。
(取材・執筆=新井裕充)
とても勉強になりますね。この文章に気がついてよかったです・・・