公開日:2017年08月08日

お盆の季節

そろそろお盆の季節ですね・・・

 

こんにちは、最近患者さんから「お盆の時期はお休みなしですか?」って聞かれること多いですが当院はお盆の時期もGWも年末年始も通常通り対応、診療しています。医療機関の都合でできるだけ患者さんやご家族に負担がかからないように、迷惑をかけないようにしなくてはいけないとは常々思っておりそういう体制を在宅だけではなく外来でもできるような体制をつくっていきたいと考えています。

さて連日簡単で申し訳ないですが、本日は簡単にこちらの記事3つを紹介することにしたいと思います。来年度からの専門医制度の変更、地域医療にものすごい大きなインパクトを起こすことは必須です。増加する高齢者や地域での活動をどうしていくのか、この専門医制度では絶対対応は不可能です。自分は絶対やめた方がいいかと思っていますが・・・・皆さんはどう考えますか?

MRICより

Vol.167 新専門医制度の拙速な実施は日本の医療に大きな禍根を残す http://medg.jp/mt/?p=7760

倉敷中央病院 神経内科 主任部長
進藤克郎

2017年8月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

7月も後半になった。例年なら、来年度の進路選択の参考にと、夏休みを利用した病院見学で初期研修医の先生方への応接に忙しくなる。しかし、今年はもう一つ盛り上がりにかける。それは、もちろん来年4月以後の専門医研修の動向がはっきりしないためだ。
日本専門医機構の吉村博邦理事長は7月7日の理事会終了後の記者会見で、「2018年度から新専門医制度が実施可能になった場合に備え、10月から研修プログラムへの専攻医の登録を始める」という主旨の発言を行なったそうである。(メディ・ウオッチ(2017年7月10日 http://www.medwatch.jp/?p=14732 )これを素直に読めば、2018年4月の新専門医制度全面スタートは確定していないことになる。さらに同記事によれば、スタート確定は来年1月以後になる可能性があると読める。このような混乱が続いている理由の一つとして、第一線の現場の医師たちが今回の新専門医制度の開始についてもろ手を挙げて歓迎しているわけでは無く、むしろ地域医療の混乱につながることを危惧している点が挙げられる。
日本専門医機構の新専門医制度整備基準によると、基幹病院・連携病院によるいわゆる循環型研修をすることとなっているが、このような循環型研修が、日本専門医機構機構の言う「国民に標準的で適切な診断・治療を提供できる医師」の養成に有用である、とのエビデンスは無い。過去、単独施設で専門医研修を行なってきた専門医は多いが、彼等の能力が劣っているとの証拠もない。
アメリカを始め、先進諸国で循環型専門医研修を必須としている国は無いが、それらの国で単独施設専門医研修を受けた医師の能力が劣っているとの証拠も無い。地域医療への影響を考慮すると、循環型研修が望ましいとの考えもあるが、従来循環型研修を取らずに回っていた地域では、むしろ循環型研修を必須とすることで、大きな混乱が予想される。また、従来は単独で専門医研修を行なうことのできていた多くの病院で、後期研修医が減ることによる地域医療への影響も無視はできない。仙台厚生病院の遠藤希之先生の報告によると、指導医を確保するためにすでに一部の大学病院は医師の引き上げを始めているそうである。( http://medg.jp/mt/?p=7707 )まさに、現在の初期研修制度が始まった際に見た、いつか見た景色である。

さらに、循環型研修の場合には、短期間で退職・就職をくり返すことになるケースが多いと想定される。その場合、勤務時期によって退職金・ボーナス・有給休暇などの待遇は大きく異なることになる。
例えば、ある病院では、12月から5月までの勤務状況を元に6月15日在籍者にボーナスが支払われる。この場合、勤務時期でボーナスの支給は大きく変わる。同一学年で、同一基幹病院で、同一プログラムで研修をしていても、待遇が大きく異なる可能性があるということである。同じプログラムに乗っているはずなのに、退職金・ボーナス・有給休暇が異なった医師の同僚の存在が気になる医師は決して少なくないと予想される。
専門医研修中の医師の待遇は新たなルールが必要であるが、そこまで議論の進んでいる施設は寡聞にして知らない。医師をも含めた働き方改革が議論にあがっている現在、専門医研修中医師の待遇は無視して良い問題では無い。

女性医師問題も解決したとは言えない。もちろん、専門医機構の「専門医制度新整備指針」には、「女性医師に配慮した柔軟な対応」と6月2日の理事会文書には書かれている。しかし、具体的な方策の明記は無く、これに応じた内科学会の専門研修整備基準等の改正は一切されていない。
結果的に結婚・妊娠といった人生のイベントと医師としてのキャリアパスとの両立を目指す女性医師にとっての、新専門医制度への不安は未だ解消されていない。女性医師の「育児中の必須学会参加困難・subspeciality 専門医取得困難」「認定施設での勤務が必須となった場合、専門医維持更新が困難」などの不安の声から、多くの女性医師は新専門医制度に反対しているとのデータもある。(joy.net https://www.joystyle.net/articles/453 )新人医師に女性が占める割合が約半数に近づき、少子化問題が叫ばれている現在、女性医師のライフイベントを無視した制度設計はあり得ない。

ここに挙げた問題は、実際にはほんのいくつかの例示に過ぎない。しかし、いずれも深刻な課題であり、我々はまだ明確な解決法を手に入れていない。
我々の病院には、将来の日本医療を支えてくれる多くの若き医師・医学生が来る。その彼等のキャリアプランの相談に乗るたびに、自分の得ている情報の少なさに愕然となる。
「とりあえず、今目の前の患者に向かって全力で研修して、実力をつけていれば何がどうなっても、何も心配はいらないよ。」と、語りながらも隔靴掻痒の感は禁じえない。人生の先輩として、もっと明確な未来を語ってあげたい思いはつのるが、全てはあまりに混沌としている。

日本専門医機構によると、整備基準を元に、各基本領域学会がプログラム整備基準を作成し、これに従って各病院が病院プログラム作成、学会審査・機構審査を経て、各病院のプログラムが決定されることになっている。さらに、ここに各都道府県協議会の審査も行なうことになっている。上で挙げた諸問題への解決は議論にすら挙がっていない。常識で考えれば、来年4月スタートには無理がある。しかし、日本専門医機構は未だ、2018年4月スタートとの旗を降ろしていない。

周知期間に5年は欲しい。そのぐらいあれば、上にあげた諸問題にも対策を立てることもできるだろう。上に政策あれば、下に対策あり、と言う。現状は、対策を立てるひまも与えられず、竹やり一本で敵陣に向かっていく気分である。
専門医制度改革は、超高齢社会の日本にとって、焦眉の急であることに異論はない。しかし、教育は国家百年の計である。専門医教育も例外では無い。これだけ多くの問題を抱えたままの拙速を正当化することはできない。

 

Vol.164 これから専門医を取ろうとしているドクターへ この制度の問題点を知ろう http://medg.jp/mt/?p=7749

つくば市 坂根Mクリニック
坂根みち子

2017年8月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

来年度の専門医制度の開始が再び危ぶまれている中で、早く制度を開始してほしいと思っているドクターも多いと思います。
私は、来年度からの開始に反対している医師の一人です。去る7月21日には、来年度開始の反対署名1620名分、塩崎厚労大臣に届け、厚労省で記者会見を致しました。(1)
H28年臨床研修終了者アンケートによると9割以上の方が、専門医の取得を希望しています。日本専門医機構が、整備指針を改訂し、専門医取得は義務つけていないことを明記しましたが、先々の就職や、この先必ずでてくるであろうドクターフィーの問題を考えても、皆さんが専門医を取得しようと考えるのは当然のことと思います。私たちも、専門医制度そのものを反対しているわけではありません。ただし現状では、明らかに準備が整っていません。以下、日本専門医機構に対する制度開始のための最低限の要望を述べます。
●「質」を担保するための統一基準を公表し、「質」が担保されるのであれば、単独施設での研修も認めること
●基本領域の選定再議論も平行して進めること
●基幹施設となる大学病院の理不尽な仕打ちや不自然な循環型プログラムを拾い上げ具体的な改善策を示すこと
●専攻医の身分保障をすること
●機構の議事録をはじめとする情報を速やかに公開すること
●機構は、制度の検証—改善という仕事に特化すること現状の準備不足のまま制度を開始するのであれば、最低限、検証して改善する道筋を確保しておかなければ、皆さんの人生設計だけでなく、医療供給システム全体に取り返しのつかない悪影響を与えます。医療は人の生き死にがかかっていますので、上手くいかなかったらやり直そうでは済まされないのです。
具体的に4点に絞って説明します。
1) 質の問題
まずこの制度は、中立の第三者機関が、学会毎にバラバラだった専門医の「質」を統一するために始めたものです。ところが、現在までのところ、今まで通り学会丸投げです。機構は学会が策定したものを「検証、承認する」そうですが、現実問題として今の機構に学会が決めたものを検証する能力はなく、どのように検証するかの統一基準は一切示されておりません。
質の確保について、当初、機構の池田康夫理事長(当時)はアメリカ型の専門医制度の導入を目指していました。アメリカの専門医制度は、学会から独立した第三者機関です。アメリカでは、研修医は日々の研修で繰り返し評価され(上級医だけからではなくコメディカルや年次が下の研修医からも評価される360度評価システム)、研修の最後に専門医資格取得のための試験があるのです。つまり、日々の研修の評価と試験の二段構えで質を担保しています。アメリカでは指導医も研修病院も絶えず評価を受けます。たとえば研修病院は、卒後医学教育認定評議会(ACGME)によって抜き打ち査察を受けます。そこで勤務時間の違反がないか、講義が適切に行われているか教育回診の質は確保されているか、など厳しくチェックされます。匿名のオンライン調査もあります。
日本で、学会から独立して、学会に所属しなくても専門医が取れるようにするというのは、今の時点では現実的ではないかもしれませんが、せめて、質を担保するための統一基準がなければ、制度を開始する意味がありません。制度開始が多少延びても、今までの制度が維持されるだけなので全く問題ないはずです。2) 研修方法の問題
上記のように、機構は、マンパワーも予算も法的根拠もないまま、アメリカ型の制度を強引に推し進めようとしたために、昨年大きな反対運動が起こりました。主に地域医療への配慮が足りないという声が大きく、制度開始が1年延期され、機構役員は刷新されました。
この制度では、基幹施設(大学病院を想定)を中心に研修施設群を作り循環型の研修を行う(以下循環型プログラム制と呼ぶ)予定でしたが、延期・再検討の結果、大学病院以外でも基幹施設になれることや、出産育児、留学等の理由により、カリキュラム制が選択出来るよう、柔軟な対応が求められる、という文言が追加されました。
が、この問題の根本は、
①循環型プログラム制、という他国では見られない、特異な研修形態を取ることと(2)②専門医取得の基本領域が19領域に決められていて、それ以外の領域に入れられてしまった科は、基本領域の研修後にさらにサブスペシャリティの研修に入らなければいけないことです。しかもこの2つは、厚労省で行われた「専門医の在り方に関する検討会(以下、在り方検討会)」(H23−25年 座長 高久史麿日本医学会長(当時))で決められた、言わばお墨付きの決定事項だったために、法的根拠は欠いていても、これが今の専門医制度の憲法のようになってしまっているのです(3)。

実は、アメリカの研修は90%以上単独施設で行われています。足りない部分だけ他の医療機関へ行って研修することもあります。理屈からいえば、日本でも研修医育成の質が担保されているのなら、それで十分なはずです。何故、ここに「循環型プログラム制」などという悪手が滑り込まされたのか。厚労省の担当者でさえ、「個人的には理不尽だと思っている」(厚生労働省医政局医事課医師養成等企画調整室室長 堀岡伸彦氏)と述べています(4)。その裏事情として、初期研修制度が始まって大学病院から研修医が減り、市中病院との研修医数の逆転現象を認めており(5)、その起死回生の一手だったことは明らかです。そして、基本19領域について、何故その19領域なのか疑問の声が上がっていますが、各所からの情報をまとめてみると、結局、日本の医療界の後進性を象徴する「検討会で声の大きい人の言い分が通る」という場の雰囲気だったと思われます。
在り方検討会のとりまとめには法的根拠はありません。金科玉条のごとく扱うのは止めて、実態に合わなければ、臨機応変に変えればいいだけの話です。

3) 身分保障と子育て問題
次は、研修医(専攻医)の身分の問題です。
現在、初期研修医は、給与や労働時間等基本的には身分保障がなされています。ところが、後期研修医からは、最低基準が無いために、後期研修医の方が初期研修医より給与が安く、労働時間も管理されていないという場合があるのです。今回の循環型プログラム制では、数ヶ月ごとに研修先が変る可能性がありながら身分保障についての議論が不足しています。研修医は年齢的に家庭を持ち、子育てをする時期と重なります。いつまでも不安定な身分で放置してはいけません。少なくとも機構は最低限の身分保障が出来るようルールを定めるべきです。
また、女性医師に取っては、妊娠出産と研修の時期が重なります。女性医師のパートナーは7割が医師と言われる現状で、今までのカリキュラム制の専門医取得制度でさえ、共に常勤で働き続けて子供を持つことは非常に困難でした。データが少ないのですが、現在50代で常勤で働いてきた女性医師の36%が未婚であるという驚くべき数字があります(6)。これは個人情報をたてに放置しておいていいレベルの問題ではなく、きちんと検証しなければいけない社会問題です。
結局、働き方改革とセットでなければ、循環型プログラム制と、サブスペシャリティの問題は、間違いなく女性医師の専門医取得を阻害するものになります。子育て世代の医師たちにとって、人生の最も伸びる時期に身分不安定な研修生活に多くの時間が割かれることになり(7 小松秀樹 Vol.212 新専門医制度は搾取する)、子育て中の人が、サブスペシャリティまで到達して専門医になることは、至難の技ということになってしまいます。

4) 機構のガバナンスの問題
現在、機構は1億4年万円(!)という借金を抱えています。専門医制度の開始が遅れ、予定していた認定料などの収入がなく、経費がかさんだためです。
その借金は、社員や理事を構成する学会や日本医師会からの借入金です。残念ながら、機構は、当初の理念であった「独立した第三者機関」ではなくなっています。それでも機構がこのまま突き進むのであれば、機構には、質を担保する能力も人を集める財力も無いと認め、制度の検証→改善という機能に特化して頂きたいと思います。
そのために一番足りないのは情報公開です。
議事録の公開、パブコメの公開、それに対する返答、何もありません。
面会を求めても、公開シンポジウムを働きかけても、断られています。
そして、何より問題なのは、すでに各地で勃発している、制度開始に伴う大学医局からの医師の引き上げや、有形無形の圧力、学会の圧力を拾い上げる努力と対応策を取っていないことです。
岩手の医療崩壊の例が公になりましたが(8)、それ以外にも、手を挙げた医療機関を学会が基幹施設と認めない例や、研修施設群を作るのに、遠くの医療機関と組まされた例、今まで閑古鳥が鳴いていた医局の教授が「まず基幹施設であるうちの医局に全員入局させる」と豪語している例など、問題例は枚挙に暇がありません。
機構の不手際で、すでに日本各地で大混乱がおきているのです。研修医だけでなく、今まで労働基準法違反の勤務環境で働き続けてきた医師たち、必死に次世代を育ててきた医療機関を放置していいわけがありません。(9)見せかけの配慮ではなく、地方地方によって千差万別である医療供給体制の息の根を止めてしまわぬよう、具体的な配慮が必要なのです。(10)
そのために必要なことは、現場の声を聞くことです。

機構には、各学会と医師会の代表、有識者等、各界の重鎮しかいません。女性医師は毎回形式的に1人加えられているだけです。事務方が少なくフットワークよく動けません。学会員と大学教授が中心の機構で、利益が相反するこういった声を拾い上げて是正を促すことが、はたして可能なのでしょうか?
しかしながら、それが出来ないなら機構の存在意義はありません。

日本医師会副会長で日本専門医機構の監事でもある今村聡氏は、7月23日の講演会(4)で、今までも各界代表がでている場で民主的に決めてきたことだから、問題があるのなら各団体が意見を吸い上げてきたはずだ、との立場でしたが、残念ながら日本の医療界の決め方は族長政治であり、これから専門医を取る医師、指導医、女性医師などの声は届いておりません。

この制度は、長期にわたり、若手の医師たちを不安定な身分で管理し、強制配置するものです。それでもこの制度を始めると言うなら、最低限上記述べたことをクリアーにしてからでないと、これから専門医を取得しようとしている皆さんの未来も潰されてしまうのです。

参考
(1) 新専門医制度の2018年度開始に反対、1560人分の署名『専門医制度の「質」を守る会』、厚労相宛に提出 https://www.m3.com/news/iryoishin/547029
(2)Vol.079 新専門医制度の何が問題なのか ~巧妙に仕込まれたプログラム制の罠~ http://medg.jp/mt/?p=7481
坂根Mクリニック 坂根みち子 2017年4月13日 MRIC
(3)専門医の在り方に関する検討会 報告書

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000300ju.html

(4)「連携施設メーン」専門医研修も可、厚労省強調
地域医療研究会研修会、2018年度開始への不安相次ぐ

https://www.m3.com/news/iryoishin/547206

(5)大学病院と市中病院の研修医数
file:///Users/macuser/Downloads/%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E7%97%85%E9%99%A2%E3%81%A8%E5%B8%82%E4%B8%AD%E7%97%85%E9%99%A2%E3%81%AE%E7%A0%94%E4%BF%AE%E5%8C%BB%E6%95%B00000171151.pdf
(6)職業別の生涯未婚率

http://tmaita77.blogspot.jp/2014/02/blog-post_9.html

(7)Vol.212 新専門医制度は搾取する

http://medg.jp/mt/?p=7016 小松秀樹2016年9月23日 MRIC

(8)Vol.149 [ 新専門医制度問題 ] 「新」制度が岩手県の地域医療を早くも崩壊させている http://medg.jp/mt/?p=7707
仙台厚生病院 医学教育支援室室長 遠藤希之
2017年7月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会
(9)Vol.089 新専門医制度は「医師養成」と「地域医療」の両立に努力してきた市中病院を崩壊させる http://medg.jp/mt/?p=7505
安城更生病院 副院長/神経内科部長 安藤哲朗 2017年4月27日 MRIC
(10)Vol.096 地方に行きたい医師を拒む”ブラック組織”の罪 厚労省の最新調査で明らかになった日本の問題点 http://medg.jp/mt/?p=7519
相馬中央病院内科医 森田知宏 2017年5月5日 MRIC

 

Vol.148 日本専門医機構は新専門医制度の2018年度開始をごり押しするのか http://medg.jp/mt/?p=7704

専門医制度の「質」を守る会 共同代表
つくば市 坂根Mクリニック  坂根みち子

2017年7月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

日本専門医機構は7月7日に2018年度からの新専門医制度開始の準備が整うという。
学会任せの専門医にばらつきがあり、質の担保が必要と言う事で始まったこの制度だが、質の担保はどのようにされたのだろうか。
機構が出した新整備指針を検証してみた。
1)専門医制度の根幹は「学会の専門医制度」ではなく、「各基本領域の専門医制度を各専門領域学会が運営し担う」ことである。 意味するところは「学会の専門医制度」は機構の助言・評価がないが、「各基本領域の専門医制度を各専門領域学会が運営し担う」は機構の助言・評価を受けることである。
→ということは当然機構のチェック機能が重要となってくる2)一つの基幹施設のみでの完結型の研修ではなく、一つ以上の連携施設と研修施設群を作り循環型の研修を行うものとする。 すなわち、一つの病院だけの研修を行うと、その病院の性質(地域性、医師の専門等)の偏りにより研修に偏りがでる可能性があるので、他の連携病院を必ず作り循環型の研修を行うものである。
→これは他国の専門医制度には認めない日本独自の方法だが、単独施設であっても研修の質が保たれていればいいだけなので、実際は質のためではなく偏在対策とでもいうべきものである。3)研修到達度評価 各専門研修プログラムにおいて、各基本領域学会の定めた基準による研修プログラム管理委員会においてフィードバックシステムが確立されなければならない。日々の評価に加えて年次評価を行い、不足部分の研修を重点的に行わせる。
→機構のチェックではなく、学会がチェックするらしい。

整備指針すべてに目を通してみても、質の担保のために書かれた方法は、「学会が策定し、機構が検証、承認を得る」これだけであった。
具体的な方法は一切書かれていない。学会をまたいで標準化されたものはまだ一つもない。
機構は整備指針で、「学会は機構と相談の上、質を担保せよ」と言えば専門医制度の質を担保したことになるとでも思っているのだろうか。

そして、「働き方改革、女性の力を活用」をうたう国の方針に逆行するような以下の項目。
・特定の理由(海外への留学や勤務、妊娠・出産・育児、病気療養、介護、管理職、災 害被災など)のために専門研修が困難な場合は、申請により、専門研修を中断することができる。
妊娠・出産・育児がこの時期の医師たちにとって当たり前の事ではなく、「特定の理由」になるらしい。
多くの女医にとり、研修期間と妊娠、出産、育児は確実に重なる期間である。この時期に、決められた場所での短期のローテート研修と常勤勤務というハードルがどれほど高いものか、制度設計する側に想像力が全く欠如している。女医のパートナーは7割医師である。ともに研修中ということも多いだろう。保育園の確保さえ難しい現状で、早朝保育、延長保育はあるのか、どちらか一人でも時間通り帰れるのか、勤務先により通勤時間はどのくらいの幅があるのか、子供が病気になった時の人の手当てをどうするのか、小1の壁をどう乗り越えるのか、悩みは尽きない。
7月4日付けの日経夕刊にニュージーランド航空日本支社長のクロビス・ペリエ氏のこんな意見が載っていた。
<女性の力 もっといかそう>
多様な意見を戦わせれば、企業はよりよい決断ができるだろう。男性だけで会議をしたら、男性のための結論しか出ないのは当然だ。顧客の半分は女性。女性社員に意見を聞かないと始まらない。日本には非常に多くの才能ある女性がいるにもかかわらず、まだまだうまく力を発揮できる場が整っていないと感じている。(引用終了)
早速日本専門医機構のメンバーを確認してみた。ほぼ、中高年の社会的地位のある男性で占められていた。理事長以下理事まで総勢25名中女性3名、女医は京大腎内の教授1名のみであった。残る2人は医療安全と人権の団体の代表者であった。これでは女医のライフスタイルを理解した制度が出来るわけがない。

7月3日の女医ネット(https://www.joystyle.net/articles/453)に、女医の85.7%が専門医制度に反対しているという記事が載っていた。その中にこんな投稿があった。
・更新でも認定施設での常勤勤務が必須でライフイベントで時間の制約が多い女性医師にはますます両立が厳しい。
・(基本領域研修後)サブスペシャリティの専門医取得が必要になるのであれば、女性医師が出産や育児をしながらサブスペシャリティの専門医を取得するのは不可能に近い。

その通りだろう。
専門医の「質」の担保のために研修のハードルが高くなるならまだしも、機構がしたのは、研修を受けるハードルを上げたのである。出産して子育てしながらキャリアを積みたい女医に取っては絶望的な制度である。

この新専門医制度は未だ「質」の担保をしていない。学会に丸投げしている状況は今までと変わらない。循環型プログラム制による研修など、改悪されたと言ってよい。機構がどうしてもこの制度を推進したいというなら、各学会から出てきたものを検証し標準化して、機構の検証システムの構築が出来てから開始するのが筋である。これでは、機構に「質」のチェック出来る能力があるのか、私たちは検証する事さえ出来ない。
機構は何故来年度からの開始にこだわるのか。まだ準備が出来ていないのは明らかであり、一旦停止して、現場の人間、指導医や若手、女医を入れて軌道修正しなければいけない。その際は、古い手法を変えて、忙しい現場の人間が参加出来るよう、テレビ会議にして頂く事から始めて欲しい。
高齢者の、高齢者による、高齢者のための会議みたいなものはいい加減止めて頂きたい。
それでもこのまま強引に進めるというなら、機構の借金のために未来の専門医たちは売られたと言われても仕方ないであろう。

 

 

 

これだけ問題がある制度、犠牲になるのはこれからの医師と何より一般の市民の人だと思うのですが・・・・・