高齢人口の増加への対応~上海の場合
この記事はとても興味深くみせてもらいました。他国が増加する高齢人口にあわせ社会保障制度を今後どのようにしていくのか、継続して情報が入ってくると日本とも比較できて良いですね。
一番自分が気になったのが社会保険が出身地域別に区別されていることです。保険や税金のシステムはシンプルが原則、ということを考えるといずれここは抜本的に変化が求められるようになるのでしょうか(戸籍自体がわけて管理されている現状では難しいでしょうが・・・・・)
翻ってみてみると昨日、一昨日にもふれましたが日本の地域包括ケア、特に在宅分野の保険点数はますます複雑化しています。だれが完璧に理解しているのか・・・・・・・どこかで必ずシンプルな形態(包括制度)に回帰すると個人的には予想しています。
MRIC医療ガバナンス学会より http://medg.jp/mt/?p=3155
Vol.034 上海における人口高齢化の現況とその対策
医療ガバナンス学会 (2015年2月20日 06:00)
復旦大学公衆衛生学院公衆衛生学講座主任教授
趙根明(Genming Zhao, M.D., Ph.D.)
2015年02月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
一.上海の人口高齢化の特徴
人口の階層別統計によると、65歳以上は256.63万人(全人口の17.9%)、70歳以上は171.93万人(同12.0%)、80歳以上は71.55万人(同5.0%)を占めています。
高齢者人口の性別構成では、女性が男性より多くなっています。さらに、高齢人口全体に占める女性高齢者の比率は年齢に比例して上昇する傾向にあります。
二.上海の人口高齢化がもたらす影響
上海の人口構造における高齢化現象は日々進行しており、社会・経済が発展し都市化する過程においても大きな課題です。
1.高齢化に伴い、社会保障システムの再調整が迫られ、一層の財政負担増につながっています。
現在、上海の社会保険は以下のように分類されています。
(1)都市社会保険:主に都市部に在籍する住民を対象に納付。
(2)市町村社会保険:主に郊外に住む多くの農村部から転籍し、土地を失った農村住民を対象。
(3)農村社会総合保険:主に従来からの農村戸籍の住民を対象に納付される農村保険。その対象は概ね都市部以外の郊外区域に集中。
(4)総合保険:主に流動人口を対象。
(5)医療保険:自主参加で上海の全ての労働者は医療保険の対象と成り得る。
上海市で定年を迎えた都市型年金の受領者は、すでに高齢者人口の68.7%を占めるまでになっています。このため上海市の社会保障システムにかかる財政負担はすでに相当な重荷になっており、社会保障基金の底抜け現象がすでに出現しています。将来的に、上海市における社会保障基金の基盤を維持するために、財政支出比率を高めざるを得ない状況が相当長期に持続、ないし状況一層の悪化が見込まれているわけですが、その最も根本的な原因は高齢化問題にあるといえます。
2. 高齢化は現行の家庭構造モデルに変化をもたらし、若い世代の負担はより一層重たくなる
人口高齢化がもたらす直接的な結果の一つとして、家庭における扶養負担増が挙げられます。一方で、国の高齢者扶養保障、扶養金資金の供給が不足しています。また他方では、居住コミュニティの高齢者サービス及びその他公共サービス能力が不足しています。このため、いずれも高齢者扶養サービスを家庭によって提供する段階に後退しています。家庭で老後を過ごすモデルは、現状の家庭構造モデルの変化をもたらし、将来にわたって中・低収入者における労働適齢人口の扶養負担がさらに重くなることが予想されます。
3. 疾病負担が日増しに厳しくなり、医療サービス需要と利用が顕著に増加している
高齢者は生理的な機能が減弱し健康水準が低下するため、各種疾病の発生率が明らかに増加しています。統計上、高齢者の医療サービス需要は若年者よりはるかに高いことが示されています。
上海市のある行政区統計によれば、65歳以上の戸籍高齢者の死因のトップ3は循環系疾患、腫瘍、呼吸系疾患の順であり、全死亡者の82.13%を占めています。高齢者で罹患率のもっとも高い疾患は、高血圧、骨関節疾患、冠動脈疾患並びに慢性気管支炎です。これらの疾病と年齢は非常に強い相関関係があり、寿命の延長に伴い、各種疾病の発生率は増加する傾向にあります。しかも、高齢者の大多数は複数の慢性疾患を同時に有することが珍しくありません。その治療期間は長く、長期的な服薬が必要となり、且つ高齢者の収入は大抵の場合高くは無いため、高齢者の医療にかかる経済負担は現在過重なものとなっています。
三、人口高齢化への対応策
事前に上海の人口高齢化に対応し、現有の資源と労働力の優位性を発揮し、居住コミュニティにおける高齢者のためのサービス事業発展をはかるために、実践可能な対応策として下記のものが考えられます。
1. 現行の高齢化住民に対するサービスインフラの完備、居住コミュニティの高齢者サービス業の発展
長期的に見れば、居住区域において社会システム構築レベルでの高齢者サービスシステムを積極的に立ち上げ、高齢者の居住コミュニティにおける助成サービスを発展させる必要があります。
(1)居住コミュニティにおける生活保護、高齢者扶助、高齢者サービスを展開し、各年齢階層の高齢者の需要を満足させる基盤を立ち上げます。
(2)居住コミュニティサービスを主体とした高齢者サービス体系の発展を目指します。
(3)居住コミュニティの高齢者助成を主体にし、個人と家庭による自主的な高齢者世帯の暮らしを提唱し、居住コミュニティにある高齢者扶助とその助け合いを実施します。
(4)最終的に国と社会が資金援助によってその生活を助けます。
以上の4つレベルのサービス体系の構築を目指すことになります。
2014年、上海の高齢者用ベッド数はすでに11.5万床に達しており、そのうち大まかに医療・介護併用型は9.2万床になります。この他、全市内660件の介護機関では、139件が医療機関を併設し、さらにそのうちの88件が医療保険のネット連携を実現しています。
2. 現行の社会保障体系の完成と、介護基金の保障体制の健全化
全社会の力を動員する必要があり、現行の社会保障体系を構築・完成し、特に社会保障基金の集金ルートと当該資金の管理方式を構築し健全化させます。これは、現行の老後保障基金の集金ルートを開拓して行く過程で完成させる必要があります。
3. 定年の延長とフレックスな定年制度の実施による高齢化ピーク延長・緩和
現在、上海市では一人っ子政策の第一世代の親たちは、定年退職の年齢に順々に到達しており、かつ年金を受け取り始めています。現在の高齢者の8割以上が一人っ子の両親です。一人っ子世帯は前代未聞の社会的扶養にかかるプレッシャーに直面しており、数人の高齢者介護にあたるという問題も負担しなければなりません。同時に子供の教育と自分の生活コストをも担う必要があります。上海市は定年年齢の延長又はフレックスな定年制度の実施を検討しています。
4. 「家に居ながらの介護」、「持ち家担保年金」等の高齢者介護モデルの検討・実施
「家に居ながらの介護」とは、家庭を中心に居住コミュニティの援助を受けながら、専門性の高いサービスを依頼し、家に居る高齢者の日常生活の困難を解決することを主な内容とした社会システム化サービスを提供することを指します。加えて、「持ち家担保年金」型老後扶養とは、住宅を抵当としてローンを組み、それを返還して行くモデルにおいて実施される、新しい老後の養護形態の一つです。