ALSの患者さんへのラジカット適応、在宅での点滴に関してなど

先日中医協でALSの患者さんへのラジカット投与の適応が追加されました、皆さん知っていますか?

昨日病院でラジカットを訪問診療で行いたいという患者さんに会いに行ってきました。退院後当院で点滴も含め在宅加療をしてほしいとのこと、カンファレンスで今後の治療についてお話してきました。これから札幌で通院が難しいALSの患者さんにも訪問診療と看護をうまく利用してもらい自宅での点滴加療を受けてもらいたいなと考えています。

ただ保険請求に関して、国保の保険者さんにきいたんですがピンとくる返答がありませんでした。処方箋にのせていいことも知らないようでしたので自分たちできちんと処方箋にのせてよいことを確認するために中医協からの資料を確認しました。以下にあげますので皆さんも確認してみてください。

ラジカット以外にも原則在宅では処方箋にのせることができる薬剤は自己管理、自己注射ができるものと限定されています。が場合により抗生剤やその他諸々の薬剤も保険請求できることがあるようですし当院でも行うことはあります。具体的に薬剤や方法を知って臨床に参考にしたい医療者の方などいましたら当院の経験をお伝えしますので気軽に連絡ください。

2016年2月2日追記:他にも記事を追加していますので参考にしてください。

http://www.imai-hcc.com/archives/1994 

http://www.imai-hcc.com/archives/1806

札幌市内でのALSの方のラジカットの相談もぼちぼち増えていますがまだ対応可能です。またケアマネやSWもいますので在宅療養全般についても相談にのります。気軽にご連絡くださいね。

 

 

中央社会保険医療協議会 総会299回 議事次第 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000089575.html より

保険医が投与できる注射薬について http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000089569.pdf

 

保険医が投薬することができる注射薬(処方せんを交付することができる注射薬)の対象薬剤の追加について
第1.対象薬剤の現状
患者が在宅で使用する注射薬については、療養上必要な事項について適切な注意及び指導を行った上で、保険医が投薬することができる注射薬(処方せんを交付することができる注射薬)として、定められている(参考)。
例)インスリン製剤
在宅中心静脈栄養法用輸液
自己連続携行式腹膜潅流用潅流液
インターフェロンアルファ製剤
インターフェロンベータ製剤
アダリムマブ製剤 等

第2.対象薬剤の追加
1 エダラボン製剤については、筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制に有効であるが、外来に通院して投与し続けることは困難な者等もいると考えられるため、保険医が投薬できる注射薬に加えることとする。
<エダラボン製剤>
【販売名】
ラジカット注30mg、ラジカット点滴静注バッグ30mg
【効能又は効果】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制
【用法及び用量】
通常、成人に1回2管(エダラボンとして60mg)を適当量の生理食塩液等で用事希釈し、60分かけて1日1回点滴静注を行う。
通常、本剤投与期と休薬期を組み合わせた28日間を1クールとし、これを繰り返す。第1クールは14日間連日投与する投与期の後14日間休薬し、第2クール以降は14日間のうち10日間投与する投与期の後14日間休薬する。
【薬理作用】
フリーラジカルの発生を抑制し、運動ニューロンを酸化ストレスから保護する
ことで病態の進行を遅延させる。
【主な副作用】
急性腎不全、肝機能障害、血小板減少、播種性血管内凝固症候群 等
【承認状況】
平成27年6月中薬事承認予定(一部変更)

 

 


医師の募集をしています

札幌、宮の森を中心とした在宅医療、地域包括ケアの充実のために当院では常勤、非常勤医を募集しています。興味のある先生は気軽にご連絡ください。もちろん施設見学もいつでも受付いたします。

当院が求める医師

生活習慣病の管理や在宅緩和ケアなど、在宅でできるプライマリーケアを志向する医師

*臨床経験は3年以上あれば可です。複数医師による診療体制ですので症例の相談も行えます。

*外科系やその他の科からの転向希望の医師も相談にのります。

 

地域包括ケアシステムでは医師には医療面のみならず生活や地域資源、保険制度などすべてに精通した上で医療を提供するようになることが求められます。是非ご検討ください。

以下にさらに詳細にのせていますので参考にしてください。

http://www.imai-hcc.com/recruit

 

他の職種の方も興味があればご相談ください。


地域包括ケアにおける調剤薬局の役割

医療系サイトのm3で調剤薬局の役割について簡単な記事がでていましたので参照してみてください。

政府や地方自治体が期待するよな役割を現場で薬剤師の人ができるようになるためには、医師なみとはいいませんがそれに近いくらいの判断ができるようにならなければいけないと思います。前述のリフィル処方箋の件、特定看護師の件もそうですが今後医療と介護の同時改定が行われる2018年にむけて各職種がどこまで地域包括ケアにかかわる形になるのか、またそれに伴う責任をどう負うのか、難しい議論が必要だと思います。

m3.comより

https://www.m3.com/news/general/343638

患者宅訪れ服用指導 健康情報の拠点に 「暮らしコンパス」変わる調剤薬局

 

調剤薬局が変わりつつある。病院や診療所が処方した複数の薬をまとめて管理し、患者に服用指導する「かかりつけ」機能を担う薬局が増えており、政府はこうした薬局を地域の「健康情報拠点」と位置づける。超高齢化が進む中、在宅医療・介護で期待される役割も大きい。現場を訪ねた。

長野県上田市の渋川茂(しぶかわ・しげる)さん(84)は、持病が悪化して車いす生活を送る。長年利用している薬局には、近所に住む長女や長男に薬を取りに行ってもらうことが多いが、仕事の都合などで足を運べず、服用が途切れてしまうこともある。

6月中旬、渋川さんの服用状況を確認するために薬剤師の飯島裕也(いいじま・ひろや)さん(35)が、かかりつけの医師とともに渋川さん宅を訪ねた。

「鎮痛剤の錠剤が大き過ぎて、飲みにくいんです」と渋川さん。「口の中で溶けて楽に飲める錠剤がありますよ」。飯島さんは薬の変更を提案すると、医師はその場で処方箋を書き換えた。飯島さんは薬局に戻って調剤し直し、その日のうちに新しい薬を届けた。今後は、定期的に渋川さん宅を訪問することにした。

父親から経営を引き継いだ飯島さんの薬局は、30年以上も通う患者が珍しくない。「生活状況の変化を把握し、年齢に応じた服用の提案を心がけている」と飯島さん。

上田薬剤師会は1950年代、医薬品を共同で購入して会員の薬局に小分けにして配る手法を導入。後に備蓄センターもつくり、小規模の薬局でも約2千種類の薬を常備できるようになった。

医師が診療して処方箋を書き、薬剤師が薬を調剤するという「医薬分業」の普及率は現在でこそ全国で7割近いが、上田地域では半世紀前から分業が患者の間に根付いていたという。

地域内には複数の拠点病院があるが、病院前に立地し大量の処方箋をさばく「門前薬局」はない。数年前に大手薬局チェーンが進出したが、2年足らずで撤退。上田薬剤師会の飯島康典(いいじま・やすのり)会長は「患者はそれぞれ、かかりつけの薬局・薬剤師を持っているから、門前薬局は必要ない」と話す。

高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることを目指す「地域包括ケア」で、薬局の役割を重視する自治体も出てきた。

1人当たり医療費が全国で最も多い高知県では、健康予防の充実に向け、薬剤師が県の研修を受けた調剤薬局を「健康づくり支援薬局」と認定し、特定健診やがん検診の受診勧奨などに取り組んでもらう制度を始めた。

ほかの地域でも、薬の飲み残し対策(埼玉県)、禁煙サポート(愛媛県)、電子版「お薬手帳」の整備(栃木県)など、健康情報拠点としての薬局活用に知恵を絞る。

高知県の担当者は「患者にとって身近な薬局にして、将来は在宅での医療・介護の要となる拠点に育てたい」と話す。


介護保険の自己負担金が8月からあがるの知っていますか?

昨年の医療介護総合法案可決にて今年の8月から高所得の人など一部の人で介護保険の一部負担金が2割になります。現場で見て回っていると該当する人が少ないこともありますが、その制度変更、情報自体をあまり医療者、介護者が認識していないことがよくわかります。病院勤務のSWさん達もおそらくは知らないでしょうね。

こんなに関心が低くて大丈夫かなと少し心配になります。今後介護保険の制度や一部負担金、保険者など制度自体が根本的に変わっていくときに被保険者(つまり国民=患者さん)へのきちんとした情報提供がないと一番困るのは現場だとは思うのですが・・・・・・・。

今後も介護保険の利用者負担の上昇、給付範囲の制限がおこるのは必須と思います。その時にケアマネさんからの導入が難しくなるのは単価も高い訪問看護になるでしょうね。今後どうなっていくかよく制度自体をよくみていく必要があると思います。

昨年成立した医療介護総合法案を一緒に振り返りポイントをみてみましょう。今回の改定は3の②の件ですね。他の項目も順次施行されつつあります。興味のある方はより細かくしらべてみてください。自分も少しずつより細かい内容を確認したいと思っています。

 

 

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/186-06.pdf#search=’%E5%8C%BB%E7%99%82%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E7%B7%8F%E5%90%88%E6%B3%95%E6%A1%88++%E6%A6%82%E8%A6%81′ より

 

 

地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案の概要

趣旨
持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく措置として、効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するとともに、地域包括ケアシステムを構築することを通じ、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するため、医療法、介護保険法等の関係法律について所要の整備等を行う。

概要
1.新たな基金の創設と医療・介護の連携強化(地域介護施設整備促進法等関係)
①都道府県の事業計画に記載した医療・介護の事業(病床の機能分化・連携、在宅医療・介護の推進等)のため、
消費税増収分を活用した新たな基金を都道府県に設置
②医療と介護の連携を強化するため、厚生労働大臣が基本的な方針を策定

2.地域における効率的かつ効果的な医療提供体制の確保(医療法関係)
①医療機関が都道府県知事に病床の医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)等を報告し、都道府県は、それをもとに
地域医療構想(ビジョン)(地域の医療提供体制の将来のあるべき姿)を医療計画において策定
②医師確保支援を行う地域医療支援センターの機能を法律に位置付け

3.地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化(介護保険法関係)
①在宅医療・介護連携の推進などの地域支援事業の充実とあわせ、全国一律の予防給付(訪問介護・通所介護)を地域支援事業に
移行し、多様化 ※地域支援事業:介護保険財源で市町村が取り組む事業
②特別養護老人ホームについて、在宅での生活が困難な中重度の要介護者を支える機能に重点化
③低所得者の保険料軽減を拡充
④一定以上の所得のある利用者の自己負担を2割へ引上げ(ただし、月額上限あり)
⑤低所得の施設利用者の食費・居住費を補填する「補足給付」の要件に資産などを追加

4.その他
①診療の補助のうちの特定行為を明確化し、それを手順書により行う看護師の研修制度を新設
②医療事故に係る調査の仕組みを位置づけ
③医療法人社団と医療法人財団の合併、持分なし医療法人への移行促進策を措置
④介護人材確保対策の検討(介護福祉士の資格取得方法見直しの施行時期を27年度から28年度に延期)

施行期日 公布日。ただし、医療法関係は平成26年10月以降、介護保険法関係は平成27年4月以降など、順次施行


在宅医療におけるエビデンス②

訪問診療で患者さんみているとある程度の年齢となると気分障害はかなりの頻度でみられる印象があります。軽症の場合は当院で投薬することもありますが重度の場合は一度通院してもらってその後当院での継続診療となることとしています。いわゆる病診、もしくは診診連携ですね。

できれば非薬物療法やカウンセリングが主体となって改善すればいいのですがやはりそちらの治療に関しては在宅では難しい理由があります。ひとつは基本的に通院困難な人を対象としているため運動自体へのハードルがあること、もうひとつはカウンセリングもSWや診療所の看護師で行うことが診療報酬上評価されていないため継続的に行っていくことが困難なことでしょうか。

 

http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20150513_01_01.pdf より うつに対してのエビデンスです。

 

2.うつ病

【サマリー】
CQ1:在宅高齢者のうつの実情はどうなっているのか?
多くの要支援/要介護高齢者がうつ傾向を呈するが,その多くが未治療となっている(レベルⅣ).
CQ2:うつの存在は,在宅療養継続の障害となるか?
在宅療養におけるうつの存在は,施設入所に対する独立したリスク因子と考えられる(レベルⅣ).
CQ3:在宅高齢者のうつを診断,治療するメリットは?
高齢者にうつのスクリーニングを行い,必要患者に適切に治療・ケアの介入を行うことによって,自殺のリスクを低減させることが出来る可能性がある。(レベルⅣ).
CQ4:在宅高齢者のうつに対する多職種による包括的介入の効果は?
在宅訪問による精神科医・臨床心理士・ソーシャルワーカーによる包括的チーム医療介入によって,うつ高齢者のうつ,生活機能,QOL の改善を認める(レベルⅡ).
CQ5:在宅高齢者のうつを予防する方法は?
在宅高齢者において,社会的・心理的・理学的な非薬物療法が,うつ症状の発症に対して抑制的に作用する(レベルⅠ).

【本文】
在宅要支援・要介護認定高齢者の多くが「うつ」を発症する.高齢者うつのスクリーニングとしては,GDS(Geriatric Depression Scale)が用いられる.簡便な質問紙法の検査で,5 点以上でうつ傾向,10 点以上でうつ状態と判定される.

本邦の報告においても,要支援・要介護認定高齢者の 50~75%がうつ傾向を示している 1),2) .その中でも要介護の高齢者においては,73%がうつ状態を呈し,要支援者に比べて有意に高いうつ傾向を呈することが報告されている 1) .また,本邦において要介護認定者の在宅高齢者のうち,GDS において10 点以上である頻度が 23%であったという報告もあり,在宅高齢者において,うつ傾向,うつ状態は高頻度であると考えられている 2) .一方,うつを呈した在宅高齢者の多くが評価を受けておらず,未
治療のままとなっている 1),2) .中には,自殺につながる例も存在する.うつ病と認知症はしばしば同様の症状を呈するため混同されるが,うつ病は「仮面認知症」として治療可能な認知障害の原因ともなり得るため,その診断は高齢者の QOL・ADL 向上に重要であると考えられる.実際に、在宅高齢者におけるうつの存在は、施設入所の独立したリスク因子と報告されている 3) 。

そのため,在宅高齢者にうつのスクリーニングを行うことが必要であり,うつ傾向・うつ状態の早期発見に努める事が望まれる.早期発見によって,早い段階でうつから脱却することができるだけでなく,自殺の予防,仮面認知症の治療,二次的な身体合併症としての廃用症候群の予防につながり,高齢者の心身の健康を保つことができる 4)

うつ傾向・うつ状態と診断された際には,薬物療法と非薬物療法による早期の介入が望ましい.薬物療法に関しては,SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors; 選択的セロトニン再取り込み阻害薬), SNRI(Serotonin and Norepinephrine Reuptake Inhibitors; セロトニン・ノルアドレナ
リン再取り込み阻害薬), NaSSA(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant; ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)などの抗うつ薬が用いられる.一方で,高齢者においては,背景因子に社会的・心理的要因が潜在している事も多く,非薬物療法による治療効
果が期待される.医師・臨床心理士・ソーシャルワーカーなどがチームになって,患者のうつの器質的・心理的・社会的要因を包括的に評価し,カウンセリング・生活環境調整・介護サービス調整などの介入によって,在宅高齢者のうつ,生活機能,QOL の改善を認めることができる.

また,在宅高齢者は,その身体的・精神的・社会的な脆弱性より,うつの高リスクを有していると考えられる.そのような高齢者にとっては,うつの発症以前から,発現の危険性を評価し,発症予防を行うことが重要と考えられる.実際に,臨床心理士が定期的に訪問し,社会的・心理的・理学的な
評価を行い,必要に応じてケア介入を行う事により,将来的なうつの発症を予防する事が示されている 4)-6) .これらの方法は,効果的かつ,安全で,また費用対効果の高いうつ予防法と考えられ,今後積極的な運用が推奨される.


医療事故の原因は個人のせいか

昨年一時新聞などでもでていたと思いますがウログラフィン投与による死亡事故に対して司法から判決がでました。禁錮1年、執行猶予3年の量刑です。

この判決はやはり今年から開始となる医療事故調査制度に深く影響を与えるひとつのエポックメイキングな判決と考えます。医療事故の原因がシステムエラーと考えるのか、それとも個人の責任となるのか、本判例は今後の司法の流れを示唆するものと考えます。

自分としてはまた同時に、やはりこの事件は臨床研修医制度が始まってからの研修制度の不備も象徴しているのかと考えます。それまでは医局で責任をもって指導してもらっていたものが、市中病院で個人が研修していく、という形になるとその時の指導医がどこまで後輩医を指導していくのか、責任と範囲が不明確になっていると思います。これは指導医としては忙しい臨床の中ではそこまでやってられないよと考えても仕方がないことです。

自分としては研修制度自体の在り方を考える時期にきたことのではないか、この事件を位置づけています。多々書くことはありますが、医療事故の側面から事件を見つめたいい記事ありますので皆さんみてみてください。

 

MRIC医療ガバナンス学会より

http://medg.jp/mt/?p=5993

 

Vol.140 「医療従事者を守ろう」−ウログラフィン誤投与事件の責任は病院にあり−

「現場の医療を守る会」
代表世話人 坂根みち子

2015年7月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

2014年4月18日に国立国際医療研究センター病院で起きた、研修医によるウログラフィン誤投与事件は、7月14日に禁固1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されました。過去の同様の事件と比べても重い判決で、世界の医療安全のスタンダードから遥かに遅れ、個人の責任を追及した恥ずべき判決でした。医療安全のイロハを学ばない検察と裁判官の不勉強も然ることながら、自らのシステムエラーと警察への届け出内規をともに放置してきた病院の責任は重大です。
現場の医療を守る会世話人と有志では、下記嘆願書を提出していました。
現場の医療者を守るために更に支援していきたいと思います。
研修医をスケープゴードにしたこのような警察への届け出は二度と起きないようにしなければいけません。

嘆 願 書
平成27年7月7日
東京地方裁判所 刑事第4部 御中
「現場の医療を守る会」世話人10名、有志

国立国際医療研究センター病院「ウログラフィン」医療事故裁判での被告人医師に対する寛大な判決を求めます。

拝啓
貴職におかれましては、連日司法の重責を担われていますことに敬意を表します。今秋より、改正医療法に基づく「医療事故調査制度」が開始されます。現場の医療を守る会は、医療現場の声を医療事故調査制度に反映するために、情報を共有し議論を深めるための集まりで、医師や看護師を始めとする医療機関関係者、法律家、政治家といった多職種の個人264名(2015年7月1日現在)が参加しています。私は、その世話人10名と有志の代表です。

今回の国立国際医療研究センター病院の事例は、脊髄造影検査にウログラフィンが使用された結果、患者が死亡したという事例であり、不運にも被害者となられた当該患者とそのご遺族に対し哀悼の意を表します。

しかし、本件は、医療界及び司法界にとって青天の霹靂ではありません。本件で使用された造影剤「ウログラフィン」による死亡事故は、過去7件発生しており、内5件で当該医師に刑事罰が科されています。8件目である本件の発生を担当医師に対する刑事処罰によって防止できなかった以上、過去の再発防止策を再検討し、医療界及び司法界が一丸となって再発防止に取り組まねばなりません。

本公判では、検察官が被告人のヒューマンエラーとしての個人責任を深く追求し、禁錮1年を求刑しております。確かに被害者の直接的な死亡原因は被告人がウログラフィンを脊髄内に投与したことです。しかし、1999年に出版された「to err is human」以降、医療安全における原因分析・再発防止はヒューマンエラーの観点からシステムエラーの観点へと移行しています。すなわち、人の注意力は不確かなものであり、いくらペナルティーなどを背景に注意喚起をしても間違いはなくならないことから、「フールプルーフ」(利用者が誤った操作をしても危険に晒されることがないよう、設計の段階で安全対策を施しておくこと)や「フェイルセーフ」(故障や操作ミス、不具合などの障害が発生することを予め想定し、それが起きた際の被害を最小限にとどめる工夫をするという設計思想)といったシステムにより安全を図る必要があるのです。ミスをした人間を責め、ミスをした人間を医療界から排除し、あるいは医療界に対して注意喚起を促したところで、人は必ず間違えるため再発防止の効力はありません。一人の人間の単純なミスが患者の死や後遺症といった重大な結果に繋がらないシステムを分析・対策すべきなのです。

本件が発生した背景にはシステムエラーが存在し、そのことは証人尋問においても指摘されています。まず、医療が高度に専門化したことに伴い、現在、医療従事者が患者に使用する薬剤の適切性の担保は薬剤師が責任を持ってチェックをすることとなっています。しかしながら、国立国際医療研究センター病院では、脊髄造影検査で使用する造影剤は、検査室の廊下にある棚から、医師が直接造影剤を取って使用しており、薬剤師による調剤や監査が行われておりませんでした。それに加え、現場において他の医療者と造影剤をダブルチェックする体制もなく、造影剤選択ミスを防ぐシステムが全く構築されていませんでした。さらに脊髄造影検査数の減少に伴い、被告人だけではなく、研修医が造影剤に関する知識を得る機会に乏しい状況にもあるにもかかわらず、国際医療研究センター病院に存在する医薬品の安全使用のための手順書等には、脊髄造影検査に関する手技や使用する造影剤に関する記載はありませんでした。
本事例は、本公判証人尋問にて弁護人による「新しい体制が事故当時にあったならば、同様の事故は避けられたと思うか」との問いに、診療科長が「そう思う」と答えたことからも示されるように、通常、病院として備えておくべき安全管理体制がとられていないことが主たる要因であり、問題の本質は、システムエラーにあることは明白です。

このように本質的な問題は、システムエラーであるにもかかわらず、過去の同種の事件では、一般予防のためと称し、最終行為者である医師個人を処罰することで、対策をしたとしてきました。本件においても、検察官は「医師の勉強不足、基本的な心構えの欠如」「同病院の医薬品の安全管理体制が十分であったか否かなどについては、今回の事故では、医師としての基本的な注意義務を怠った事案であるため、重視すべきでない」と前近代的な発言をしています。システムエラーの視点を捨象し、盲目的に個人の責任追及を行うことは、再発防止に寄与するどころか、医療安全を後退させ、医療を萎縮させると言わざるを得ません。
過去7件同様の事件が起きているにも関わらず、本件が発生したことからも「一般予防の観点から刑事罰を科すべき」との検察官の認識が誤っていることは明らかであり、直近過失に関与した医師個人を刑事罰に処するのではなく、その背後にあるシステムに対応することこそが再発防止に有効な手段なのです。

また、刑事司法による医師個人への責任追及は医療現場に多大なる悪影響を及ぼし、国民の生命・身体に著しい不利益をもたらします。その典型例が福島大野病院事件です。通常の医療を行ったにも関わらず、産科医が逮捕・勾留されたことにより、我が国の産科医療は萎縮、崩壊し、産科医数、産科医療機関数が激減しました。それにより、高度の医療を要する妊婦が適時に治療が受けられない事案が発生する等、出産リスクが上昇し、今もなお、国民が不利益を受けています。
福島大野病院事件においても、医療体制や医療安全体制の不備というシステムエラーによって生じた患者の死という結果を医師個人に帰責しようとしました。本件被告人も福島大野病院事件の被告人となった医師も、共に患者を救おうと日々医療現場に従事していた善良な医師です。システムエラーの観点からの原因分析・再発防止が行われず、最終行為者である医師のみの責任として非難するといった前近代的な対応のみで、現在の医療安全工学に則った事故調査を行わなければ、医療現場が危険なままとなるばかりでなく、医療が萎縮、崩壊することとなります。

医療界が求めているのは、未来のある若者をスケープゴートにして医療安全に何らの寄与もしない事案処理ではなく、このような残念な事案が二度と発生しないよう、科学的に分析し、再発防止をはかる医療事故調査制度です。そして、このような医療安全のための事故調査制度には、非懲罰性、秘匿性が担保されなければならないとWHOドラフトガイドラインにも示されています。個別の事案に対し、逐一、刑事司法が介入することは、一般予防どころか、かえって医療の安全を阻害するのです。

医療現場は、一刻を争う患者に対して、圧倒的に不足する人的・物的資源の中、現場医療従事者が国民の健康のためと、労働基準法度外視の長時間勤務によって維持されています。このような悪条件においては、いつでも生じうるヒューマンエラーが重大な結果に直結しないシステムを構築することが何よりも肝要です。医療界は、医療安全を積み重ね、同種の事故が発生しないよう努めていきたいと切に願っています。
国民の健康を守るため、医療をより安全にするためにも、被告人に対し、寛大な判決をお願いいたします。

「現場の医療を守る会」
代表世話人   坂根 みち子  坂根Mクリニック院長
世話人       井上 清成    井上法律事務所 弁護士
於曽能 正博  おその整形外科院長
小田原 良治  日本医療法人協会常務理事
佐藤 一樹    いつき会ハートクリニック院長
中島 恒夫    全国医師連盟理事
満岡 渉      諫早医師会副会長
岡崎 幸治    日本海総合病院研修医
森 亘平   浜松医科大学 医学部医学科 3年生
有志    伊藤 雅史  日本医療法人協会 常務理事
大磯義一郎  浜松医科大学医学部法学教授
染川 真二  弁護士法人染川法律事務所 弁護士
田邉 昇   中村・平井・田邉法律事務所 弁護士
山崎 祥光  井上法律事務所 弁護士

 


在宅医療におけるエビデンス①

在宅医療におけるエビデンス発表されていたのを寡聞にしてしりませんでした。しばらく自分の学習がてらみていきたいと思います。

皆さんも興味があればPDFでみてみてください。

日本老年医学会 「在宅医療に関するエビデンス:系統的レビュー」作成について

http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/20150513_01.html から

1.認知症
【サマリー】
CQ1:認知症の早期診断に高齢者総合機能評価(CGA)は有効か?
在宅での高齢者総合機能評価(CGA)は認知症の早期診断に有効である(レベルⅡ).
また,認知症患者の包括的医療の実践に有効と考えられる(レベルⅣb).
CQ2:認知症患者に在宅医療を行うメリットは何か?
在宅医療の方が一般入院に比べ,認知症の行動障害は尐なく,抗精神病薬の使用も少ない(レベルⅡ).
CQ3:認知症高齢者の行動障害に投薬は有効か?
認知症高齢者の行動障害に対して,コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチン,抗精神病薬といった投薬は介護負担および介護時間を減らすが,副作用にも注意が必要である(レベルⅠ).
CQ4:アルツハイマー病に運動療法はどのような効果があるか?
在宅療養中のアルツハイマー病患者において,運動療法は転倒を少なくし,ケアサービスの費用を減らす効果がある(レベルⅡ).
CQ5:認知症患者の介護者に対する介入はどのような効果があるか?
認知症患者の家族介護者に対するサポート介入は認知症患者のQOL を改善する(レベルⅠ).
また,施設入所を減らし,介護者のうつ症状を軽減する(レベルⅡ).
介護者に対する教育は,認知機能や認知症患者の問題行動に良い効果をもたらす(レベルⅡ).
CQ6:施設サービスの利用にはどのようなメリットがあるか?
デイサービス,デイケア,ショートステイは介護負担を減らす(レベルⅢ).
また,認知症患者の生活状態や認知機能の低下を抑え,周辺症状,向精神病薬の使用も減らす可能性がある(レベルⅣb)

【本文】
認知症は,年齢と共に有病率が高くなり,日本全国に462 万人存在すると推定されており,その予備軍と考えられる軽度認知障害の患者は400 万人と推定されている.そして,その多くは自宅で過ごされており,患者本人のみでなく,介護者への負担も考えると,かなり大きな問題となっている.そこで,認知症に対して,早期発見,早期診断がまず重要である.同居者がおらずに一人暮らしのケースや,同居人がいる場合でも,認知機能低下が尐しずつ進行するため,認知症に気づかれないでいるケースも多い.ドイツで行われたRCT(Randomized ControlledTrial)では,自宅住まいの高齢者に高齢者総合機能評価(CGA),およびその結果に伴う管理を行った
場合,認知症の早期診断がつきやすくなったことが報告されており1),本人,家族の話だけでなく,MMSE,HDS-R,ADL などのスケールを用いて評価を行うことが早期発見,早期診断に重要と考えられる.
また,施設入所中の高齢認知症女性患者を調査した結果,MMSE がADL だけでなく,老年症候群数や貧血,栄養状態などとも関連しており,高齢者総合機能評価(CGA)が認知症患者の包括的医療の実践に有効とする論文も報告されている2).
次に,認知症患者において問題となってくるのは,興奮,妄想,徘徊などといった周辺症状(BPSD)である.こういった症状は,環境やストレス,気分の変化に伴って出現することが多い.認知症が背景にあり,急性疾患(感染症,脳血管障害,低栄養など)のため,救急部に来院した患者を対象としたRCT では,在宅医療にした群と入院治療にした群の間で死亡率に差はなく,在宅医療にした群では,退院の時に睡眠障害,攻撃性,摂食障害といった行動障害は有意に尐なく(P<0.001),抗精神病薬の使用も有意に尐なかった(P<0.001)と報告されている3).しかしながら,この在宅医療は,入院医療と同じくらいの医療レベルで行っており,注意が必要である.ただし,環境変化により周辺症状が出現することは多いため,可能な限り在宅医療で診ていく方が良いことには変わりないと思われる.また,認知症患者の行動異常に対し,コリンエステラーゼ阻害薬,抗精神病薬といった投薬が介護負担をわずかながら有意に軽減し(抗精神薬では平均差:0.27,95% CI:0.13–0.41,コリンエステラーゼ阻害薬では平均差:0.23 ,95% CI:0.08–0.33),介護時間を減らした(平均差:41.65 分/日,95% CI:25.29–58.02),との報告がある4).ただし,抗精神病薬の論文は1 報しか含んでおらず,副作用にも注意が必要である.同様にメマンチンについても,メタ解析があり,神経精神症状を評価す
るNPI(the Neuropsychiatric Inventory)スコアが1.99(P=0.041)改善したと報告されている5).認知症の非薬物療法としては,心理学的なもの,認知訓練的なもの,運動,音楽など芸術的なものに大別できるが,認知症自体に効果があるというエビデンスはまだ乏しい.ただし,グループ運動群,自宅運動群,通常地域ケア群に分けて12 ヵ月経過を追ったRCT では,運動機能を示すFIM(FunctionalIndependence Measure)が,グループ運動群-7.1 (95% CI:-3.7 to -10.5), 自宅運動群-10.3 (95% CI:-6.7 to -13.9),通常地域ケア群-14.4 (95% CI:-10.9 to -18.0)であり,全ての群で低下しているものの,介入群では低下が尐なかった.また,介入群の方が転倒も尐なかった(P=0.005).社会的および健康的ケアサービスの費用は,通常地域ケア群が最も高く,それと比べると自宅運動群は有意に尐なかった(P=0.03)6).以上から,予後を考えた場合に安全な範囲での運動療法は勧められると考えられる.
また,認知症患者だけでなく,介護者も含めて治療を考える必要がある.実際,ケアマネージャーが定期的に訪問し,家族の健康状態を把握し,ケアについての教育や精神的サポートをした群では,通常ケア群に比べ認知機能を示すMMSE は変化しなかったが,介護負担を示すFCBI(the FamilyCaregiving Burden Inventory)(P<0.001),QOL を示すWHOQOL-BRFF(the World Health OrganisationQuality of Life Measure Brief Version)(P<0.001),NPI(P<0.01)が改善し,施設入所数(P<0.01),施設入所期間(P<0.001),サービス利用を示すFSSI(the Family Support Services Index)(P<0.01)の減尐を認めたと報告されている7).その他にも,ストレス刺激閾値漸減モデルに基づく介護の精神教育を行った群では,認知機能や認知症患者の問題行動を示すMBPC(the Memory and BehavioralProblems Checklist 1989R)が改善した(P<0.01)と報告されている8).デイサービス,デイケア,ショートステイといった施設利用は介護負担を減らす9).また,デイケア使用群と非使用の対照群を9 ヵ月フォローした結果,認知症患者の生活状態や認知機能の低下を抑えた(P<0.01)との報告がある10).その他,デイサービス,デイケア利用により,認知症患者の周辺症状を減らし,向精神病薬の使用を減らしたといった報告もある11),12)が,ショートステイが問題行動を改善するかどうかについては,報告によって差があり,どちらとも言えない13).


在宅医療における特定行為について

在宅医療における訪問看護師の特定行為ですが基本的には内容によっては認めるべき必要はある程度はあるかと思っています。ただ判断する行為には責任が伴うのでどこまで看護師個人の責任となるのか、これから社会的にもよく議論していかなければいけないと思います。褥瘡の処置でも看護師がどこまでやっていいのか、点滴はどこまでの判断で行っていいのかなど、判断を必要とする行為はたくさんあります。これから患者さんの医療への意識も高まっているなかで、特定行為を含めそのような判断を伴う行為を本当に看護師さんがしたいのか、できるのかどうなっていくのでしょうか、皆さんはどう考えますか。

これまで在宅での看護師さんをみていると病棟での経験が十分にあって、かつ訪問看護歴がある程度長い人は責任をもった判断をある程度できると思いますが、それ以外の看護師さんにとってはかなりハードルが高いのではないかなぁと考えます。

以下に看護協会機関誌からの記事を抜粋します。専門性を発揮し国民のニーズに答える!とありますが、まずは内容を見てみましょう。

 

http://asmss.jp/2015/07kango.pdf より

在宅医療の主役は訪問看護師
特定行為を通して地域包括ケアシステムの核に
医療法人アスムス 理事長 太田秀樹
在宅医である太田秀樹氏は、 専門職が専門性を高めるだけてなく、 多機能性が求められるのは時代の必然と指摘。在宅医療の主役である訪問看護師には、特定行為を行うことを通して地域包括ケアシステムの核になってほしいと訴えます。
在宅医療、 介護への期待の高まり
世界一の規模とスピー ドで訪れた人口構造の変化によって、 地域医療の姿は大き く変わらざる を得ない状況と なっ て います。 医療技術が進歩して、 従来であれば救うことが困難だった命も救命可能になりましたが、 一方できまざまな障害とともに暮らさねばならない人たちを増加させています。 さらに、 長寿化によって、 避けがたい口コモティ ブ症候群、 サルコペニア、 認知症など、 いわゆる 「老年症候群」と暮らず高齢者はおびただしい数になり ます。根治を期待できない疾病も含めて、 高齢者たちの健康課題をいったい誰が、 どこで解決してゆくのでしょうか。 もはや入院や外来といった従来のヘルスケアシステムの中で対応することが困難なのは誰の目にも明らかです。 そこで、 地域居住の継続をめざした 「地域包括ケアシステム」 の構築が叫ばれ、 とり わけ在宅医療や在宅介護への期待はいっそうの高まりをみせています。
在宅医療の主役は訪問看護師
本来、 医療が介入した妥当性の尺度は、 客観的なデータです。 たとえば、 放射線療法でがんのサイズが小さくなった、 化学療法で腫瘍マーカー値が低下したというように、 数字で示すことが可能です。 ところが、 在宅医療においては、 QOL が物差しとなることが多く、 仮にがんが大きくなったとしても、 その人らしい尊厳ある生活を支えるという役割を担っています。 これが、 キュアからケアへ、 治し支える医臨といわれるゆえんなのです。さらに、 在宅での療養生活を継続させてゆく上での課題は、 まず療養環境を整えることから始まり ます。 そして、 食事や排泄、 入浴など当たり前の生活を上位概念と した上での機動力ある医療の提供が求められます。 医療が支配する病棟での入院生活とは全く 異質です。 したがっ て、 看護師たちが持つ本来の職能を十二分に発揮できるのが在宅医療の領域であることに疑問の余地はありません。long term care の現ま湯では、 看護師たちこそが主役なのです。
訪問看護における知識と技術
多職種で支える在宅医療の歴史はさほど長くありません。 2000年に導入された介護保険制度に牽引されて市民権を得たこともあって、 在宅医療や訪問看護に対して社会全体が正しい認識を共有するには、 時間が必要でした。 訪問看護師が自宅で点滴を行うことですら、 合法なのか、 はっき り とした解釈は示されていませんでした。 介護職の身体介護と訪問看護との役割の違いを明らかにすることが難しい状況もあったのです。補液については、 2002年 (平成ー4年9月 30日付) 医政局通知 (医政発第 0930002号) によって、はじめて法に抵触しないことが示され、 在宅で看護師がよ り看護師らしい仕事ができる環境が整いつつあるといえます。在宅で補液ができるようになると、 脱水状態に陥りやすい虚弱な要介護高齢者たちがよ り安定した状態で長く在宅医療を継続することが可能となり ました。 ただ、 在宅医療においては、 静脈ライ ンを確保するという技術だけでなく、 同時に脱水状態にあるという判断も求められるのです。 さ らに、現場では、看護師が1人で行わねばならないという病棟とは全く異なる環境にあり ます。 何らかの不測の事態に遭遇した場合には、 同僚の看護師に応援を求めたり、時には医師に頼ったりすることが難しいのです。そして、 虚弱な要介護状態の高齢者たちの問題は、 脱水だけではあり ません。 サルコペニアに象徴される低栄養、 長期臥床による廃用ゃ褥瘡のケアなど、 医師よりもむしろ看護師がより主体的に、 積極的にかかわらねばならない問題をたく さん抱えています。こういった背景の中、 特定行為に係る看護師の研修制度の施行によ り、 看護師たちが実施できる医療的行為を特定行為と認定し、 しっかり とした研修を受けることで、 看護師たち自らの判断で、 一歩踏み込んでかかわることができる全く新しい時代が幕をあけました。 在宅医療の領域においては願ってもない朗報だと考えています。
タスクシフティングは時代の必然
1960年代には、 医療施設を訪れて血圧を測定するのが当たり前でした。 しかし、 今、 血圧は誰でも自宅で測定することができます。 聴診器やマンシェットを利用して血圧測定するという技術がなく とも、わずか数千円の機械が簡単に測定してくれます。
1980年代には、 自宅で人工呼吸器を装着して生活して いる人はいませんでした。 しかし、 人工呼吸器は小型化し、 メ ンテナンスフリーとなり、 家電製品のように安全に扱えます。 在宅で人工呼吸器が使えるのです。 1990年代になる と、 胃瘻から食事をする新
しい栄養供給の手段が開発されま した。 イ ンスリ ン注射を自分の手で行えるなど、 誰も想像できなかったことでしょう。 血糖を測定することも、 指先でサチュレーショ ンをモニターし、 動脈酸素分圧を推測することも、 これらを医療職の手を借りずに、 専門的医学知識の乏しい患者が自ら行うことができる時代です。 確立された技術は、 さらに改良され、 最終的には特殊な技能を持たなく とも安全に扱えるような道具となります。介護職が痰吸引などの医療的行為を行えるように法制度が改定されたのは記憶に新しいことでしょう。 その際に安全性が担保できるか不安だと看護師からの懸念の声を聞きました。 今回は看護師たちに任せるのは心配だと一部の医師たちから反対意見も出ています。 しかし、 法律が整備された時代と社会が大き く変わっていることを理解しなくてはなり ません。 科学技術の進歩は、 しばしば技術革命とまで表現されるように医療のあり方そのものを大き く変容させました”。専門職の役割が変わり、 守備範囲が広がるのは当然です。 さらに、 加速度を増して進行する超高齢社会においては、 専門職がより新しい技術を身に着け、 より専門性を高めるだけでなく、多機能性が求められるのは時代の必然です。
特定行為の課題
今回、 慎重な審議の末、 38の行為が特定行為と認定されました。これらはあく までも「診療の補助」としての位置づけですが、 その内容は極めて多岐にわたります。たとえば、 人工呼吸器の条件の変更は、 技術的な課題というよりも、 判断が求められます。 病態を適切に評価する能力といってもよいかも しれません。一方で動脈穿刺などは、 解剖学的な知識は必要ですが、 穿刺技神示を磨く必要があり ます。それぞれの行為には、 それが求められるに至った事情や背景があり、 したがって研修の方法も、 研修の場も違ってきます。 したがって、 訪問看護の場面で求められる特定行為について、 はたして深い議論がなされた結果なのか、 疑問はぬぐいきれません。大部分の行為が、 intensive care の病棟を想定して提案されたように感じます。 褥瘡のケアでも、 各種カテーテルや ドレーンの管理においても、 在宅で求められる技能の水準が、 病棟のそれよ り高いと考えています。在宅では、 医師のいない環境で、 看護師がー人で判断し、 ー人で実施するという特殊性だけでなく、看護師がその場を離れた後の管理を、 患者、 家族、あるいはホームケアに携わる仲間たちに委ねること
になり ます。 訪れた理学療法士からの 「褥瘡に当てられたガーゼから血液のに じみが多いですよ」、 介護職からの 「尿の量が少ないだけでなく、 浮遊物が多い気がしますよ」 などの情報がとても貴重なものとなり ます。 そして、 家族には、 たとえば、 予想以上の出血があったときは、 慌てずに、 清潔なタオルで局所を圧迫して、 「医者が到着するまで、 待っていてく ださい」 などと指導することも必要になります。病棟では処置に患者や家族の手を借りることは考えられませんが、 在宅では違います。 家族や患者を含めたホームケアチーム全員が特定行為への理解をもって協働する姿勢がより強く求められるのです。
訪問看護師は地域包括ケアシステムの核に
筆者が在宅医療を始めたのは、 まだ高齢社会を迎えていない1992年です。 その時代から訪問看護を基軸と したグループ診療による 24時間体制で看取りまで支えてきました。 終末期まで責任をもってケアしてゆくために、 看護師たちの力は大変大き く、今回、 特定行為として議論された医療的行為はすでに看護師たちの手によって実施せねばならなかった状況もあり ました。よ り質の高い在宅医療の実践に、看護師たちの職能を生かして、 自ら判断して、 自らで対処していく ことが、当然求められていたのです。手順書作成のモデル事業にも参加しま したが、 まさに私たちの実践を普遍化する作業だったように感じます。在宅療養中の患者 -家族にとって信頼される訪問
看護師は、 何でも相談できる大変身近な存在です。医師には遠慮があっても、 看護師の敷居は低いはずです。 また、 介護職たちにとって医療とのリエゾンです。 だから特定行為を通し、 より踏み込んだナーシングを実践して、 地域包括ケアシステムの核となり、 さらにエンパワーメントしてほしいと願っています。

在宅医は本当に不足しているのか

どの地域でも医療業界は医師不足が続いているといわれて久しいですね。ましてや札幌や北海道ならなおさらだと思います。

地域医療や在宅での緩和ケアを担当する在宅医の実情はどうなのでしょうか。もちろんその数は足りていないです。でもそのことは皆さんは知っているのでしょうか。知らないと思います。現実はどうか簡単に札幌の実情を述べてみたいと思います。

まずは在宅医療の定義を考えましょう。

wikipediaによると在宅医療の定義とは

狭義には緩和医療などの医療者が通院困難な患者の自宅もしくは老人施設などを訪問して医療を行うことである。 広義には、「病院外」で行うすべての医療のことである。例えば処方してもらった薬を自宅で飲んだり、注射薬を使用しつつ職場に通ったりするなど、通常社会生活を行いながら、自宅で行う医療、継続する医療はすべて在宅医療といえる。 在宅患者は自立度の高い人から低い人まで様々である。

とあります。

在宅医とはこのような医療を提供する医師と定義できると思います。おおよそ訪問診療医と同じと考えてもらっても良いかと思います。

札幌における在宅医、訪問診療医はどの程度いるのでしょうか。皆さん知っていますか?

医師会における訪問診療主治医を在宅療養情報マップから見てみたいと思います。https://www.spmed.jp/z/search/role/1

訪問診療主治医の名前がざっとみるだけで113件ヒットしています。この中で本当に地域包括ケアのために24時間365日体制で訪問診療主治医として活動している医師がどの程度いるのでしょうか。おそらくはその10分の1程度でしょうか・・・・・

でもしかたがない面がありますね。1人の開業医で在宅医療に関わるそのすべてをカバーする、しかも休みなく、というのは現状ではかなり無理があります。今後どのような地域包括ケアシステムを既存の開業医の先生の力をかりつつ構築するのか、今こそ考えなければいけないですね。

これから本当に在宅医が不足してくると、病院から放り出される在宅医療難民が札幌でもでてくることは必至と思います。いわんや他の地域はどうなるのでしょうか。また既存の在宅医に過度の負担がかかることにより診療の質の低下は避けられなくなると思います。このままではかなりあぶないかなと思っていますが、解決策はあるでしょうか。

ひとまず当院にできることは患者さんを一人ずつしっかりとみていくこと、あとは地域包括ケアに興味のある医師にきてもらい、在宅医療や緩和ケアで必要な知識を共有することだと思います。ゆっくり頑張っていきますね。興味のある医療者の方どんどんご連絡ください。一緒にがんばりましょう。

 

 

 


地域医療連携推進法人について

最近のトピックスでしょうか。地域医療推進法人についてどう考えるか面白い記事がありました。

北海道、札幌で同法人を運営することになった場合、実際的にはできるところはかなりしぼられると思われます。またこのような統制医療が現状に即した形になるのでしょうか。かなり不安がありますが・・・・・。まずは記事をみてみてください。非常に有意義な記事だと思います。

 

地域医療連携推進法人を構想するセンス

小松秀樹

2015年7月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

http://medg.jp/mt/?p=5985 より

◆ホールディングカンパニー
ホールディングカンパニー型法人制度について、2013年11月から2015年2月まで厚生労働省の「医療法人の事業展開に関する検討会」の中で議論されてきた。ホールディングカンパニー型法人という言葉は、松山幸弘氏が、米国の医療経営者から世界第2位の医療市場を持ちながら世界ブランドの医療事業体が出現しないのはなぜかと繰り返し聞かれたことをきっかけに、米国のメイヨークリニックやUPMC(ピッツバーグ大学医療センター)など非営利型IHN(統合医療ネットワーク)を念頭に提唱したものである(1)。UPMCは医療・介護サービス、医療保険サービスを提供するのみならず、ピッツバーグ大学、カーネギーメロン大学と医学教育、最先端の研究開発で協力している。年間収益1兆円の巨大企業体であり、世界に医療システム、研修システムを輸出している。日本の医療機関や大学が対等に渡り合える相手ではない。

 

本来、ホールディングカンパニー型法人は連携ではなく事業統合のための仕組みである。厚労省はホールディングカンパニー型法人制度からIHN色を排除して、地域包括ケアのための連携を目的とする任意参加の制度と位置付けた。狭い地域での連携を目的とするが、日本全体に広めようとする意図が感じられる。厚労省は以下に示すように、強制力の拡大を望み続けてきた。このため、任意参加の連携のための制度としては、強制力が強くなりすぎた。

◆社会保障制度改革国民会議報告書
日本の行政主導の会議は、事務局が大きな権限を有しており、その意向が強く反映される。以下の文章は、13年8月の社会保障制度改革国民会議報告書について、委員の意見のまとめというより、厚労省自身が提案する大方針であるという前提で書いている。
同報告書の「医療・介護分野の改革」の冒頭には、「社会システムには慣性の力が働く。日本の医療システムも例外ではなく、四半世紀以上も改革が求められているにもかかわらず、20世紀半ば過ぎに完成した医療システムが、日本ではなお支配的なままである」と現状に問題があるとする認識が示されている。その上で、「救命・延命、治癒、社会復帰」を目指す医療から、「病気と共存しながらQOL(Quality of Life)の維持・向上を目指す医療」に変わらざるを得ないとして、地域包括ケアの推進を強く訴えている。ここまでについて異論はない。

この後が問題である(2、3)。報告書は、日本では、「医療等を民間資本で経営するという形(私的所有)で整備されてきた」ため「公的セクターが相手であれば、政府が強制力をもって改革」できることが、「日本ではなかなかできなかった」とする。しかし、行政はサービスの提供を不得意とする。行政が直接サービスを提供すると、サービス向上が望めないばかりか、費用がかさむ。
千葉県の12年度病院事業会計の決算見込みによると、病院事業全体で、収益440億円、費用427億円で13億円の黒字だとしている。しかし、収益の内106億円は負担金・交付金すなわち税金であり、民間と同じ言語を使うとすれば、93億円の赤字となる。民間病院なら1年持たずに倒産する。

◆医療計画の失敗
報告書は、医療計画について、「医療計画も病床過剰地域での病床の増加を抑えることはできても適正数まで減らすことはできない状況が続いている」と率直に失敗を認めている。しかし、医療計画制度の失敗はそれにとどまらない(4、5、6)。基準病床数の算定で用いられる二つの係数、一般病床の平均在院日数と性別及び年齢階級別退院率について、地方ブロックごとに異なる数字を用いてきたため、日本の医療の東西格差を固定させた。一県一医大政策、看護師養成が人口の変化を無視していたこととあいまって、大都市、特に首都圏周辺で人材不足による医療・介護の荒廃を招いた(7、8)。医療計画が失敗したのは、強制力がなかったからではなく、実情に基づいて方針を適切に変更することなく、無理な規範を掲げて、強制力を行使し続けたからである。今後、首都圏では高齢者が急増するので荒廃はさらに進む。

◆強制の下で人は能力を発揮できるのか
報告書は、「強制力」がなかったことを失敗の原因としている。このため、都道府県の権限を強め、「病床機能報告制度」と「地域医療ビジョン」によって、病床機能ごとの医療の必要量を実質的に行政が決めること、さらに、消費税増収分を活用した基金を創設することを提唱した。基金については、消費税増税分が診療報酬に十分に反映されていないことを合わせると、病院の収益の一部を取り上げ、それを、支配の道具に使う制度とも解釈できる。(9、10、11)。医療機関の利益率は極めてわずかである。わずかな利益をどう上手に再投資に使うのかが、経営判断になる。基金は、再投資の判断を経営者から行政が奪い取るものである。さらに、地域の連携を推進するために、「ホールディングカンパニーの枠組みのような法人間の合併や権利の移転等を速やかに行うことのできる道を開くための制度改正」を提唱した。

厚労省は着々と作業を進めている。病床機能報告制度、基金はすでに制度化された。現在、「ホールディングカンパニー」を、地域医療連携推進法人制度として実現すべく、法制化を準備しているhttp://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000072752.pdf。厚労省によれば、地域医療連携推進法人は、地域の医療法人その他の非営利法人を参加法人とし、病床再編、患者情報の一元化、キャリアパスの構築、医師・看護師等の共同研修、医療機器の共同利用、病院開設、資金貸付等を業務とする。問題は、外部からの影響力の強さである。すなわち、都道府県知事の許可がなければ、理事長職を決められない。都道府県知事は、都道府県医療審議会の意見に沿って、認可・監督を行う。また、地域関係者による地域医療連携推進協議会(仮称)を創設して、その意見を尊重させるとともに、地域関係者を理事に加えて、地域の意見を反映させる。とりわけ問題なのは、地域医療連携推進法人が、参加法人の事業計画等の重要事項について、意見を聴取し、指導または承認を行えるようになることである。

厚労省は、地域のミクロの需要まで推計し、個別法人に対する強制力を強めることでサービス提供体制を確立しようとしている。しかし、需要は、提供されたサービスの質によって大きく変化するので、前もって予測できない。強制力には利権が伴う。放置すれば、経営を知らない天下り役員がはびこりかねない。強制力が大きくなればなるほど、現場での創意工夫が抑圧される。修正が効きにくくなり、失敗の絶対値が大きくなる。
この制度は、個別企業の経営を含めてあらゆる社会活動を共産党が指導した旧共産圏を彷彿とさせる。強引に進めると、憲法で保障された法人の権利とぶつかる。参加法人に独立自尊の気概があれば、軋轢が高まり、法廷で争われる事態も生じうる。参加法人に気概がなければ、経営に対する責任を放棄し、官しか見なくなる。強制力の下では人間は能力を十全に発揮できない。地域包括ケアを発展させるのに、行政の強制力とサービス提供主体の知恵・活力のいずれが有用なのか、社会保障制度改革国民会議報告書には検討した形跡がない。

◆階層構造かネットワーク構造か
筆者の意見は、いわゆる「大きな政府、小さな政府」の枠組みに沿ったものではない。また、厚労省が、ルールを作って医療を管理するのがいけないと主張しているのでもない。筆者が言いたいのは、国民負担率の多寡にかかわらず、行政に対し、個別事項に関わる裁量幅の大きい権限を与えるのが危険だということである。
たしかに、法システムとしての政治・行政は、社会問題解決の最も知られた手段である。法に基づく権力で社会全体を変えようするが、法システムは、権力の暴走を防ぐため、政治・行政にさまざまな制約を課している。
厚労省は、しばしば、PDCA (計画-実行-評価-改善) サイクルを動かすことで、改善努力を重ねることを推奨している。しかし、厚労省自身、PDCAサイクルを繰り返して、改善を素早く行うことに成功したためしがない。これは無理からぬことで、厚労省、都道府県を含めて、行政は、法に基づいて行動しなければならないからである。しかも、無謬を前提とする。規範化されていない認識に基づいて、安易に改善を図ることは許されていない。
厚労省の硬直性を理解するのに、トイブナーの階層型社会についての記述(『システム複合時代の法』信山社)が有用である。

「複雑な組織は、決定過程をヒエラルキー化することを通じて冗長性を十分に作りだし―つまり同じ情報を十分に反復させ―、そのことによって決定の不確実性を縮減しようとした」
「組織の頂点への環境コンタクトの集中によって、環境に関する情報が、組織の存続を危うくするほどに欠乏することになった」
「ラドゥーア氏は、組織社会において公法が鈍重な大組織のヒエラルキー的な調整交渉メカニズムを下支えしそれを変化から規範的に防衛したときに示した硬直性を、強烈に批判した」

地域包括ケアを向上させるためには、地域の複数のサービス提供主体が、地域固有の状況を踏まえた上で連携しなければならない。国は、国を頂点とするピラミッド型の階層構造によって、国→都道府県→市町村→サービス提供主体へと同じ情報を流すことで、医療、介護、福祉サービスの統合を図る。これに強制力が伴うと、各サービス主体は行政しか見なくなり、地域の個別事情を踏まえた横方向の連携が阻害される。地域包括ケアが目指すべきは、階層構造ではなく、ネットワーク構造による多元的アプローチである(12)。
政治・行政による社会問題の解決は、内在する硬直性のために、十分な成果を期待できない。近年、これを補完する形で、NPOなどによる社会問題の非権力的枠組みでの解決が試みられるようになった。
地域医療連携推進法人が、行政の下請け機関である限り、サービスの向上は難しい。地域包括ケアをより良いものにしていくには、サービス提供主体が互いを尊重しつつ情報を交換し、行政を介することなく直接連携する必要がある。重い組織は必ずしも必要ない。経営統合するのでなければ、たいていの連携は単なるプラットフォームでも可能である。以下、連携プラットフォーム私案を示した。

◆連携プラットフォーム私案
1.目的
参加法人が、連携活動を行うことによって、地域のケアを必要とする人たち対する医療、介護、福祉サービスを向上させることを目的とする。
2.参加法人
参加法人は、地域の医療、介護、福祉サービスを提供している非営利、あるいは営利法人で、参加を希望するものとする。
3.地域の範囲
医療は必ずしも二次医療圏で完結していない。例えば、亀田総合病院の入院患者の60%弱は二次医療圏外の患者である。地域の範囲は、連携の内容によって異なる。範囲を固定せず、問題によって広くあるいは狭くする。
4.連携プラットフォーム
単なるプラットフォームであり、複数の参加法人の合意で成立する。同一地域に複数のプラットフォームが存在してもよい。
5.連携は各参加法人の自由意思に基づく
参加法人が、地域のケア向上に意義があり自らのメリットにもなると判断した上で、連携を成功させるために自発的に努力するのでなければ、連携によって成果を上げることはできない。
6.参加法人の独立性
参加法人は法的主体であり、権利義務を有する。最高裁判所は、八幡製鉄事件において、憲法第3章の保障する権利は性質上可能な限り内国の法人に適用されると判断した。公共の福祉に反しない限り、参加法人の権利を侵害することは憲法上許されることではない。
7.連携活動
知識の収集、議論による意見の集約、意見の公表、提案、異議申し立て、参加法人同士の合意、契約あるいは協定がありうる。個々の連携活動に、すべての参加法人が加わる必要はない。
8.具体的課題
(1)外部への情報の発信
(2)規格の共有 最初に取り組むべきは、地域の医療、介護、福祉施設間の情報のやり取りの規格化である。
(3)機器の共同利用
(4)ソフトの共同利用
(5)職員の出向・派遣
(6)地域での医療の役割分担
(7)職員の教育・訓練
(8)職員のキャリア支援、転職支援
(9)病院同士が許可病床のやり取りを直接行うこと
9.チェック・アンド・バランス
現場を知る活動主体による行政に対するチェックは、社会の発展に不可欠である。
例えば、米国を代表する環境保護NPOであるエンバイロンメンタル・ディフェンスは、専門家集団として、現在は各州の環境政策策定に関与して大きな成果を上げているが、かつては、各州の環境政策を批判し、訴訟作戦を展開していた。
10.プラットフォームは連携活動の当事者ではない
連携プラットフォームは、連携の場でしかない。連携活動の責任は、当該連携活動に参加した法人が負う。原則として、契約や協定などの違反は、参加法人間の紛争として扱う。
行政を含めて外部との交渉が必要な場合は、個々の連携活動ごとに当事者が担当する。
11.合理性のない非法的強制力を排する
契約や協定による行動の制限については、医療、介護、福祉サービスの向上に資するのに合理的であることを要する。連携プラットフォームにおける、合意、契約、協定は強者が弱者を支配するもの、あるいは、多数が少数の権利を奪うものであってはならない。
12.連携活動の公開
複数の参加法人が連携活動として合意し、報告・公開すれば連携活動として認知される。必ずしも、全参加法人が合意する必要はない。
13.信頼性の担保としての規格
筆者らは、亀田総合病院地域医療学講座において、地域の契約や協定が参照するための地域包括ケアの規格の作成を計画している(12)。これは、改変可能なものとしてCCライセンスhttp://creativecommons.jp/licenses/で公開予定である。規格は、合理性に基づく行為の標準化であり、地域包括ケアを検証、再現、共有可能な形で提示することで、質の保障と向上に寄与する。非権力的枠組みで社会課題の解決を図ろうとするものである。
14.信頼性の担保としての地域の優位性
少子化により自治体の消滅が危惧されるようになった。連携による医療、介護、福祉サービスの向上は地域の優位性を高める。地域の優位性が高まれば参加法人の生存確率が高まる。これが連携活動の質を高く保つのに役立つ。参加法人には、政治や行政よりよほど信頼するに足るインセンティブが共有される。政治や行政は、しばしば私益や共益で動くので、必ずしも信頼性は高くない。
15.矛盾を許容
強制力を持たず、言論を活動に含めるので、内部での意見の相違が生じうる。少数の権利を保護するためにも、連携プラットフォーム内部での意見の相違を排除しない。

◆おわりに
無理な理念に基づいて、社会活動の量を細かく統制しようとすれば、失敗するだけにとどまらず、その弊害は拡大し続ける。統制が官僚の権力を増大させ、権力が失敗の認識を抑圧して、実態に基づいた修正がなされないからである。
上意下達の硬直的な階層構造で統制医療を推進していくのかどうか、規制緩和を掲げる安倍政権の判断を注視したい。