公開日:2020年12月02日

社会的処方の制度化は可能か?~:ニッセイ基礎研究所レポートを読む~

こんにちは、札幌のかかりつけ医&在宅医@今井です。

 

外来のみならず在宅医療の現場も経験している医師、看護師にとっては、患者さんの抱える問題が診療の一コマだけで、投薬や医療機関内での検査や治療だけで解決可能と考える人はいないと思います。

患者さん自身が抱える問題であったり家庭内の問題であったり社会的課題であったり、諸々に介入しながら支援をしていくことはかかりつけ医及び在宅医なら必ず経験していることだと思います。

近年上記のような患者さん家族が地域の中で生活していくために必要な社会資源やサービスにつなげる”社会的処方”が注目を集めているのは皆さんなら知っているかも知れません。

今回ニッセイ基礎研究所から社会的処方についての興味深いレポートがありましたので皆さんお時間あれば是非一読してみてください。

骨太方針に盛り込まれた「社会的処方」の是非を問う-薬の代わりに社会資源を紹介する手法の制度化を巡って

要旨だけ引用させて頂きます。

「政府内では現在、「社会的処方」(Social prescribing)の制度化に向けた議論が進んでいる。これはストレスや孤立などを感じている人に対し、医師が薬の代わりに患者団体などコミュニティの資源などを紹介することで、その人に生き甲斐や社会参加の機会などを持ってもらう方法であり、英国などで実施されている。

こうした社会的処方について、今年7月の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)でモデル事業の実施方針が唐突に盛り込まれたのを受け、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)では介護報酬への反映も視野に入れた議論が展開されている。

しかし、筆者自身としては、(1)英国と医療制度が大きく違う、(2)ソーシャルワークの違いが不鮮明――という2つの点で、診療報酬への反映など本格的な制度化には慎重な姿勢が求められると考えている。

以下、社会的処方の発祥地である英国の事例を見つつ、社会的処方の概念を整理し、国内での実践例や制度化に向けた議論も概観する。その上で、2つの疑問点を中心に、制度化に向けた論点、その是非を問う。」

 

ということで内容については再度言いますが一読してもらいたいのですが、社会的処方を意識して行っているかかりつけ医の立場からいうと、社会的処方を制度化する上での現状の問題点、かなりハードルが高いと思われます。

以下に社会的処方の制度化が難しい理由をいくつか記載します。

①”かかりつけの医療機関で社会的課題をスクリーニングする”こと自体、在宅医療の経験がなければ医師や看護師には難しい

②地域の社会的資源、サービスリソースについて医療機関が知らない

③ソーシャルワーカーがそのような医療機関にいればある程度は解決できるかも知れないが、診療所レベルではMSWがそもそもいないことが多い

④介護保険や障害サービスとの整合性や調整など、地域の中での公的サービスと社会的処方の利害の調整など誰がするのか、制度の縦割りの中では決めるのが困難

などが挙げられるかと思います。

 

つまり既存の医療機関では

①社会的課題を見つけられない

②地域のリソースにつなげられない

③仮に①,②ができたとしても継続して調整、関わっていくことのハードルがかなり高い

のが現状で、これを制度化していくのはかなりハードルが高いと言わざるを得ないかと思います・・・・

現実的に社会的処方を実際に制度化、導入するのであれば

①かかりつけ医療機関を複数医師体制で運営することを原則とし、外来診療と在宅医療を行うことを必須とする(在宅しないと社会的課題の実際を医師が理解しづらい、そのためにも複数医師体制は必須)

②その上で看護師やMSWなどの多職種を在籍させ、外来、在宅問わず患者さんの全人的アセスメントによる社会的課題の発見をしてもらう

③そして地域の社会的資源につなげ診療時に適宜介入後の経過を確認していく

ということにするしかないのではないかと思います。自分はそんな風に考えますが皆さんのお考えはいかがですか?

 

 

最後にこのレポートの終わりの筆者の文章を引用して終了にしたいと思います。(赤文字は今井も同意する部分です。)

10――おわりに

「筆者自身の意見として、健康の社会的決定要因、あるいは社会的処方の考え方には賛成であり、医師など医療職が健康の社会的決定要因、あるいは社会資源に目を向ける自体は意義深いと考えている。

しかし、本格的に制度化するのであれば、これまでの福祉業界を中心とするソーシャルワークの蓄積などを踏まえる必要がある。さらに、医療化などの弊害も懸念されるため、安易な制度化論議には反対である。中でも、医療・介護現場では現場を支える専門職のプロフェッショナリズムと、専門職と患者・利用者の信頼関係の構築が最も重要であり、国外の良い事例とか、素晴らしい現場の実践を全て制度に取り込もうという発想は経済的なインセンティブ目当ての行動を誘発したり、現場への混乱を誘発したりして、思わぬ「副作用」を生み出しかねない。

今回の制度化論議は介護報酬の居宅療養管理指導への反映という局所的な結果に終わりそうだが、本格的な制度化を検討するのではなく、健康の社会的決定要因に着目した地域づくりや、複雑な生活を個人と地域の双方で支えるソーシャルワークに基づく実践など、現場の地道な実践が求められる。」

 

 

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