公開日:2016年04月02日

かかりつけ薬剤師制度の普及は本当にできるのでしょうか

かかりつけ薬剤師さんの制度に関しては24時間対応や処方内容の把握などハードルはかなり高く以下の記事にあるように”ブラック”な制度と捉えられても仕方のない一面もあることは確かだと思います。

結論から言うと自分は24時間対応は必須と考えます。少子高齢化が基盤としてあり利用できる人的医療リソース(医師、看護師など)が限られている現状を考えると、将来的、10年、20年スパンで国が考える医療提供情勢を考えたときには必ず地域の中で薬剤師さんが活躍することが求められているのは間違いありません。他職種との連携の中でたとえ現時点では”ブラック”な制度だと思われても少しずつ薬剤師さんの役割も進化する必要はあると思います。ただ診療報酬でどこまで罰則規定のような減額を設けるのかは難しい議論ですね。在宅でもそうですが診療報酬はもう少し改定の間隔を空けるなりきちんとしたロードマップを国は提示すべきと思いますが皆さんどうでしょうか。

ひとまずかかりつけ薬剤師さんの制度に関しての面白い記事をみんなでみてみましょう。多田先生の記事はいつも勉強になります。

MRICより

もはやブラック、かかりつけ薬剤師制度が過酷すぎる http://medg.jp/mt/?p=6614

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

2016年3月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2月10日、厚生労働省中央社会保険医療協議会は2016年4月からの診療報酬改定を答申しました。
診療報酬の高い急性期病院の要件の厳格化や、紹介状なしの大病院受診の際に初診で1回あたり5000円、再診で1回あたり2500円の自己負担を導入することなどが盛り込まれています。
それ以外に、私が今回の改訂の中で特に目玉だと思うのは、「かかりつけ薬剤師」制度の新設です。●薬剤師が医師の判断をサポート
厚労省の答申によると、以下がかかりつけ薬剤師の仕事となります(かかりつけ薬剤師指導料は70点=700円)。
(1)薬剤服用歴管理指導料に係る業務
(2)患者が受診している全ての保険医療機関、服用薬等の情報を把握
(3)当該患者から24時間相談に応じる体制を取る
(4)調剤後も患者の服薬状況、指導等の内容を処方医に情報提供し、必要に応じて処方提案
(5)必要に応じて患家を訪問して服用薬の整理
つまり、一定の経験を持つ薬剤師が、複数の診療科や病院・診療所などから処方されている薬を全て把握したうえで薬剤指導を行い、その結果を処方した医師に報告し、処方の提案も行う、ということです。

ポイントは、自分の薬局で調剤した薬剤だけではなく、他で処方されているもの、処方以外のサプリメントなどの内服まで含めて薬剤指導を行うということでしょう。また、その結果を「処方医に情報提供し、必要に応じての処方提案」ともあります。薬理相互作用に詳しい薬剤師が、患者の服薬状況を医師に報告して判断のサポートを行えば、医療の質が向上することは間違いないでしょう。
かかりつけ薬剤師制度は、理念としては決して間違ってはいません。しかし、この制度は大きな問題を抱えています。おそらく今後1年以内に修正されることが必至の“ブラック”制度なのです。

●調剤後の状況を処方医に情報提供するメリットとは?
薬理相互作用などは医師であれば一通りは把握していますが、薬剤師の方が詳しい知識を持っていることも少なくはありません。
一例を挙げると、便秘に対して処方される、酸化マグネシウムという便を柔らかくする薬があります。この、酸化マグネシウムの薬理機序(メカニズム)は、“胃で胃酸と反応して、塩化マグネシウム”となり、その後、“膵液と反応して、腸内で吸収されにくい炭酸マグネシウム”となり、その浸透圧維持の ため腸壁から水分を吸収して便を柔らかくするというものです。

ポイントは、まず“胃酸と反応”して、その後に膵液と反応して炭酸マグネシウムに変化することです。ですから、酸化マグネシウムは胃酸を抑える薬と一緒に処方されると、効果が減弱することがあります。
しかし、胃痛と便秘の両方の訴えがある方に、両方の薬を同時に処方されている事例はしばしばあります。
薬剤師が、このような薬理作用を把握した上で、調剤後の服薬状況とその結果を処方医に報告し、必要に応じて処方提案することで、医療の質の向上が見込まれます。

●「24時間対応」という時点でそもそも実現不可能
しかし、その一方でこのかかりつけ薬剤師制度には大きな欠陥があります。それは「24時間対応」という条件です。
個人ないし数名の薬剤師で運営している薬局にとって、24時間対応は、はっきり言って持続不可能です。
振り返れば2012年4月には、診療所が常時24時間365日患者からの電話による問い合わせに対応する体制を取ると「1人当たり5点(50円)」の加算が算定できるという「時間外対応加算」制度が始まりました(「どう考えても継続不可能、『50円』で医師が24時間対応する制度」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34883)。しかし、この24時間の時間外対応加算を算定している診療所は2015年度のデーターで全国10万件の診療所のうち、わずか152件(!)に過ぎません。

医師が1~2人で24時間電話問い合わせに応じるのは、肉体的に持続困難なのです。
同様に、2014年4月の保険改訂で目玉の1つとされた、200症未満の病院および診療所を対象とした「地域包括診療料」(24時間体制の在宅診療を行うことに対する報酬)も、届け出施設はわずか122施設(診療所109、病院13)しかありません。
病院や3名以上の常勤医がいる診療所においても、24時間態勢での対応は人員的に実現困難なのです。
かかりつけ薬剤師制度は、確かに十分に活用すれば医療の質の向上につながるはずです。しかし、要件に「24時間相談に応じる体制を取る」という項目が入っているため、形だけの制度となってしまう可能性が大きいのです。

●「ブラック」と言うしかない懲罰的減額セット
話はそれだけでは済みません、今回のかかりつけ薬剤師制度には、これまでの「時間外対応加算」や「地域包括診療料」とは決定的に違う点が1つあります。それは、懲罰的な減額がセットになっていることです。
つまり、2017年4月1日から、「かかりつけ薬局の基本的な機能に係る業務を1年実施していない保険薬局」の場合、調剤基本料の50%の額しか算定できなくなる、というのです。
薬剤師が患者の服薬状況をチェックして、医師に処方サポートの情報を報告することで医療の質向上が見込めるのは間違いありません。しかし、個人や小規模薬局ではほぼ持続不可能な24時間対応をしなければ報酬を半額にするというやり方は、「ブラック」と言われても仕方がありません。
24時間対応は輪番制でも可とする、ないしは、都道府県単位などで一括してコールセンターを設置して、そこでまとめて対応するなど、実現可能な制度に早急に修正することが必要です。このまま推し進めては、薬剤師の疲弊を加速するだけで、良いことは何もないでしょう。