公開日:2016年02月16日

これからの時代、高額な薬剤の保険収載は皆保険制度下で可能でしょうか・・・ 

読売新聞に以下の記事がでていましたのでまずは確認してみてください。

http://www.yomiuri.co.jp/national/20160213-OYT1T50057.html より

国内の医療用医薬品の年間売上高が2015年に初めて10兆円を超えたことが、調査会社IMSジャパンのまとめでわかった。

もうひとつ薬剤関連の記事もどうぞ。

「抗体医薬」がもたらす、国民皆保険への影響1/1

「免疫チェックポイント阻害剤」のニボルマブは今までの抗ガン剤とは一線を画する効果が認められる、高度な技術の結晶ですので、それ相応の薬価が付いています。注目される抗体医薬のひとつですが、最近肺がんの一種にも適用が拡大され、高額医療費制度の対象が増えました。国保はどうなってしまうのでしょう。

注目の免疫チェックポイント阻害剤とは

iMediでも、「免疫チェックポイント阻害剤」については度々紹介させていただいてまいりました。

少し難しい話になりますが、私たちの身体にある細胞約60兆個にはそれぞれ自分自身であることを示す遺伝子情報「MHC(主要組織適合遺伝子複合体)」という目印が付いています。

自分の正常な細胞が突然変異を起こすガン細胞にも、当然「ガン細胞であること」を示す印が付いていますので、免疫系はそれを目印にガン細胞を攻撃します。
ですが、自分の正常な細胞まで攻撃すると、いわゆる「自己免疫疾患」という恐ろしい状況に陥るため、「正常」と判断された特定の抗原に対しては 攻撃力にブレーキをかける仕組みがあります。

これが「免疫寛容(immune tolerance)」と呼ばれる、自分自身を攻撃しない仕組みです。

このような、自分の身体を守るための「ブレーキ」に当たる仕組みの事を「免疫チェックポイント」と言い、基本的には私たちの身体のホメオスタシスを保つ安全装置としての役割を担ってくれている良い仕組みです。

しかし近年、その仕組みをガン細胞が利用して増殖することがわかってきました。

ガン細胞を殺傷する役割を担っているのは、白血球のリンパ球中にある、キラーT細胞と呼ばれる細胞が持つ分子ですが、ガン細胞が持つPD-L1、PD-L2という分子が合体した途端、キラーT細胞はガン細胞を攻撃するのをやめてしまいます。

PD-Lは、ガン細胞に限らず、あらゆる細胞がキラーT細胞に攻撃されるのを防ぐために出す分子です。ガン細胞は特に多くの分子を放出します。ですので、これを疎外させる薬が必要とされ、開発が急がれていました。

これが「免疫チェックポイント阻害剤」です。原理は、京都大学名誉教授の本庶佑研究室が発見したものです。

ニボルマブは、「レベル」がちがう

悪性黒色腫(メラノーマ)は、皮膚がんの中で最も代表的なもので、非常に悪性度の高い腫瘍で、患者の5年生存率が低い、予後の悪いガンとして有名です。
白人に多いですが、日本人にも 1 年間で人口 10 万人あたり1~ 2 人発生するといわれるものです。

ステージの進行にしたがって打つ手はなくなり、ガンの三大治療法と言われる「抗がん剤」「外科手術」「放射線治療」でも寛解しなかった場合はもう死を待つだけだったこのガン。
しかし、免疫チェックポイント阻害剤「ニボルマブ」を使用した患者の2〜3割に劇的な効果を表し、完治したのではないかと思われる人まで出ました。

さらにニボルマブを使用した肺・膵臓ガンの患者にも同程度の効果が現れたのです。明らかに今までの抗ガン剤とはレベルが違うーそれがニボルマブです。

製造にかかった、高コスト回収の必要性

しかし、この高度な技術を必要とする薬は、日本の製薬会社では現段階で「単独で」製品化できる企業は存在せず、アメリカの大手製薬会社「ブリストルマイヤーズスクイブ」が開発のほとんどを担当する形で、日本の「小野薬品」が製品化することになりました。

現在までにアメリカ、日本、EUで承認されています(日本名『オプジーボ点滴静注 20mg、同点滴静注 100mg』)。

製薬会社としては、試行錯誤を重ねて製造にこぎ着けた分、その製造コストを何倍にも上回る収益を薬価に反映させるのは当然ということになってしまいます。

悪性黒色腫は、保険適用対象

この薬は、体重1kgに対して2mgを3週間に1度投与するもので、薬価は20mgで15万円。100mgだと73万円です。

50kgの平均体重の女性が服用するとちょうど73万円程度になりますから、3週間毎に1年間使用するとすると、年間1240万円程度が必要です。悪性黒色腫は保険適用の高額医療費制度の対象になっていますので、70歳未満の患者の自己負担は、70歳未満の高額レベルの高額所得者(月額報酬83万円以上)

でも、自己負担は最高で268,000円程度、年間で320万円程度となり、住民税非課税世帯ですと自己負担は年額で424,800円程度で、高額医療費制度からの給付金8,335,200円を大きく下回ってしまいます。

もちろん差額はすべて、我々が納めている健康保険や、赤字国債から贖われることになります。
肺がんの最大原因である喫煙率は低所得者層で多いことが報告されている厚生労働省『平成26年国民健康・栄養調査結果の概要』参照)ことを鑑みると、空恐ろしい額が、国保から出て行きそうです。

非小細胞肺がんにも適用拡大

ニボルマブは悪性黒色腫だけでなく、他の部位のガンにも効果が大きいですので、日本人に多い部位のガンへ高額療養費制度内で追加承認された場合、確実に国家破綻への道をたどることが予測されます。

事実、小野薬品は昨年12月17日、肺がんの約 85%を占めるという「切除不能 な進行・再発の非小細胞肺がん」に対する効能・効果に係る製造販売承認を取得したと発表。
企業が推計したおおよその推定使用患者数は平成26年7月〜平成27年6月で約855人でしたが、今後は対象患者数の激増が予想されますので、ニボルマブ単独でも国保破綻は避けられない事態となるでしょう。

使えば良いというモノではない

医薬品副作用被害救済や稀少病認定薬の研究振興調査などの業務案内を行っている医薬品医療機器総合機構(PMDA)によると、ニボルマブの副作用は以下のものであり、死亡例もあると報告しています。

  • 重症筋無力症あるいは筋炎、またはその合併症…異常が認められた場合には投与を中止し,副腎皮質ホルモン 剤の投与等の適切な処置を行うべきこと。
  • 呼吸不全…重症筋無力症により、内分泌系の異常で呼吸異常に陥る可能性。
  • 大腸炎、重度の下痢…持続的な下痢・腹痛・血便等の症状があらわれた場合には投与を中止すべきこと。

また、日本臨床腫瘍学会も、ニボルマブは「効果の発現形式や有害事象の特徴が従来の抗がん剤と異なる」とし、従来の抗ガン剤では見られない免疫学的な有害事象に注意するよう呼びかけました。
ニボルマブにかけられる期待が大きいだけに、副作用などの有害性が軽視されうる可能性があり、「有効性及び安全性は確立していない」ことを忘れるべきではないということです。

~雑感~

顕著な高齢化に伴い国民皆保険制度はこのままでは画餅になりかねない状況で、現実的にはフリーアクセスの制限や内服薬の多剤処方の実質的な制限など医療の制限は実際の臨床の場ではおきています。高額な医薬品は確かに効果があるものかもしれませんが、現実的に保険に収載することがいいことなのか、財政的に許されるのか、これからの医療の在り方も踏まえ国民全員での議論と妥協点を見出すことが一刻でも早く必要だな、と考えた記事2つでしたが皆さんはどう考えますか?