公開日:2016年05月15日

大規模化は不可避でしょうか

調剤に関わる診療報酬自体も医科と同様に4月から改定になっていますが、おそらくどの薬局もかかりつけ薬剤師にいきなりなることは困難であるためどこの薬局さんも昨年よりは減算になっているのは間違いないと思います。地域包括ケアの推進に求められる薬局の役割は、今回の診療報酬の改定内容をみることでより方向性が明確になってきたなと個人的には思っていますが皆さんもそう考えますよね。かかりつけ薬剤師制度の普及と実施を目指していくうちに、おそらく規模の小さな薬局さんはマンパワーの上でも設備投資の面でもかなり活動が厳しくなるのではないでしょうか。(ここらへんは在宅療養支援診療所も同じ方向性だと思いますが・・・)

他国の制度、現状を知ることはこれからこの国でどのような薬局、薬剤師さんのありかたが模索されていくのかを考える一助となりますね。m3の記事が大変面白かったのでご紹介します。

m3.comより https://www.m3.com/news/iryoishin/423532

オーストラリアの薬局解体新書~日本の保険薬局の今後を考える~

創薬研究員、薬局薬剤師、学習支援・薬局研究部門のマネジャーを経て、シドニー大学大学院で薬学博士号の取得を目指す藤田健二先生に、オーストラリアの医療制度および薬局実務を読み解きながら、今後の日本の保険薬局のあり方について考察していただく本連載。第5回は、「薬局サービス(分割調剤・一包化・臨床介入など)」についてお話しいただきます。

Staged supplyサービス

 オーストラリアでは前回紹介したリピート調剤とは別に、Staged supplyと呼ばれるサービスが第5地域薬局協定(The Community Pharmacy Agreement/ CPA, 2010年7月~ 2015年6月)から導入されています。日本の分割調剤に似たサービスですが、その目的は日本と大きく異なります。本サービスの目的は、薬物依存症患者や精神疾患患者による薬の過量服用を防ぐことです。その他、ホームレスや共同生活を行っていて薬の盗難が起こりそうな状況下にいる患者、薬の冷所保管ができない患者、薬を転売する可能性のある患者に対しても提供されます。対象となる薬は、抗精神病薬・抗不安薬・睡眠薬・鎮静薬・抗うつ薬・オピオイド系鎮痛薬・精神刺激薬です。

このサービスは多くの場合、自殺願望や自殺未遂の経験があり、医薬品を意図的に過量服用をする可能性のある患者に対して、医師からStaged supply実施に関する依頼状を薬局が受け取ることで開始されますが、まれに薬剤師が気づいて医師に連絡する場合や患者自身が申し出る場合もあります。分割日数は1日~1週間単位など、患者と相談したうえで医師が決定します。例えば分割日数が1日単位の場合は、毎日患者が薬局に来局し、薬剤師が服薬状況や体調変化などを確認したうえで、1日分の医薬品を渡します。

Dose Administration Aids サービス

 オーストラリアでは、日本でいう一包化サービスを「 Dose Administration Aids (DAAs) サービス」と言います。本サービスは、1日に5種類以上の薬を服用する患者、アドヒアランスの低さが原因による入院歴がある患者、認知機能や運動機能の低下により薬を適切に管理することが困難な患者などに対して提供されます。日本で一包化を行う際に使用するような分包機や分包紙はなく、テクニシャンが1回の服用時点ごとに手作業で専用容器の中に薬を入れていきます(写真1)。
容器の列は4列あるため、服用時点が朝・昼・夕・就寝前の場合は、1列ずつ薬を入れます(写真2)。服用薬剤数が多くて1つのくぼみに入らない場合は、2列を1服用時点のために使う場合もあります。

通常、薬局は患者の次回来局日を把握するための一覧表を作成しており、次回来局日に合わせて数日前までにDAAsを用意しておきます。ただし、前回ご紹介した医薬品分類中のS8 (Controlled Drug: 麻薬・向精神薬)に分類される薬は金庫内での保管が義務付けられているため、処方せん応需後にその薬だけ追加できるようにDAAsを用意しておきます。また、処方せん応需後、今までと処方内容が変更になった場合は、その箇所だけ専用容器にあるふたのシールをはがして薬を変更します。なお、このDAAsの導入効果は、医療費抑制の観点および薬の飲み間違いなどのメディケーションエラーの減少率の観点から評価されています。

Clinical Interventionサービス

 Clinical Intervention (CI) サービス は、医薬品使用に起因する問題(Drug Related Problems/ DRPs)を早期に発見し、DRPsの解決に向けて患者の薬物治療・服薬方法・服薬行動の変更を患者または医師に提案する業務のことを言います。これまでのオーストラリア国内の研究によると、DRPsが原因で入院となる患者は年間入院患者の2~4%を占め、そのうちの4分の3が回避可能であったことが報告されています。また、75歳以上に対象を絞ると、全入院患者の30%がDRPsを原因とする入院であることや、一般医(General Practitioner/ GP)を受診する患者の10%が過去6ヶ月以内にDRPsを経験していることも報告されています。これらのエビデンスは、CIサービスが「医薬品の適正使用(Quality Use of Medicines/ QUM)」を実現するために必要な薬剤師業務であることを支持しています。

CIサービスを提供する例は、下記の事例を薬剤師が発見した場合が該当します。

  • 同効薬を特別な理由なく重複して服用している
  • 血圧が正常値内にコントロールできておらず、薬の増量・追加が必要
  • 薬物相互作用による副作用が発生している可能性がある

こうしたDRPsを発見した場合、薬剤師はDPRsの解決に向けた提案を医師または患者に提案します。その後、薬剤師が介入した内容を下記の3つの方法で記録して保管する必要があります。

  1. 発見したDRPsの内容を分類表を使って分類する(写真3)
  2. 提案した内容を分類表を使って分類する(写真4)
  3. 薬剤師が介入した内容をSOAP方式で記述する

このCIサービスは5CPAから始まった新たなサービスですが、上に挙げた1、2の分類表は、4CPA( 2005年12月~2010年6月)期間中の研究プロジェクトによって開発されました。こうして薬剤師による介入を規定の方法で分類し保管しているデータは、薬局横断的に収集・解析されて、新たなエビデンスとして利用されます。

 

薬局実務を評価するための体制整備へ

 この他にも、スタチン系医薬品と経口避妊薬に限ってですが、5CPA期間中、リピート処方せんの残り回数がなくなってしまった場合に、有効な処方せんがなくても薬剤師の判断で調剤することができるContinued dispensing サービスが実施されました。しかし、オーストラリア医師会 (Australian Medical Association) が、本サービスの利用によって患者の状態に異変があった場合の責任の所在が問題となることや、薬剤師が処方と調剤を実施することによる利益相反の問題があることを理由に反発しているうえ、本サービスが患者から認知されなかったこともあり、2016年7月からの6CPAには本サービスは含まれません。

今回紹介した3つの薬局サービスや次回紹介するメディケーションレビュー関連のサービスは、 「The Quality Care Pharmacy Program/ QCPP、第3回参照」によって認定を受けている薬局でなければ患者に提供できません。また、QCPPの認定を受けている全薬局が全てのサービスを実施しているわけではなく、薬局自体が提供するサービスを選択できるようになっています。サービスごとの報酬に関しては、Staged supplyサービスは実際に提供した患者数に関係なく1年ごとに一定額が支払われるのに対し、DAAsとCIサービスは実際にサービスを提供した患者数に応じて3ヶ月ごとに支払われる仕組みになっています。

今回紹介したサービスにおいて特筆すべき点は、将来的に各薬局が保有する薬歴データを解析して、サービスの有効性に関するエビデンスを作り出せるように、データの記録・保管方法をあらかじめ統一していることです。かかりつけ薬剤師制度が導入される日本においても、薬局サービスが患者にもたらす影響を複数の視点から評価することが今後求められてくるでしょう。それを可能とするためにも、各薬局が保有する薬歴情報の集約という意味での「バラバラから一つへ」という視点も今後ますます重要になってくると考えます。次回は在宅医療への参画(Home Medicines Reviewなど)について考察していきます。お楽しみに!

【主な参考文献】
Duckett, S., and Wilcox, S. (2015). The Australian Health Care System (5th ed.). South Melbourne, Vic: Oxford University Press.
Hattingh, L., Low, J. S., & Forrester, K. (2013). Australian pharmacy law and practice (2nd ed.). London: Elsevier Health Sciences APAC.
The 6CPA (2015). Retrieved February 20, 2016, from http://6cpa.com.au/