公開日:2015年12月03日

【2015年度】札幌の在宅医療の現状について

小樽済生会で講演する内容については上記のとおりです。参考とする資料について文章つくりましたのでせっかくですし公開します。簡単にまとめた文章ですので齟齬があってもあまり気にしないで読んでください

 

札幌での在宅医療の現状について

 

本日の講演内容

1 当院について

2 札幌の在宅医療の現状について

3 札幌での在宅緩和ケアの現状、問題点 

4 在宅医が病院の医療者へ望むこと

1当院について

当院は2011年10月に開設した在宅医療、訪問診療に特化した在宅療養支援診療所です。当初は訪問診療のみで始めましたが、その後各医療機関からのニーズもあったため訪問看護も2012年から開始、現在は訪問診療、訪問看護に加え、併設した訪問看護ステーションからの訪問リハビリ、居宅介護支援事業所のケアマネによる居宅介護支援も行っております。

診療方針に関しては開設当初より①依頼があった症例はできるだけ受ける②施設の訪問診療よりは居宅患者の診療を優先する③癌末期の人に関しては、在宅復帰からの残された時間が短いこともあり依頼があれば多少距離が遠くても早めに診療する、というスタンスで診療しています。紹介患者さんは病院からが5割、残り5割がケアマネさんや訪問看護ステーション、家族から直接問い合わせであったり行政からであったりします。

現在の診療範囲は中央区、西区、北区、手稲区、南区と豊平区の一部となっています。過去には銭函の癌末期の患者や南区の石山の患者、あいの里在住の方なども依頼されることがありましたが、遠方の患者さんは癌末期で予後が限られており、かつ他の近隣の医師が受けられないときのみ当院で対応するようにしています。診療している患者数ですは中央区、西区で各80名前後、北区、手稲区で30名、他の地域で10名程度の200名弱の患者さんを診療しています。イメージとしては、札幌自体を病院と考えてもらい、その中で200床の病床をもち様々な疾患と状態の患者さんを診療していると思ってもらえればと思います。患者さんの住居での内訳は居宅が170名前後、施設が30名弱とこの規模の在宅療養支援診療所では珍しいですが施設患者さんの割合がかなり少ない状況となっています。また疾患については特にこの疾患は受けられない、などと言うことなくできる限り在宅療養を支援する役割を果たしていきたいと思っているため神経難病から癌末期、呼吸器疾患や認知症など幅広く診察を行っております。(小児に関しては自信がなく現在は原則診療していません。)

体制については開設当初より24時間365日往診できる体制をとっています。当初は医師自分のみの一人体制でしたので札幌から全く離れることができませんでしたが、2014年4月より医師が一人一緒に診察してくれ、また15年度からさらにもう一人増え、現在3人体制で診療を行っております。現在おおよその訪問件数は8~10件/日程度で毎日の業務を行っております。夜間往診は平日に2回程度、土日の往診は平均して2日間で4件程度でしょうか。

 訪問看護に関してはこちらも訪問診療と同様に開設当初から24時間体制をとっています。当初より経験豊富な緩和ケアの認定看護師が訪問看護を引っ張っていってくれて、現在は診療所付属の訪問看護師が4名、訪問看護ステーションに7名の看護師が業務に従事しています。機能としては診療所側の看護師が末期患者に特化した訪問看護を、ステーションではそれ以外の比較的安定した患者を対象とした訪問看護を行っています。こちらもほぼ診療と同範囲の地域をカバーしています。

 SWに関しては現在2名体制で病診連携、診診連携、患者さん家族の相談を受け付けています。新規の患者は月おおよそ25名前後、退院時カンファも平均月8回程度行っておりその度に参加しています。在宅ではケアマネとともにサービスに必要な調整や福祉用具の手配、身体障害の申請などの各種手続きの援助などを行っております。

当院の現在の体制は医師3名、看護師計16名、リハビリPTOT各1名、SW2名、ケアマネ1名事務6名体制の人員となっています。今後の目標としては、宮の森を中心とし、これまでの診療をさらに質を高く多くの患者さんに在宅医療を提供できるように医師、看護師、リハスタッフなどのさらなる充実を行っていきたいと考えています。

 

札幌の在宅医療の現状について

 札幌の在宅医療に関してですが最近は少しずつですが訪問診療医の先生が増えてきています。自分の把握している範囲ですが手稲区は家庭医療クリニック、西区はホサナファミリークリニック、坂本医院、中央区は当院、静明診療所、ごう在宅クリニック、札幌中央ファミリークリニック、北区、東区は栄町ファミリークリニック、札幌在宅医療クリニック、みきファミリークリニックなど、各地区に2,3か所は訪問診療とあそこ!というところがあります。ただ癌末期の医療依存度の高い患者さんをみる訪問診療医はあまり多くなく、全体としては在宅医のキャパとしては足りていないのが現状です。また複数医師の在籍する診療所のその中でほんの一握りとなっておりそのことが夜間や休日の対応などの各医師の負担にも繋がっています。特に在宅医が不足している地区は札幌では南区でしょうか。早急に体制、診療医ともに同地区では整備されることを希望しています。

 訪問看護に関しては、在宅医療の一番大事な要素と考えています。しかし現状では市内で小規模のステーションが乱立する様相を呈しており、正直訪問診療に携わっている自分でも、どの地区にどの程度の看護レベルのステーションが、どれだけあるのかわからない状況となっています。また24時間土日もふくめきちんとしたサービスを提供できるステーションはそう多くはありません。なので当院から外部に訪問看護を依頼する場合はやはりきちんとしたケアを提供できるところを選別してお願いしています。

おそらくどの地区でもそうだと思いますが札幌でもどの訪問看護ステーションも慢性的に人手不足が継続しています。訪問看護師の募集は数多くありますが、やはり一人で出先で判断することが多いことや待機の携帯のストレス、求められる介護保険の知識など、病院勤務と比べると少し壁があり応募してきてくれる看護師さんが少ないのが現実です。結果として待機携帯をもつ回数が2,3人でやっている訪問看護ステーションでは月に1人あたり10回程度となることもあります。それでは現実的に夜間など呼ばれる可能性が高い重症度の高い患者さんは1人か2人程度しかみることはできないのはある意味当然だと思います。当院でも未経験の看護師の教育を行っておりますがやはりある程度のレベルに達するには、十分な病棟経験があったとしても最低でも半年から1年はかかると思います。今後の増え続ける地域の在宅医療ニーズに答えるために訪問看護ステーションも大規模化が求められていますが札幌でどうなるのか、先行きはこのままでは少し不安な現状です。

 行政からの依頼も年々増えています。認知症独居の方が特にトラブルケースとなることが多く、介護保険の主治医意見書の対応、精神科への病診連携への介入、高齢者ネグレクトへの対応など多岐にわたります。当院はSWも配置しているため比較的行政からの連絡が入ることが多く、都度対応しております。札幌という土地柄か高齢者住宅や民間の施設にはあまり困ることないことは良い点ですが、独居困難例は包括やケアマネと協力し適切な住まいへの紹介も必要となっています。今後独居の高齢人口が多くなるという社会的な背景は全国的にも継続すると考えます。認知症をベースとした困難症例をだれがどう介入するのかが問題となると思いますが、札幌でも徐々に問題が顕著化しつつある印象です。どのように在宅医療側が介入するのか、現状の個々の努力ではなくシステム作りが求められます。

 

3札幌での在宅緩和ケアの現状、問題点 

 札幌における在宅緩和ケアの現状は自分が訪問診療を開始した5年程前と比べても大きく変化はないようと感じています。その中で自分が特に気になる点を幾つか述べてみたいと思います。

 ひとつめはやはりというか訪問診療医、訪問看護師の不足です。対応する医師、看護師の少なさが既存の医療機関への負荷となっています。例えば当院では前述の如くあいの里や銭函、定山渓手前の石山など、かなり遠くまで訪問に出かけることがあります。どこもみる医療機関がなく当院が対応しなければ患者さんが自宅へ帰れない場合などはやはり多少無理をしても診療すべきとは考えますが、長期間続けるのは難しい状況です。これまでは頑張ってきていましたがこれから先はどうなるのか、一抹の不安があります。また訪問看護師に関してですが、前述したとおり少人数でやっているところが多いためそう多くは1ステーションではターミナル患者をみることができません。ある程度そのような状態の患者をみるのに慣れた看護師であれば、医師の指示をまつことなくオピオイドをその患者さんに適した方法で服用することを考えてくれたり、スピリチャルケアを十分にやってくれたりとかなり医師の負担を軽減してくれますが、少ない症例数しかみていない看護師ではなかなかそこまでできず結果として医師がすべてをやることとなるのが現状です。質の高い訪問看護師が増える事が結果として医師の負担も軽減してくれることとなるため、その育成はゆっくりですが継続して行っていかないといけません。が時間はかなり必要です。

ふたつめは退院時の病院側の問題です。ターミナルの患者の退院時カンファレンスに必要なことは、すべての条件を完全に整えることではなく、できるだけ迅速にカンファレンスを開き早く自宅に帰すことを優先して考え動くことだと考えます。しかし、いくつかの医療機関では退院時カンファレンスの開催に2~4週程度時間がかかり結果として帰れなくなることがまだあります。これはできるだけ解消するように各病院に開設当初からお願いしていますが中々温度差があると感じます。また在宅に帰る患者さんは原則帰りたい患者さん全員となるべきですが、医療者の方でこの状態、処置をしているならかえせないと考えてしまいがちで結果として帰ってこないことがままあります。自宅で過ごしたい、帰りたい患者さんは全員帰してあげるという意識をもつことがまずは重要でどのように帰すかについては在宅側への相談を積極的に病院再度からしてもらえればと思います。

 みっつめはバックベット、特に緩和ケア病棟の問題です。札幌市内では東札幌病院、時計台記念病院、厚生病院、五輪橋病院、カリンパなどがありますが量的に充足していません。特に西区、手稲区の患者さんはホスピスに入院となるとかなり遠くまで足をのばさないといけないため不便です。解消するためにはできれば西区、手稲区にもう一つ緩和ケア病棟が必要かと考えています。また夜間休日の対応ですが、その時間帯にも対応してくれる緩和ケア病院が現実的には東札幌病院しかないため在宅で過ごしているターミナルの患者さんのバックベットはそこに依頼することが多くなってしまいます。今後質量ともにさらに充実し夜間休日でも真のバックベットとなってくれる病院が増えることが望まれます。

 

4在宅医が病院の医療者へ望むこと

 医療者にとって病院が“ホーム“であっても患者さんにとってはそこは純然たる”アウェー“の場です。病院で医療処置ができるのはあたりまえですが、患者さんにとっての”ホーム”、つまり日常生活の場である自宅で、どのように生活と医療との折り合いをつけているか、実際に訪問してみないとわからないことはたくさんあります。困難症例に関しては積極的に訪問診療や訪問看護を利用することを是非検討してみてください。

 皆さんに望むことは以下の通りです。

  1. 自宅に帰れること、在宅医療のことを知らない患者さんはまだまだたくさんいます。皆さんがまずは在宅医療の情報を整理して、ある程度そういるシステムがあるんだよと患者さんに説明できるようになってもらえたらよいかと思います。
  2. ターミナルの患者さんで病状がどうであっても、本人が自宅に帰りたいと思ったら帰すことはできます。まずは目の前の患者さんが帰りたいのかどうか、どこで最期を過ごしたいのかをきちんと聞いてあげて、自宅という選択肢もあると提案してあげてください。
  3. 疼痛管理などに関しては在宅には在宅のやり方があります。病院の処置をそのまま行うことは介護力から言っても無理なことが多いためアレンジが必要です。場合によってはCADから内服や貼付薬に変更しないほうがいい場合もあります。そこは病院主導で決定するのではなく在宅医療者にも早めに相談してみてください。
  4. 外来でHOTの管理や血糖管理、疼痛管理、認知症の対応などに困っている患者さんなどはちょっとした医療者の介入で病状がよくなること、生活がしやすくなることがままあります。まずは積極的に近隣の訪問看護師と顔見知りとなり、導入してみることを考えてみてください。

 

以上簡単ですが本日の講演の要旨でした。皆さんの参考になればと思います。