公開日:2015年07月18日

在宅医療におけるエビデンス①

在宅医療におけるエビデンス発表されていたのを寡聞にしてしりませんでした。しばらく自分の学習がてらみていきたいと思います。

皆さんも興味があればPDFでみてみてください。

日本老年医学会 「在宅医療に関するエビデンス:系統的レビュー」作成について

http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/20150513_01.html から

1.認知症
【サマリー】
CQ1:認知症の早期診断に高齢者総合機能評価(CGA)は有効か?
在宅での高齢者総合機能評価(CGA)は認知症の早期診断に有効である(レベルⅡ).
また,認知症患者の包括的医療の実践に有効と考えられる(レベルⅣb).
CQ2:認知症患者に在宅医療を行うメリットは何か?
在宅医療の方が一般入院に比べ,認知症の行動障害は尐なく,抗精神病薬の使用も少ない(レベルⅡ).
CQ3:認知症高齢者の行動障害に投薬は有効か?
認知症高齢者の行動障害に対して,コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチン,抗精神病薬といった投薬は介護負担および介護時間を減らすが,副作用にも注意が必要である(レベルⅠ).
CQ4:アルツハイマー病に運動療法はどのような効果があるか?
在宅療養中のアルツハイマー病患者において,運動療法は転倒を少なくし,ケアサービスの費用を減らす効果がある(レベルⅡ).
CQ5:認知症患者の介護者に対する介入はどのような効果があるか?
認知症患者の家族介護者に対するサポート介入は認知症患者のQOL を改善する(レベルⅠ).
また,施設入所を減らし,介護者のうつ症状を軽減する(レベルⅡ).
介護者に対する教育は,認知機能や認知症患者の問題行動に良い効果をもたらす(レベルⅡ).
CQ6:施設サービスの利用にはどのようなメリットがあるか?
デイサービス,デイケア,ショートステイは介護負担を減らす(レベルⅢ).
また,認知症患者の生活状態や認知機能の低下を抑え,周辺症状,向精神病薬の使用も減らす可能性がある(レベルⅣb)

【本文】
認知症は,年齢と共に有病率が高くなり,日本全国に462 万人存在すると推定されており,その予備軍と考えられる軽度認知障害の患者は400 万人と推定されている.そして,その多くは自宅で過ごされており,患者本人のみでなく,介護者への負担も考えると,かなり大きな問題となっている.そこで,認知症に対して,早期発見,早期診断がまず重要である.同居者がおらずに一人暮らしのケースや,同居人がいる場合でも,認知機能低下が尐しずつ進行するため,認知症に気づかれないでいるケースも多い.ドイツで行われたRCT(Randomized ControlledTrial)では,自宅住まいの高齢者に高齢者総合機能評価(CGA),およびその結果に伴う管理を行った
場合,認知症の早期診断がつきやすくなったことが報告されており1),本人,家族の話だけでなく,MMSE,HDS-R,ADL などのスケールを用いて評価を行うことが早期発見,早期診断に重要と考えられる.
また,施設入所中の高齢認知症女性患者を調査した結果,MMSE がADL だけでなく,老年症候群数や貧血,栄養状態などとも関連しており,高齢者総合機能評価(CGA)が認知症患者の包括的医療の実践に有効とする論文も報告されている2).
次に,認知症患者において問題となってくるのは,興奮,妄想,徘徊などといった周辺症状(BPSD)である.こういった症状は,環境やストレス,気分の変化に伴って出現することが多い.認知症が背景にあり,急性疾患(感染症,脳血管障害,低栄養など)のため,救急部に来院した患者を対象としたRCT では,在宅医療にした群と入院治療にした群の間で死亡率に差はなく,在宅医療にした群では,退院の時に睡眠障害,攻撃性,摂食障害といった行動障害は有意に尐なく(P<0.001),抗精神病薬の使用も有意に尐なかった(P<0.001)と報告されている3).しかしながら,この在宅医療は,入院医療と同じくらいの医療レベルで行っており,注意が必要である.ただし,環境変化により周辺症状が出現することは多いため,可能な限り在宅医療で診ていく方が良いことには変わりないと思われる.また,認知症患者の行動異常に対し,コリンエステラーゼ阻害薬,抗精神病薬といった投薬が介護負担をわずかながら有意に軽減し(抗精神薬では平均差:0.27,95% CI:0.13–0.41,コリンエステラーゼ阻害薬では平均差:0.23 ,95% CI:0.08–0.33),介護時間を減らした(平均差:41.65 分/日,95% CI:25.29–58.02),との報告がある4).ただし,抗精神病薬の論文は1 報しか含んでおらず,副作用にも注意が必要である.同様にメマンチンについても,メタ解析があり,神経精神症状を評価す
るNPI(the Neuropsychiatric Inventory)スコアが1.99(P=0.041)改善したと報告されている5).認知症の非薬物療法としては,心理学的なもの,認知訓練的なもの,運動,音楽など芸術的なものに大別できるが,認知症自体に効果があるというエビデンスはまだ乏しい.ただし,グループ運動群,自宅運動群,通常地域ケア群に分けて12 ヵ月経過を追ったRCT では,運動機能を示すFIM(FunctionalIndependence Measure)が,グループ運動群-7.1 (95% CI:-3.7 to -10.5), 自宅運動群-10.3 (95% CI:-6.7 to -13.9),通常地域ケア群-14.4 (95% CI:-10.9 to -18.0)であり,全ての群で低下しているものの,介入群では低下が尐なかった.また,介入群の方が転倒も尐なかった(P=0.005).社会的および健康的ケアサービスの費用は,通常地域ケア群が最も高く,それと比べると自宅運動群は有意に尐なかった(P=0.03)6).以上から,予後を考えた場合に安全な範囲での運動療法は勧められると考えられる.
また,認知症患者だけでなく,介護者も含めて治療を考える必要がある.実際,ケアマネージャーが定期的に訪問し,家族の健康状態を把握し,ケアについての教育や精神的サポートをした群では,通常ケア群に比べ認知機能を示すMMSE は変化しなかったが,介護負担を示すFCBI(the FamilyCaregiving Burden Inventory)(P<0.001),QOL を示すWHOQOL-BRFF(the World Health OrganisationQuality of Life Measure Brief Version)(P<0.001),NPI(P<0.01)が改善し,施設入所数(P<0.01),施設入所期間(P<0.001),サービス利用を示すFSSI(the Family Support Services Index)(P<0.01)の減尐を認めたと報告されている7).その他にも,ストレス刺激閾値漸減モデルに基づく介護の精神教育を行った群では,認知機能や認知症患者の問題行動を示すMBPC(the Memory and BehavioralProblems Checklist 1989R)が改善した(P<0.01)と報告されている8).デイサービス,デイケア,ショートステイといった施設利用は介護負担を減らす9).また,デイケア使用群と非使用の対照群を9 ヵ月フォローした結果,認知症患者の生活状態や認知機能の低下を抑えた(P<0.01)との報告がある10).その他,デイサービス,デイケア利用により,認知症患者の周辺症状を減らし,向精神病薬の使用を減らしたといった報告もある11),12)が,ショートステイが問題行動を改善するかどうかについては,報告によって差があり,どちらとも言えない13).